第47話 そして翌朝、家を出ようとしたら
そして翌朝、家を出ようとしたら、家の周りには、大勢の報道陣が取り囲んでいる。僕は慌てて海里さんに電話を掛けた。
「もしもし、海里さん。僕の家の周りに報道陣が殺到していて」
「そうだ。私の家のまわりでもそうだ。一昨日の大学付属病院での強姦未遂事件の取材だろ。まったく、うっとおしいんだ」
今、電話に出ているのは、知的な感じがする。きっと、結奈さんだな。
「すみません。それで、どうしたら?」
「ノーコメだ。無視して学校に行けばいいんだ。さすがに、学校の中には入ってこれないだろう」
「そんな、僕、雄奈さんみたいに、拒絶オーラなんか出せないんですよ」
「だったら、家から出ないで、引き込んでいればいいと思う。とりあえず、こちらからは一切、報道機関には情報を出さない。すでに、私の写真が、金髪なものだから痴情とか金のもつれとか、いろいろかってに報道され始めている。ただ、鬼無君をびっくりさせたかっただけなのに裏目に出た」
「だったら、事実を言った方が……」
「こういう場合は、こちらが被害者で、同情を集める要素が集まるまで沈黙を守るの。街中でのインタビューなんて、報道の都合のいいように、勝手に編集されて、流されるんだから。やるなら記者会見を開くの」
「記者会見って?」
「もう、出る時間だから、電話を切るわ」
そう言って、電話を切られてしまった。
仕方なく、僕は、家を出て、学校に向かう。テレビカメラやマイクが僕を追っかけて来て話し掛けるのだが、その都度、マイクやテレビカメラの調子が悪くなるようで、僕の周りは、そちらのトラブルの対応の方がやかましくなってきた。
そういう訳で、学校に着くころには、ほとんどの報道機関が、出直しすると言って、帰ってしまっている。
僕が、学校の校内に入ると、すぐにスマホに差出人不明のメールが着信した。
メールの内容は、「うっとおしい取材陣は排除しておきました」だっだ。
どうやら、テレビ機材の故障は、メールの座仕出し人が原因だったみたいだ。また、だけかに助けられた。YUUNAさんといい僕たちの味方が他にいる。YUUNAという人、巨富製薬のサーバーにもぎり込めたことか考えれば色々思い当たる、僕はこの時点で今までの疑問が確信に変わった。このことは海里さんに言っておかないと、そう考えて、校内を探すが、海里さんは見当たらない。
そして、教室に戻ってきて、席に着いたところで、隣からいきなり声を掛けられた。
「真治君、大変だったでしょ」
「えっ、海里さんそこにずーっと居たの?」
「そうよ。気が付かなかった?」
首を傾げる海里さん。殴られたほほが腫れていて痛々しい。それを隠すように、ツインテだった金髪の髪をほほにかかるように下している。それに、目の下にはアイシャドウを塗ったような隅がある。
この隅は昨日の戦闘の焦燥感とは違うと分かった。
「なるほど、幽奈さんか。僕はてっきり雄奈さんでいると思っていたから」
「雄奈の拒絶オーラは、反ってマスコミの印象を悪くしそうだから、認識阻害でマスコミを捲いてきた。
それにしても、今朝の報道見た?
「僕、朝はテレビなんて見ないし。この取材攻勢って佐藤の婦女暴行事件の件じゃないんですか?」
「なにいってるのよ。巨悪組の人たちが掴まったのよ。何しろ傾奇町で発砲事件でしょ。まあ、巨悪組の捕まった人たちは、銃刀法違反については認めているけど、あたいたちを襲った理由については黙秘しているらしいの。
それで理由をマスコミが推測で、でっちあげたんだけど、マスコミの筋書きなんてひどいものよ。自分たちのなわばりで勝手なことをする派手な行動をするあたいたちを、組織に取り込もうとしたらしい。そういう場合は、暴力団が女の子に付け込んで、暴力団の資金源にするらしい。暴力団に詳しいコメンテーターが言っていた」
「派手な行動って?」
「あの界隈でフリーで客を取ってるって。暴力団はそういう女の子に近づいて骨の髄までしゃぶりつくすらしいよ。真治は人畜無害で気の弱そうな顔をしているから絶好のカモらしいよ」
「そんな、信じられない……」
「なんか私の知り合いって子が顔を隠して声かけて話していたみたい。一週間ほど休んだ後、学校出てきたら、金髪で化粧していて、大人しい子がこんなに変わるのって休んでいる間に絶対何かあったんだって」
「何だよ。やらせみたいなその証言!」
そう言いながらも、海里さんは成績優秀だし、美少女だからどこかで恨みを買っていても別に不思議なことじゃない。
「だから、朝から職員室に乗り込んで、誰が写真を提供してテレビで証言したのか問いただしたんだけど……、分からないって、報道陣の取材にいい加減なコメントをしないように全校集会を開いて話をするって」
さすが海里さんだ。僕ならとてもじゃないけど、教師に直談判なんてできない。
「じゃあ、御咎め無しなんですか?」
「そうはいかなかったのよ。どうしてあんなところに居たんだって聞かれたから、知人を訪ねてです。そして帰る途中でトラブルになって……、て言ったら、今後は絶対に傾奇町には近づくなって、今度、近づいたら停学だってさ」
「それは厳しい」
「元々近づく気はないけど……。もう、期待はあの不良グループが自首して、極悪組の指示であたいを襲っていたって証言して貰らわないと身動きできないよ」
そう云うと、幽奈さんは難しい顔をしたまま押し黙ってしまった。
そうして、幽奈さんは、その日は一日中、認識阻害のオーラを身に纏って、クラスメートの好奇な目から逃れていた。
そして、僕は、たまたま、そこに居合わせただけの存在だったみたいで、二三、話を聞かれたが、「わからない」と答えると、それ以上は、聞かれることは無かった。
この辺り、クラスメートと僕の関係は、相変わらずの平常運転なのだ。噂の対象としてさえ、僕と言う人間は除外されているらしい。
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