第45話 すでに、勇奈さんは優奈さんに代わっている
すでに、勇奈さんは優奈さんに代わっているようだ。それが証拠に金髪のポニーテールなのに前髪がピコンと立ち、さっきまでの気丈さが失せて涙目になっている。
「ありがとう。いままでの人生でこんなに嬉しかったことはありません」
深く深く頭を下げながら、泣いている。
「海里さん。俺たちは、微笑んでいる海里さんが大好きなんだから、笑ってよ」
「そうそう、俺たちのアイドルに涙は似合わない」
「ふふっ、そうね。私には涙は似合わないよね」
優奈さんらしく、優奈さんの身体から萌えオーラが全開になった。
優奈さんや刑事さんたちもやっと興奮が冷めて来たようだった。そこで、僕もやっと疑問を口にすることができた。
「あの……、刑事さん? なんで海里さんが危ないって分かったんですか?」
「ああっ、それなんだけどさ。俺のスマホに電話は入ったんだよ。YUUNAって名乗る女の子から、「真治君が危ない。助けて上げって」」
「えっ、海里さんじゃなく、僕を名指しで」
「そうそう、それで、真治って誰だって思っていたら、今度は、君たちがヤクザ風の男に追いかけられている動画が送られてきたんだ」
「動画ですか?」
「たぶん、この辺にある防犯カメラの画像だと思うんだけど、そこで海里さんが大立ち回りを演じていたんだけど、多勢に無勢で、どんどん追い込まれていって。
なんと、今度はGPSの画像が送られて来て、きっと、男たちはここに追い詰める気なんだって。ここは防犯カメラがない死角になった場所なんだよ。たぶん、新塾署がここに防犯カメラをワザと、設置していないと思うんだけど……」
「そうなんですか……」
「ああっ、俺は焦ったね。すぐに、黒坂署にいた刑事全員に声を掛けて、署を飛び出したってわけ」
「それで、パトカーのサイレンは?」
「あれは、ほら、あまりに遠くから鳴らすと、気が付かれて逃げられちまうだろ。それに、焦ったあいつらが、逆に君たちに危害を加えるともかぎらない」
「そうでしたか。そのNUUNAっていう子にもお礼を言わないと」
「その子な、なんか抑揚のない機械的な話し方で、かかって来た電話番号に掛けて見たら、現在使われておりませんだ。なんとも不思議な電話だったな」
僕は結奈さんが何かやったのかと思って、優奈さんを見たが、優奈さんも知らないというようにかぶりを振った。
(そらそうだよな。あの逃げ回っていた最中に、そんなことができるはずないか)僕はそう考えるしかなかった。
「ところで、なんで海里さんたちは、ヤクザに追いかけられることになったんだ?」
「えっと、それは、あるグループに自首することを勧めに、ここに来たんです」
「あるグループって」
「いえ、あの人たちはきっと自首してくれるはずです。だから、それまでは黙っています」
思わず僕は叫んだ。
「それは無理だよ! さっきだって、極悪組に電話を入れられてこの騒ぎになったんだぞ」
「あれは、私が覚書を見せる前に、リーダーではなくそこにいた女の子が電話を掛けていました。私の説得が心に響かないはずはありません。だって、わざわざ私たちに逃げろなんて言わずに、あそこで極悪組が来るのを待っていたらよかったんですよ」
優奈さんの口調では、珍しく毅然とした発言だ。
「そうか。じゃあ、海里さんを信じて、そいつらが自首するのを待っているよ。なに、こいつらをしょっ引くのに、銃刀法違反に、傷害、しょっ引く罪名には困らない」
「あっ、刑事さん。一応、この人たちとの会話も録音していますから、録音器お渡ししておきます」
「そうなのか、助かる。でも君たちも一応、証人として話を訊きたいんだけど?」
そこで、珍しく、優奈さんが刑事さんの申出にかぶりを振った。
「今日は、無理です。服も破れているし、頃合いを見て連絡します」
「ああ、わかった。俺たちもこいつらを連行するための車もやっと来たようだし、とりあえず、君たちを駅まで送るよ。やれやれ、ボスに言い訳を考えておかないとな」
「本当にありがとうございました」
駅まで送ってくれた刑事さんにお礼を行ってパトカーを降りる。
「よし、今日の予定は終わりです。鬼無、君にも色々迷惑をかけたね。それにしても、いちいちヘアスタイルを変えるのって、めんどくさいね。警察の人たちは突っ込まないから助かったけど……」
そう言いながら、髪は金髪ポニテから銀髪ツインテに結び直している。優奈さんから雄奈さんに代わったんだ、そうか、あれだけのことがあっても、アイデンティをきっちり主張していたんだ。
「鬼無、食事にでも行こうか?」
「そうですね。時間をみたら急にお腹がすきました」
「あんな修羅場の後だし。ロマンチックに行こうよ。海を見に行かない?」
そういうと、上目使いで僕の顔を覗き込む。
そこ、拒絶ブリザードを吹かせながら、言うセリフですか?でも、そこにはツッコまない。
「いいですね。海を見ていると心が和みます。それじゃ、恋人たちの聖地、山上埠頭公園に行きましょうか? 」
「そうね。そこに行きましょう」
僕たちは新塾駅から、山上埠頭公園行の電車に乗る。
電車の中で雄奈さんは、少し元気がなかった。あんなことがあった後だからか? しかし、大体、勇奈さんの足を引っぱったのは僕なんだ。
勇奈さんたちは、少しも悪くないのに。僕の気持ちは沈んでいった。
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