第48話 最後の授業の終了の鐘が鳴り
最後の授業の終了の鐘が鳴り、僕はやっとこの重苦しい雰囲気から解放されホッとする。しかし、帰りにはマスコミ各社に付きまとわれるのかと思うとまた気が重くなる。そんな時、隣の幽奈さんが僕に声を掛けてきた。まったく、僕でさえ声を掛けられて初めて気が付くなんてこの人の認識阻害の能力って……。
「鬼無君。警察から連絡が在った。今日、事情聴収したいから、黒坂警察署に来てほしいって。パトカーが迎えに来るらしい」
「それは、よかった。帰りもマスコミに付きまとわれると思ってましたから」
幽奈さんが、そう言うと、教室の窓からパトカーが校門の前に止まるのが見えた。
そして、幽奈さんは、おもむろに髪をツインテに結び直すと、拒絶オーラを身に纏う。
「いくわよ。鬼無!」
久しぶりに聞く、雄奈ぶしだ。
パトカーに乗って、すぐに刑事さんが、雄奈さんと話を始める。
「今日、昼ごろ、昨日、海里さんの自首を勧められたと、傾奇町の不良グループが自首してきた」
「そうだったんだ。思ったより早かったみたい」
「それで、海里さんに貰ったと巨悪組と巨富製薬の覚書を持って自首してきたんだ。あの覚書、海里さんはどこで手に入れたんだ?」
「それを言えば、証拠として、取り上げてもらえるのですか?」
「それは……」
「難しいですよね。大体、いくらでも捏造できるワープロ打ちですもんね」
「ところで、、巨悪組に銃刀法違反や暴行傷害なんかで、強制捜査に入ることになったんだ。まあ、白昼堂々あそこまでのことをしでかしたんだ。もっとも、黒坂署が動くなんて想定外だったろうけどな。そこで、あの覚書の原本が出てくればいいんだけど……」
「強制捜査ですか……。警察とすれば、まず巨悪組が壊滅を目指しますよね。、巨富製薬は無理としても、それでも巨悪組に私以外にも苦閉められて大勢いると思いますから。警察によって救われると良いですね」
そんな話をパトカーの中で警察官と雄奈さんがしている内に、黒坂警察署についた。
そして、僕と雄奈さんは署長室に招きいれられた。
署長の席には、よれよれのスーツを着たさえない感じの男が座っている。
そして、署長は雄奈さんと僕を見て、眼光鋭く目を細めた。
それに対して、警戒を強め拒絶オーラをマックスにする雄奈さん。しかし、署長は何事もなかったように、僕たちに席に座るように促したのだ。
「なるほど、私はいきなり警戒されているらしい。だったら、言いたいことを言わせてもらうが、君たち、危険なことに首をつっこむな!」
「あの、私たちがなにをしたとおっしゃるんですか?」
丁寧な言葉使いに毒を乗せて、雄奈さんが吐く。
「ははっ、なかなかきついな。一昨日から、君関係の古い書類関係を調べさせて貰った。幼いころの誘拐事件に、自首したグループとの抗争。それにグループが持ってきた覚書が絡むとなると……、すべての黒幕は巨富製薬となるとな」
へえー、それだけの情報で、この署長さん巨悪製薬にたどり着いたんだ。現場のたたき上げの刑事の勘ってやつか? 僕が内心感心していると、雄奈さんは核心を突くとともに、暗には何も期待していないということを含んだ言葉を吐きだした。
「つまり、警察では荷が重いっと?」
「まあ、そんなところだ。前の署長が捜査の中止を命令したのも、わからないでもない」
「まあ、警察には期待していません。せめて巨悪組さえ、何とかしていただければ……。それも難しいですかね? 新塾署との所轄争いがあれば……」
「そこは問題ない。告訴するのは検察正だ。俺の知り合いにたたき上げの骨太の検察正がいる。俺たちのやっている捜査はそいつが捜査依頼していることになっている」
そこで、雄奈さんの雰囲気が変わり、胸ぽけっとたらアンダーリムの眼鏡を掛けた。
なるほど、結奈さんの登場か。さすがに、僕以外の人の目の前で、髪の色や眼鏡を突然出すわけにもいかないだろう。
「それを聞いて安心しました。昔のように事件がもみ消されるのかと思いました」
「ふうっ、俺をその辺の点数稼ぎの事なかれ公務員と一緒にするな」
「だったら、これも出しておこうかしら」
そういって、二枚の紙を署長に渡す。
「うん? これは!」
「一枚は、かって私が誘拐された時の犯人が持っていたワープローの文章、もう一枚は、巨富製薬の献金リスト。過去の厚生大臣から現役まで、それに厚生省の高級官僚や大学教授まで。献金した額と、日付が書かれた一覧です」
「どこで、こんなものを手に入れたんだ?」
「えっと、巨富製薬のサーバーから。巨富製薬の内部に協力者がいるみたいなんです。私たちも良くわからないだけど、なんか、鬼無君にご執心で」
そういうと、結奈さんから冷たい空気が僕の方に流れてくる。
はっ? 内部に協力者? そんなの心当たりさえないんだけど……。いや、佐藤の持っていた端末を操作した時、まったくコンピューターに詳しくない僕が、あっという間に巨富製薬のサーバーに侵入できたのって……、そう考えればつじつまが合う。
署長は、その雰囲気も意に返さず、言葉を続ける。
「なるほど、うちの刑事に電話を掛けてきたYUUNAという女の子か」
「たぶん。私もまったく心当たりがないんですけど……」
「鬼無君にもないのか?」
「ええ、今言われて初めて気が付きました。面識も心当たりもありません。なぜ、こうも僕たちの行動が分かるのか? まるでストーカーされているみたいです」
「うーん。その人に協力してもらえると助かるんだが……」
「こちらから、連絡を取ることは不可能です。メールも電話の記録もすぐ削除されてしまうんです」
YUUNAさんの事で、僕に話を振られたが、僕もYUUNAさんに関しては、まったくわからない。
「でも、僕が困っていると、きっと助けてくれると思うんです」
僕は、確信をもってそう答えた。
「だめだ。これ以上、危険なことに首を突っ込むな! YUUNAさんにも危険が及ぶかもしれないんだ。とりあえず、おとなしくしといてくれ。巨悪組に関してはこちらで動きを封じるから」
そう言って、くれぐれも勝手な行動をとらないようにと釘を刺されながら、僕と結奈さんは署長室をあとにした。
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