第41話 海里さんから約束通り電話が入った

 そして、その夜、海里さんから約束通り電話が入った。

「もしもし、真治です。警察の事情徴収はどうでしたか?」

「ああっ、私は、待合室でいきなり声を掛けられて、怪しげなのど飴を貰った。まったく、大阪のおばちゃんじゃないんだから、そんな怪しげな人から貰った飴なんか舐めないって。ちゃんと吐き出して紙に包んでポケットにしまいました。これが証拠ですって警察に置いてきた。

 それで騙されたふりをしてしていたら、男の人にあの人目の付かない裏庭まで、引っ張って行かれて、乱暴されそうになったから、いつものとおりぶっ飛ばしたって言っただけよ」

 どうやら、電話に出ているのは、結奈さんのようだ。

「へえ、そんなんだ。それで、警察の人はなんて?」

「「海里さん、いつものように玉と竿は潰さなかったんだね」だって、まったく、一七歳の娘にいうことかしら?」

「それは、ひどい言われ様ですね」

僕は、思わず出そうになった、いつもやっているからだろうというツッコミは飲み込んいる。すると結奈さんは、さらに話を進めてきた。

「警察も、あいつだけは潰されてもしかないだろうって、すでに、媚薬を使った強姦や脅迫について、調べ始めているみたい。ただ、本人とは話ができないみたいね。錯乱状態で」

 そこで、結奈さんの話は一段落したようだった。

  そこで、僕は今後のことについて尋ねたのだ。

「なるほど。ところで、明日も予定が在るって言ってましたよね」

「そのことなんだが、真治。明日は不良グループにお礼参りに出かけるから、今から体を鍛えておけよ」

 これは、勇奈さんが出ている。やっぱり、次はあの不良グループの所にも行くのか。復讐の順番からして、うすうす感じてはいたんだけど、今回は、計画なしの力技になりそうだ。僕は無事に生きて帰れるだろうか?

「あれっ、真治、ビビってるのか? 大丈夫だよ。喧嘩をしに行くわけじゃないから」

「そうなんですか? 」

「ああっ、結奈が以前、警察のサーバーに潜り込んで調べた結果、あのグループは、暴力団の巨悪組の下部組織だったことまでは掴んでいたんだ」

「巨悪組ですか。確か、新塾の傾奇(かぶき)町を中心になわばりを持つ極悪武闘派ですよね」

「そうだ。巨大繁華街を牛耳る裏の顔だ。構成員約六〇名、準構成員を含めると二〇〇にはなるそうだ。人殺しに麻薬に恐喝、暴力事件に人身売買、犯罪と言われる物は何でもござれときやがる」

「そうか、勇奈さんと揉めていたグループってただの不良とは違うんですね」

「ああっ、それで、今回、盗んだ巨富製薬の極秘情報の中に、その巨悪組に、あのグループを援護することを条件に、巨富製薬が金を出していた覚書があったんだ」

「あの覚書、そんなことが書かれていたんですか?」

「うん、暴力団って言うのは、金持ちにとっては必要悪だからな。でも、グループが俺との抗争で、逮捕されたあの事件以来、巨悪組への金の流れが止まって、巨悪組はあのグループを見捨てようだ。もともと、巨悪組のバックがあって羽振りを効かせていたグループだから、同じようなグループから、今度は報復を受けて、今や壊滅状態らしい」

「そんな不良グループ相手にどうしようというのですか」

「いや、あのグループにこの覚書をみせて、警察に自首してもらうように説得するだけだ」

「なんで、そうなるんですか」

「いや、お前は巨富製薬に利用されただけだと教えてやるんだ」

「それで、あっさりと自首するかな。巨悪組も裏切り行為とみなすだろうし」

 ここで声のトーンが少し変わる。

「結ぶの結奈です。私の筋書きはこうです。不良グループが告発することで、警察に巨悪組から保護してもらう。警察にこの裏取引の資料を提供すれば、巨大企業と暴力団の癒着です。きっと警察も動いてくれるはずです。これは、企業にとってはかなりの痛手になるはずです」

「でも、証拠はどこにあるんですか? その裏取引の資料は、所詮はワープロ打ちで結奈さんが、印刷機から打ち出した物。誰でも作成可能ですよね。それに今日掴まった佐藤っていうひとについても、反ってあの人の極悪性が前面に出ていて、巨富製薬だって、佐藤が会社の目を盗んで勝手にやった。うちも被害者だと言い逃れするかもですよ。大体、役員の浅田とのつながりだって、証拠は録音テープだけだし、佐藤は薬で何も証言できないだろうし……」

「だからこそ、証言者が必要なんです。不良と云えど、勇奈がこぶしで語り合ったなかです。きっと、分かり合えるはずです」

「そんなに上手くいくかなー?」

「不良っていうのは単純ですからね。ちょっとした正義感と社会に対する不満を引き出せばいいのよ。根は素直でいい子たちばかりなんだから」

「わかりましたよ。なるべく筋書き通りになるように頑張ります」

「そういうこと。じゃあね」

 そう言って電話は切れてしまった。しかし、この後、メールの着信音が鳴る。

 夕奈さんからだ。そうして約二時間、夕奈さんとのメールを楽しんだあと、ベッドに潜り込んだのだ。

 

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