第51話 パトカーがサイレンを鳴らし

 パトカーがサイレンを鳴らし、タイヤを鳴らしながら、凄い勢いで公道を走って行く。

「一度、やってみたかったんだ。公道を犯人を追っかけてカーチェイスするやつ」

「刑事さん。そんな遊びじゃないんですから、一人の命が掛かっているんですから」

「分かってるって、YUUNAって子が危ないんだろう。俺達もその子には世話になったからな=」

「その通りなんです。YUUNAさんがいなかったら、刑事さんたちに助けてもらえず、僕は今頃コンクリート詰めで東京湾の底だったんです」

「でも、その女の子はなんでこんな時間に巨富製薬にいるんだ?」

「さあ、僕には解りません。というか、YUUNAさんさんに関しては、わからないことだらけなんです」

「とにかく、行くぞ」

 刑事さんは、さらにアクセルを踏み込み、車を加速させる。


 キキッーツ、鋭い金属音を残し、パトカーが止まる。黒坂署からもパトカーが出動しているみたいで、巨富製薬の本社ビル前に四台のパトカーがならんだ。刑事さんを含めて、総勢一〇名の人員だ。

 パトカーから降りてビルを見上げる。外から見る限りは人の気配は感じない。

「こっちだ」

 普段、巨富製薬に張り付いている刑事が道案内をして、社員通用口の前に出た。

「セキュリティが在りますね」

髪をハーフアップにしてメガネをかけた結奈さんが口を開く。

「大丈夫だ、人命救助のためだ。拳銃でカギをふっとばず。一回やってみたかったんだ」

「そんなことしなくても、ICカードは必要ないし、生体認証は真治君の手をかざせば、きっと大丈夫よ」

「そんな、バカな?」僕が、恐る恐る認証パネルにタッチすると、警報が鳴ることも無く、扉が開いた。

「やっぱりね。やっと、YUUNAの正体が分かって来た」

「それって、どういうことですか」

「後から、ゆっくり話をしてあげる。それより、ここって、コンピューターが管理するインテリジェンスビルだから私たちにとっては反って都合がいいみたい」

 まるで道案内をしているように、廊下のライトが進むべき方向を照らし始めた。そして、エレベーターの前までくるとエレベーターは扉を開けて待っくれている。

「エレベーターに乗りましょ」

「結奈さん、何階にYUUNAさんさんが居るんでしょうか?」

「勝手にその階がきたら止まるわよ」

 堂々と行動する結奈さんに対して、僕や刑事さんはおっかなびっくりしながら、エレベーターに乗り込んだ。

 エレベーターの中には、案内を示す案内版が掲示されている。

「社長室や役員室は、最上階の六〇階か、こんな一等地の高層ビルからみる景色は最高でしょうね。でも、その景色も、きっと今日までね」

「えっ、それはどういう事ですか?」

「言ったままよ。巨富製薬は自ら墓穴を掘った。自分たちを守るはずのYUUNAを敵に回してしまった」

 すでに結奈さんには、すべてがわかったようだった。

 YUUNAさんって敵に回すとそんなに怖い人なのか? なんで、そんな人が僕を知っているんだろう?

 僕がエレベーターの階を示すデジタル表示をみていると、エレベーターは五九階で止まった。

 エレベーターの扉が開くと、エレベーターの中に煙が入ってくる。五九階はすでに火の手が上がり、煙が充満しているのだ。

「火事だ!!」

「スプリンクラーは作動しないのか?」

「無駄よ。証拠がすべて燃え尽きるまで、スプリンクラーは作動しないわ。この階のスプリンクラーの電源は元から切られているみたい。それより、早く犯罪の証拠となる書類を持ち出すのよ」

 結奈さんが、慌てる刑事たちに、冷静に支持を出す。

 僕が周りを見回すと、一台のパソコンの電源が入り、立ち上がる。そのパソコン画面には、、「重要書類は右奥金庫」と表示されている。

「右奥にある金庫です」

 僕がそちらに向かって走りだす。それに刑事さんたちが続いた。そして扉の前では、再びセキュリティがあるが、僕が倉庫の取っ手に手を掛けると、簡単に扉が開いたのだ。

「この中に、犯罪の証拠になる書類が在るんですね?」

 刑事さんに聞かれるが、しかし、かなりの量の書類が煩雑に置かれている。これでは必要な書類が見つけられないと絶望していると、僕の後ろに結奈さんが立った。

「そのファイルナンバー、七から一六までと、二六から三八、それから、こちらの棚の一一五から一五〇まで、 あと、三〇〇から三二〇まで、持って逃げるわよ」

 刑事さんに指示を出す海里さんには、はっきり目の下にアイシャドウのような隈がある。

 なるほど、お宝さがしの嗅覚を持つ幽奈さんか。

 そして、火に巻き込まれる前に脱出しようと元来た道を帰ってくると、さっき電源の入ったパソコンに、今度は怪しげなファイルが表示されている。

「真治君、これは私がダウンロードしておく。あなたは、YUUNAを探して! きっとサーバー室にいるから」

「サーバー室だって? そう言えば、メールにもそう書いていた」

「そうよ。早くいってあげて」

 サーバー室は、この階の一番奥だ。やはり厳重に入室管理されているが、それも僕は簡単に突破できた。

 ここが、火元のようで、すでに煙が充満していて、火の勢いも相当強い。僕は顔に迫りくる熱風を腕で遮りながら必死で呼びかけた。


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