第40話 僕の方は、渡された端末を何気なくみている
僕の方は、渡された端末を何気なくみていると、画面が突然動き出した。
IDとパスワードが勝手に入力され、画面が動くと次から次へとホルダーが現れる。
その中には、社外秘や重要機密と書かれたホルダーが次々と開けられ、その内容が画面に出てくる。そして、それは巨悪組と巨富製薬が交わした覚書のところで止まっている。
「結奈さん。こ、これ見てください!」
「どうした、真治君?」
USBに保存を終えた結奈さんが、僕の持って入る専用端末を見て、息を飲んだ。
「こ、これって、巨富製薬の悪事の証拠じゃない! 真治君、いったいどうやったのよ?」
「別に、ただ、持っていただけなんですけど。かってに画面が次から次へと切り替わって」
「そんなはずない。絶対何かやってるはずだ」
「でも、ほんとに、何もやってないんです」
「まあ、偶然でもなんでもいっか。お手柄だ。真治君」
結奈は、早速、USBに社外秘や重要機密と書かれたホルダーごと保存していく
「それにしても、真治君にハッカーの素質があったなんて驚きだな」
結奈さんのメガネには、端末から次々に映しだされるデータが写り込んでいる。
「さて、これでOKと。後は、私たちのしたことがバレないようにしないと」
結奈さんが独り言を言うと、目の下に隈のような黒いアイシャドウを塗った瞳に変わっている。
「薬物に関しては、やっぱりあたしだよね」
そういうと、鞄からアンプルと注射器を取り出し、倒れて泡を吹いているMRの腕を取り注射器を打ち込んでいる。
「幽奈さんそれは?」
「これはね。あの誘拐犯が打たれていた精神錯乱剤を打たんだ。一応証拠品として、更生病院から盗んできたんだけど……。これで半年ほどは、この人、使い物になりませんね。その間に、あたいたちの復讐は終わらせますから」
そうなると、今度は、メガネを掛けて結奈さんに変わる。
「まあ、普段からこんな危険な媚薬を持ち歩いているぐらいです、スマホの画像が証拠になるでしょ。叩けばホコリも出てくるでしょうから。ここは強制措置入院してもらいましょう」
そう言うと、結奈さんはスマホを取り出し、いつもの黒坂警察署に電話している。
「もしもし、黒坂警察署ですか? 私です。海里です。そう、また襲われて、大学付属病院で父を待っていたら、出入り業者のMRに無理やり。なんか、その人、薬をやっているみたいで、凄く怖かったの。だから……。また、いつものようにやっちゃった。てへっ」
こら、そこ最後で、今までの怯えた演技が台無しだぞ。僕は結奈さんに心の中で突っ込みを入れたんだけど……。
「これで警察がすぐ来るから、私たちは、後は警察の事情徴収で終わりね。この人、スマホの履歴から媚薬に、強制猥褻に脅迫 警察が調べればきっと色々出てくるわね。被害者の名前も名簿に合ったようだし、この人、人生終わったかも。
それに拘留中は、巨富製薬もこの人には手が出せない。もっとも、しばらくはまともに話もできないでしょうから、私たちが誘ったことも、精神錯乱剤を打ったことも、バレることはないでしょう」
なるほど、更生病院からカルテや精神錯乱財を持ち出したことがばれても、自分たちに不利な証拠ばかりで警察にたよることもできない。こんなふうに証拠隠滅を図るとは……、でも待てよ。最悪、この佐藤っていうMRに全ての悪事を押し付けてしまって、トカゲのしっぽキリの可能性も……、僕は言葉にはしなかったが、結奈さんには僕の考えが詠まれたようだ。
「真治くん。まだまだ私たちの復讐は始まったばかりだよ。明日も付き合ってもらうからね」
そう言う結奈さんには、もう次の計画が頭にはあるようだった。
そこに、警察官が二人やってきた。そして、大学付属病院の警備員も。
「海里さん。お怪我はありませんか? 」
「ええ、大丈夫よ。この人怖いから、早く逮捕して!」
警察官が、MRのほほを叩き意識を呼び覚まそうとしたが。佐藤は目はうつろで、口からよだれを垂らし、動物のように唸っているだけだ。
「確かに、薬物の常習犯のようだ。一五時二五分確保」
佐藤の手首に手錠が掛かった。
そのあと、現場ではメガネを掛けている結奈さんが、警察官に色々事情聴収されていたが、すぐに解放され、僕の方に戻ってきた。
「録音した物はどうしますか? 警察官に聞かせますか?」
「それを使うのはまだまだ先よ。あのMRからも話を聞くって、だぶん、無駄だと思うけど……、その後、署で話を聞きたいだって。だから私はパトカーに乗っていくわ。真治くんはもう帰っていいよ。ご苦労様」
「いや、僕も」
「あなたが居た方が返って面倒だから、何が在ったかは、また夜、電話するわ」
そういうと、結奈さんは警察官について歩き出した。
仕方ないか。僕はそう考えて、大学付属病院を出て最寄りの駅まで歩いていく。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます