第42話 寝不足気味の翌日日曜日の朝

 ちょっと寝不足気味の翌日日曜日の朝、まずは、新塾駅まで雄奈さんと出かける。

雄奈さんの服装は、今日はスポーティで、パンツルックにTシャツその上にパーカーを羽織っている。すでに戦闘態勢に入っているらしい。

 この駅の裏通りの繁華街を拠点にあの不良グループは活動しているらしい。

 雄奈さんはどんどん裏通りに入っていき、ある店の前で立ち止まる。僕はやっと雄奈さんに追いついて、雄奈さんの横に並んだのだ。

「それにしても、この辺りって防犯カメラが多いですね」

「そうね。鬼無、ここら辺りは、犯罪の温床、毎日、何かしら犯罪が起こっているところだからね。なにが飛び出すやら。鬼無も気を付けなよ」

「それでここですか? キャバレー舞、準備中ですが」

「ここが、グループの拠点だ。俺が覚醒した場所だな」

いつの間にか、勇奈さんに変わり、髪をポニテに結び直していた。そしていつのも増して鋭い目を看板に向けている。気合が入っているなと考えているうちに、キャバレー舞と書かれたドアをいきなり蹴破ったのだ。

 薄暗い店の中では、五、六人の男女が驚いて、僕たちの方を凝視していたが、学生の成りをしている僕と目が合うと、

「だれだ、テメェーは! 」すぐさま吠える不良たち。

「俺の顔を見忘れたか? 」それに冷静に答えた勇奈さん。

「あん? てめえー! あの時の!、てめえのおかげで、俺らは解散寸前になったんだぞ。女一人にぼろぼろにやられて、おかげで、バックについていた暴力団にも手を引かれて」

 殺気立った不良たちに、いきなり勇奈さんの髪が銀色のツインテに変わり、銀色の光を放ちながらゆっくりと立ち上がっていく。締め切られた室内を冷たいブリザードが吹き荒れ、内部の者が飛び散っていた。これが脳力100%の開放……。

  凄んでいた不良たちが一瞬で凍りついた。

 しかし、一番奥にいた女が、携帯を取り出しどこかに電話をかけ始めた。

 そんなことなど気にもかけずに、雄奈さんは冷え切った声上げた。

「いい加減にしなさいよ。あなたたち、やくざになりたいの! なりたいならほっておくけど」

「いや、俺たちは…… 」

「そう、ちょっと社会に反抗して、粋がってみたかっただけ。でも、バックに暴力団が付いて、相手が恐れるから、それを自分の力と勘違いしちゃった哀れな勘違い野郎ちゃん」

 吹きすさぶブリザードには圧倒的な威圧感があり、不良たちの反抗しようとする意志を削っていくようだ。

「舐めるなよ……。このあま!」

「やるの。あの時と違って、あなたはもう二十歳よね。前の時はすぐ釈放されたみたいだけど、刑務所に行く根性が有るの。最近、しょぼい犯罪ばっかりやっているみたいなんだけど」

「うるさい。いつかでかいことをやってやるんだ!」

「ふーん。覚悟はあるのね。それなら、今やらない? いいネタ持っているんだけど。あなたの親の仇も討てるわよ」

「俺の親の仇?! なにを言っているんだ?」

「簡単なことよ。警察に行って、あなたたちのやったことを告発するの。あなたたちのバックの巨悪組に金を出して、私を襲わせるように指示したのは巨富製薬だって」

「それは本当なのか? もし、そうなら、俺たちや、会社を辞めさせられたおやじは、利用するだけされて捨てられたっていうことだろう……」

まさか、自分たちに巨悪組から出ていた指示が、おやじの勤めていた会社から出ていたとは、信じられないといった顔をしている。

「ここに証拠があるわ」

 巨富製薬と暴力団との覚書の写しが、不良に向かって投げ捨てられ、ブリザードで踊って不良たちの足元で舞った。

 それを拾って見る不良たちの表情が疑問から確信に変わっていく。

「本当なんだな。しかし、あの巨悪組を裏切ったらどんなことになるか……」

「なによ。でかいことをやるんじゃないの? 裏社会でふんぞり返っている奴らに一泡ふかせられるのよ?」

 そういうと、雄奈さんから勇奈さんに雰囲気を変える。

「俺の復讐に付き合ってくれたら、いままでのことはチャラにしてやるんだけどな。あとは俺にぶちのめされるか好きな方を選べ!」

「ふざけるな。いまさら知った所でもう遅いんだ。もう、お前たちの事は、巨悪組に伝えたんだ」

「ええっ、あんたたち、巨悪組に見捨てられたんじゃ?」

「昨日、巨悪組の幹部から連絡が在って、近いうちに海里っていう娘が、そちらに行くと思うから、来たら連絡しろって。上手く行ったら、過去の失態は水に流してくれるとな。もうこちらに向かって来ているはずだ」

「なるほど、MRの佐藤が捕まって手が出せないから、巨富製薬の奴ら、俺たちを消す方を選択したか! 真治、警察に電話だ!」

 僕は、携帯を取り出したが、グループのリーダーがそれを制する。

「無駄だ。この辺りを管轄する新塾署の上の方は、巨悪組と繋がっている。電話をしても本気で取り合うやつなんていない。後から、身代わりが出頭して終わりさ。早く逃げるべきだな」

 勇奈さんは不良グループをにらみつけ、口角を上げる。

「どこまでも、腐っている小物だな!」

 そう吐き捨てると、すぐさま、出口に向かう。

「真治、とりあえず駅の方に向かうぞ!」

「はい!」

 勇奈と真治が飛び出していった後を見ながら、リーダーは、勇奈が投げ捨てた覚書を拾い上げた。

「あいつ等、生き延びてくれよ。そうでないと、俺たちが出頭する意味がなくなるだろ」

 そう小さく呟くのだった。

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