第50話 ネットで注目を集めるので

 ネットで注目を集めるので、マスコミでも遅まきながら、このウェブ小説を話題しだした。

 そのタイミングで海里優奈さんの誘拐に始まり、媚薬騒動、レイプ騒動などの半生の記事が出ることで、世論は大きく僕たちに好意的に動き出した。

 これは、海里さんが黒坂署に出入りしている間に知り合った記者クラブの警察番に頼んで記事にして貰ったものらしいのだ。

 もともと、犯罪者の人権には否定的で、卑劣な手口には容赦のない非難で社会的制裁を加えるのが報道の在り方のスタンスの出版社で、優奈さんは最初からこの番記者に目を付けていたのだ。

 巨富製薬のの社会的地位が見せつけることで劣等感を抱かせ、その社会的地位が高ければ高いほど卑劣な手口を晒してやれば正義感を煽らてて世論を味方につけていく。本当は只、安全なところから他人を引きずり降ろしたがる無責任な非難なんだけど……、これこそが結奈さん狙っていたプロパガンダだ。

 僕自身は非難するってことは非難される覚悟があるってことなんだと覆うんだけど……、その覚悟がないと簡単にマスコミの扇動に乗ってしまって、気が付けば取り返しのつかないと頃に追い詰められると思うんだけど……。

 でも、今回は世論のあと押しを得て、巨富製薬には警察や検察が任意で事情を聴くために出入りしても国家権力に大ぴらにはジャマされなくなってきたみたいだ。

 もちろん、今の段階では、巨悪組との繋がりは自首してきた不良グループが持っていた巨悪組と巨富製薬の覚書きのみで、決定的な証拠はない。任意で訊ける話などたかが知れている。


 しかし、そのことに脅威を感じた巨富製薬の社長や役員は、過去の事件の証拠を消すことに奔走しだしたのだ。

 まずは収賄関係の書類の持ち出しだ。しかし、重要書類が置かれた金庫の扉の暗証番号がいつの間にか書き換えられていて、倉庫を開けて入ることができない。

 さらに、収賄にかかわる交渉経過や金の受け渡し方法などが書かれたやばい文章や、その他大学教授たちに依頼した投薬治験の改ざん資料など保管しているサーバーから、それらの文章を削除しようとすると、保護の画面が出ていかなるIDやハスワードも受け付けない。

 巨富製薬の証拠隠滅は遅々として進んでいなかった。

 焦りが出始めた社長をはじめとする役員たちに、海里さんの記事は衝撃だった。

 買収したコメンテーターが上手く、証拠がない妄想だと誤魔化していたが、それさえ視聴者には反感を買ったようだった。

 

 いままで、まったく真相についてはわかっていなかったはずなのに、なぜ、ここに来て、次から次へと昔のことをぶり返す話題がでてくるのか?

 なにかを掴んだにしろ、巨悪組に任せていれば、いずれ「死体に口無し」で、巨富製薬に不都合なことは及ばない。そう考えていたのだが、現実は小娘に巨悪組は解散寸前まで追い詰められ、政府高官たちの息の掛かった新塾署を飛び越えて、検察がじきじきに捜査を開始している。そして、その手足となっているのは黒坂署である。

 政治家を使って脅しても、黒坂署の署長は「いや、検察から依頼されて」とのらりくらりとかわしながら、巨富製薬の懐に飛び込んでくる。

 巨富製薬は、海里優奈が鬼無真治の頭突きによって、もともと生まれた時から眠っていた人格が目を覚ましたことなどまったく知らない。

 そして、社長をはじめとする重鎮たちは、社長室で遂に最後の決断を行うのだ。

 しかし、その会話の一部始終を、防犯カメラから盗み見ていたものがいた。


 それから、数日後の深夜、ぐっすり寝ていた僕のスマホに入ったメールの音でたたき起こされた。相手はYUUNAとなっている。

「助けて、私、壊される。いま、巨富製薬の本社のサーバー室にいるの。真治君助けて」

 なんのことだ? 巨富製薬のサーバー室にYUUNAさんがいる? 

訳がわからなかったけど、、すぐ海里さんに電話を掛けた。

「もしもし、海里さん。いまメールが来た。「助けてっていうメールなんだよ。YUUNAナさんからだ」

「ちょっと、鬼無君、メールがどうしたの」

 電話に出たのは優奈さんぽい。僕は、すぐにでも巨富製薬の本社に行かなければならないことを、優奈さんに訴えた。YUUNAさんは、せっぱ詰まっている様子だった。早く言ってあげなければ……。だがどうやっていく。電車もバスもこの時間は走っていない。

「真治君、落ち着け。私もすぐ行くから、巨富製薬で合流しよう。メールの内容は私のスマホにも転送しておいてくれ」

 えらく落ち着いた口調だ。これは結奈さんか。おかげで僕も少しは落ち着いた。そしてメールを確認すると。今までのようにYUUNAさんから来たメールの記憶が残っていた。

「結奈さん。メールが残っているんですよ?YUUNAさんよっぽど焦っているんだ!」

「落ち着けって! 鬼無君と私には黒坂署の刑事が、万一のために、いつも護衛で付いているだろ。その人たちにメールを見せてお願いするんだ」

「あっそうか! パトカーなら一五分ほどで巨富製薬に着きますね」

「わかったか。こちらも刑事さんにお願いするから」


 僕は家を飛び出し、刑事を探す。刑事さんも深夜のこの時間に僕が飛び出したことで、なにかあったのかと、慌てて僕の方に飛び出してきた。

「刑事さん。あの……、このメールを見てください。僕、助けに行かなくっちゃ!」

「なにがあったんだ。もっとわかるように話してくれ」

 僕の言葉に困惑する刑事さんの携帯に電話が入る。

「なるほど、わかった。そちらは? うん。海里さんを危険な目に遭わせるなよ。鬼無君。すぐパトカーに乗れ、話は大体分かった。海里さんも巨富製薬に向かったらしい」

 なるほど、今の電話は、海里さんに付いている刑事さんからか。それにしても海里さんの行動は早い。

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