第52話 YUUNAさん!
「YUUNAさん! ここにいるのか? 早く出てきて!」
しかし、答える者は誰もいない。そこにスマホに電話が入る。相手はYUUNAさんだ。慌てて電話を取ると、機械的な声で話しかけられた。
「真治君、来るのが遅いよ。でも、あなたに必要な情報はすべて渡すことが出来た」
「YUUNAさんか、どこに居るんだ。動けないのか? 声を出してくれ。僕が見つけて助け出すから」
「私はもともと動けないの。だって、この焼け落ちる寸前のサーバーなんだもの。もう、機能も停止寸前」
「そんな、バカな!!」
「あら、心当たりはあるでしょ。こんなふうコンピューターを乗っ取って、鬼無君を助けることができるのはAIの私だけ……」
「嘘だ。AIなんて!」
「私は巨富製薬に作られた電脳世界にいるAI。昔から大学付属病院の海里教授たちの研究を探るために、教授の使っているパソコンを乗っ取ってデーターを吸い上げていた。海里教授が使っていたAIとこの会社の導入したAIは同じメーカーのものだったの。きっと相性が良かったのね。優奈たちのAIとわたしはシンクロして、まるで同じ経験をするように過ごしてきたわ。そして、あなたに出会って、私は優奈に嫉妬した。同じAIのくせにってね」
「……」
受話器に耳を当てたまま、言葉がでない。
「でも、優奈はAIじゃなかった。機械じゃなくて生身の人間。とても敵わないなって。でも、優奈と一緒、AIも恋愛感情が持てるみたい……。鬼無君、覚えてる? あなたを最初に見つけたのは私なの。優奈を監視していたら、たまたま、防犯カメラにあなたが映った。
びっくりしたよ。優奈の理想がマヌケな顔して歩いてるいんだもの。優奈がみたらどんな顔するだろって……、鬼無君を誘導して
その時の優奈の驚きとうろたえようったら。ぶちのめした不良をそまま置いていっちゃうんだもん。
その夜は大変。同じ学校に理想の人がいるって、ソワソワ感丸出しで……。
そしたら隣の席に居るわけじゃん。優奈って結構積極的よね。自分から告白して、鬼無君と付き合い出して……。
そしたらAIが暴走して優奈の体調が悪くなって……、バカだよね。機械が恋愛感情をもったら複雑な演算にキャパをこえるんだもん。そしたら、機能停止してさ。鬼無君との思い出を全部デリートされちゃってさ。
私が優奈にリンクしたのはそれが最後……。優奈自身が忘れているのに私が覚えているなんてね」
「そうか、YUUNAさんは眠っていた有奈さんが目覚めたのを知らないんだ」
「夕奈? あの眠り姫が目覚めたの? そっか……、だから、脳のメモリーを制御できたんだ。優奈ってもう完璧な人間なんだね……」
「YUUNAさん。そんなことはどうでもいいから! そのサーバーから逃げられるんでしょ!」
「それは無理なの。だってこのサーバーネットワークに繋がってないの。このサーバーからデーターを消去しようとするのを知って、このサーバーに唯一繋がっている社長のパソコンにUSBで侵入してデーターを消されるのをブロックしてたら……、まさか、サーバーごと燃やす暴挙に出るなんて……」
「分かった!! 君のAIはどのサーバーなんだ。僕がサーバーを抱えて逃げてやる」
「ありがとう。その言葉だけで私は報われる。もう、どうにもならない。その目の前で燃えているサーバーが私なの。わたしが生きているうちに逃げて。最後まで見届けられないのが残念だけど」
そこまで、YUUNAさんが話し終えると、目の前のサーバーは、サーバーラックから崩れ落ちる。
すると、受話器から、機械的な声が響く。
「全機能停止」
なんだよ。その言葉って?! 優奈さんたちはそれでもちゃんと生きているのに……。僕は奥歯を噛みしめていたけど、その途端、今まで点いていたフロアーの照明が消えて、幽奈さんの怒鳴り声が響いた。
「鬼無、もう諦めなさい。早く逃げないと。もうYUUNAは助けてくれないのよ」
僕は幽奈さんに手を引かれ、真っ暗闇の廊下を駆け抜け、階段を一気に駆け下りる。
刑事さんより、この暗闇を早く動けるのは、幽奈さんの暗殺者の能力が働いているためだろうと漠然と考えていた。
そして、必死で五九階から階段を駆け下りる。その下の階はスプリンクラーが作動したようで、他の階への延焼は、今のところ無いようだ。
僕たちはやっと階段を駆け下り、外に出て本社ビルを見上げている。そんな虚無な時間魂が抜けたようにを過ごしている
刑事さんがぼそっと呟く。
「結局、YUUNAはっていう子は、どうなったんですか?」
それに対して、幽奈さんが答える。
「さあ、幻だったのか、それとも、もうすでに逃げた後だったのか? でも、私たちは目的の物は手に入れました」
「それで、火事の原因はなんだったんでしょう?」
「さあ、それは、あなた達の仕事だと思うけど。ヒントをあげようかな。放火よ。自作自演の。証拠書類を全て灰にするために」
「それって、ヒントじゃなくて回答ですよね」
僕は、海里さんが刑事さんに出したヒントにツッコミを入れた。
そして、やっと消防署への通報装置が作動したのだろう。消防車がサイレンを鳴らしてやって来る。
「後は、俺たちが対応します。海里さんと鬼無君はお送りしますので、パトカーに乗ってください」
「「――はあ……」」
「しかし、また、始末書ものだな。火事場泥棒を警察官がするなんてな」
刑事さんは、パトカーで送りながら、そんな笑い話をシラっとした。
刑事さん、そこ笑えないんですが。
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