第49話 後に残った署長は

 後に残った署長は、その場にいた刑事たちに檄を飛ばしていた。

「これから、海里さんと鬼無君から目を離すな。それで、海里さんたちに危害を加える奴がいたら、構わねえ、その場で確保しろ。責任は俺が取る!

 俺は、これから、検察庁特捜部に出かけて来る。各自しっかりな!」

「「「「 了解。ボス! 」」」」

「お前ら、ボスは止めろ!」

 そういいながら、署長は無意識に、あの刑事ドラマのBGMで流れる音楽を口ずさんでいた。 


警察と検察の動きは早かった。翌日の朝には黒坂署が巨悪組に強制捜査に入り、密輸された拳銃や、その他、もろもろの書類を押収して、組長を初めとするすべての組員は逮捕され余罪を追及されるようになる。

もちろん、押収された書類の中には、色々な犯罪を立証できる内容も多数あった。しかし、巨富製薬と巨悪組との覚書やお金の受け渡しの書類、それから、佐藤が逮捕され、海里さんとの関係が発覚する前に、海里さんを殺(け)す依頼などの証拠はいくらガサ入れしてもでてくることはなかった。。


 マスコミは、巨悪組のこれら極悪非道の行いと手口を、連日連夜、放送していた。殺人、強盗、傷害、脅迫、そして売春を目的とした人身売買。

 マスコミの対応は海里さんに同情的になったと思ったら、すぐに報道されることは無くなった。


*************


 しばしの平穏を取り戻した僕たち。

そういう訳で週末は、時々二人で出掛けている。

「それにしても、マスコミってひどくありません。あれだけ、海里さんの事を報道していたのに、当事者じゃないって分かった途端、報道そのものが無くなって。報道の訂正や、お詫びがあって当然じゃないですか」

「しかたないよ。マスコミってそんなもんでしょ。かってに祭り上げておいて、違っていたら、また、別のお茶の間の興味のあるものを追っかける」

「それにしたって」

「そう、弁明の機会も与えられない。私たちってマスコミに逆襲したらダメかしら?」

「それって……。何を考えているんですか?」

「さあねーー」

そんな話をしながら海里さんの家の門をくぐる。


なんと、あれから、僕は海里さんのご両親の許しが出て、海里さんの家を訪ねることも出来るようになっているのだ。おまけに、今日は、夕食にも招待されているのだ。

僕はめちゃめちゃ緊張したがご両親は大変気さくな人で、優奈さんの眠り姫症候群が治ったことに大変感謝されて、こちらは恐縮するばかりだった。

その時の話もでたが、もちろん、海里さんが観覧車から宙吊りになったことをごまかしつつ、僕の涙で目覚めたことを結奈さんは感動的にパパとママに話している。すでに何度も話しているようなのだが、この話が出ると、優奈さんのママは感激して、また涙を流しているのだった。


その前は、僕の家にも、海里さんがやって来たのが、僕の母親は、海里さんの美少女ぶりに、目を丸くして、あり得ないという顔をして僕の顔と海里さんの顔を見比べて絶句している。

(何ですか。その自分の息子を信じられないという顔で見るのはやめてください。しかも、この後、さらに両親を驚かせることになるようですから)

まあ、こんな具合に、過ごしてきたのだが、


そんな時、僕のお気に入り作家のエクセレント・カリンがWEB上で新作の投稿を始めたのだ。彼女のフォロワーは一〇〇万人以上、すぐにネット上で話題になっていた。

その小説の題名は「七変化美少女と二次元少女の痛快事件簿」というものだった。

内容は、現代に転生したた少女が誘拐されたことをきっかけに、前世は魔法使いだったを思い出した。その誘拐は単なる誘拐ではなく、彼女の両親が開発した新しい技術が、大企業の既得権を揺るがしかねない大発明だったため、その大企業が暴力団を使って、両親の研究の邪魔をしようと、彼女に危害を加えて研究を辞めさせようとする物語だった。

誘拐されたショックで、前世を思い出した彼女は魔法を使おうとするんだけど、こちらの世界は魔法の元となるマナが少なくて前世のような魔法が使えない。そんな時に現れた男の子と偶然したキスがきっかけで、この世界で不自然じゃない魔法に合わせた人格に変えることで使えるようになったのだ。

その少女の人格はツンデレ、ヤンデレ、拳闘士に天才軍師、アサシンに踊り子、そして天然系と、ピンチの場面で人格が入れ替わってピンチを乗り越え、大企業を追い詰めていく。しかし、決め手がなく大企業の牙城はなかなか崩せなくてイライラする展開だ。

少女の個々の人格に振り回される男の子の視点で紡がれる話は、テンポが気持ちよくって、コミカルでそれでいて心理描写に優れていて、どんどん話に引き込まれ、次の更新が待ちどおしくてしかたない。しかも魔法少女はユウナで振り回される男の子はシンジという名前だ。

 あれ、これって僕たちのことにそっくり?

 そう思ったのは僕だけではなかったようで、ツイッターとかSMSで不良グループと巨悪組と巨富製薬の繋がりをあからさまに話題にするようになった。これってもしかして僕たちを援護するマッチポンプ?!。

 そんな僕にもカリンさんがツイートしてくれるからますます嬉しくなる。

「後半は、二次元美少女が出てきて大どんでん返しがあるから」


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