第39話 大学付属病院の待合室で待つこと一時間

 そして、大学付属病院の待合室で待つこと一時間、ついに巨富製薬の例のMRがやってきた。僕は結奈さんの指示どおり、海里さんから少し離れたところで、海里さんが隠し持っているマイクを通して録音するための機器を持ってスタンバイしていた。

 すでに外来待合室は人もまばらで、ほとんどは病院の事務員であった。

 すでに、赤茶色の派手な遊奈さんに雰囲気を変え、むんむんのフェロモンを全身に漂わせている。

 そうなって、そのMRに近づいていくと、遊奈さんはMRに声を掛けた。

「おじさんは、あたしが中一の時に、のど飴をくれた人じゃないの?」

 声を掛かられたMRは、一瞬、固い表情をするが、遊奈さんの潤んだ瞳や真っ赤なルージュが醸し出す色気が溢れた雰囲気に油断したのか、すぐに鼻の下を伸ばし応対している。

「えーっと、あの時のお嬢さんかな。だとすれば、君は海里教授のお嬢さん? 派手な化粧をしていたから、わからなかったよ」

 やっぱり、このMRは優奈さんを海里さんの娘と知っていて仕掛けたんだ。隠しマイクを通して聞こえてくる話は、筋書き通りだ。

「あの時、くれたのど飴とても刺激的だったわ。おかげで、あたしちょっと淫乱になっちゃたみたい。あの時、色々なこと経験しちゃったのよ」

 遊奈さん、わざとにMRが勘違いするように会話をしている。経験したのは、あなたと言う人格が生まれただけでしょう。

「あの、海里さんのお嬢さん、言っている意味がわかりませんが?」

 さすがにMRは、のど飴が媚薬入りだったことは認めないか。まあこれも想定内だ。

「また、あののど飴もらえないかしら? あたし、あれを舐めてまた乱れてみたいの。とっても刺激的だったんだもん」

「いや、あののど飴は……、まあ、別にいいですよ」

 このMRのおっさんこんな危険な薬、普段から持ち歩いているのか! 信じられない。職質でもされたらどうするんだ? そして、本当にカバンからのど飴を取り出し、のど飴を遊奈さんにあげている。こののど飴を貰った遊奈さんは、真っ赤な唇をMRにアピールしながら、食べてしまったようだった。

「凄い刺激、ちょっと、助けてもらえるかしら? 」

 遊奈さんはほほを染め、色っぽい吐息を吐きながら、MRの腕を取り、人のいない病院の中庭の茂みにずんずん入っていく。

 どうやら、本当に媚薬入りみたいだ。遊奈さんはそういう物に耐性があってあれって演技だよな。僕はあまりの様子に心配になって、気づかれないように二人の後に続く。遊奈さんは金髪ポニーテールになっていた。そしてエメラルドグリーンの瞳が鋭く細まった。

「ここまで来れば、人目には触れないかな?」

 そう言って、振り返ってMRに微笑んで見せたかと思うと、いきなり、MRの顔面を殴り飛ばした。さらに腹に重い蹴りが一発、MRが仰向けにひっくり返っている。

 相変わらず、勇奈さんの動きは、目にも留まらない速さだ。気が付けば無慈悲に勇奈さんの足はMRの股間を踏みつけていた。

「なぜ、媚薬が効かないんだ…… 」

 股間を踏みつけられて呻きながら、MRが喋った。

「ああっ、今脳内で1人悶え狂っているやつがいんよ。てめぇ、やっぱりあの時も、媚薬を盛りやがったのか! 誰に言われてやったんだ。ゴラァ! 」

 股間を踏みつける足に力が入っていて、すでにコークスクリューになっている。

「……」

「無言かよ。まあ構わねえ。股間の一物が使い物にならなくなるだけだ。知ってるかも知んないが、おりゃ、すでに一〇人以上の股間をつぶしてきたからな!」

 それを聞くと、すでに青ざめている顔が恐怖に変わる。おそらく、あの壊滅した不良グループの話を聞いていたのだろ。

「止めてくれ! 話す。あの時の上司の浅田だ。今は役員をやっている。それで左遷していた俺は再び戻ってこられたんだ」

「巨富製薬の役員の浅田か。意外と大物が引っ掛かった。ゴラァ、七年前、私を誘拐するように指示したのもてめえだろううが!」

「な、なにを言っているんだ……」

「私を誘拐した車はおめえが乗っていたやつだろうが!」

「いや、俺は車のキーを差しておけと言われただけだ。そのことはないも知らん!

「チッ、役に立たねえやつだ。しかたねえ。おまえが持っている業務用端末を出しやがれ!」

「いや、これは困る」

「ああっ、てめぇの股間と端末とどっちが大切なんだ?」

「わ、わかった」

 勇奈は、MRが内ポケットから出したスマホ型端末をひったくると、一気にMRの股間を踏みつけた。男は、口から泡を吹いて気絶してしまった。

「真治、こっち来い!」

「勇奈さん。なんだかんだ言って再起不能にしちゃいましたね」

「真治、寸止めだよ。破壊まではしていない」

 勇奈さんが、残酷そうな笑みを浮かべ、親指を立てている。

「首から掛けている入館証には、佐藤と書かれていますね」

「ああ、佐藤か。後で、経歴を調べておかないとな。あと、さっきの残りの飴玉はないかっと」

 そう言いながら、髪は黒髪ストレートに変わり、メガネを掛けている結奈さんは佐藤のポケットをまさぐり飴玉を取り出し。ポケットに入れていた。

 そして、佐藤の持っている発注用の端末をいじり出した。

「さて、私の番かな。やっぱりロックが掛かっている。生体認証か。なかなかガードが固いな。こいつの人差し指だな。IDとパスワードは、とりあえず私のモバイルにつないで、ログを引っ張り出すか。わざとに間違ったパスワードを入れて、ロックさせて、再起動、SE用裏画面が起動して、ログ画面がでてきた。パスワードの検索プログラムで解析してっと。よし、突破できた。これで本社のコンピューターに繋がった。あとはセキュリティを掻い潜りつつ、サーバーに繋がるハスワードは? さっき言っていた浅田のログインのログを調べて、ログイン。あれ、また、パスワード画面に戻った」

 結奈さんは、ぶつぶつと専門用語をしゃべっているんだが様子がおかしい。。

「結奈さん、どうしたんですか?」

「おかしい? ファイヤーオールに引っ掛からないように、専用回線の端末を使って、職員のIDとパスワードを使っているんだけど、巨富薬品のサーバーにアクセスできません。振り出しに戻ってしまうなんて、そんなことありえません?」

「そんな、どうするんですか?」

「ここまで来て、これは失敗です……。なにか、他にないのか?」

 そう言って、僕に専用端末を渡し、佐藤のポケットを必死にまさぐる。そして、佐藤のスマホを抜き出した。

「せめて、こいつのプライベートでも、掴んでおかないと。こんな風に、媚薬を普段から持ち歩いている奴は、叩けばなにかあるはずだ。このホルダーは? 開いてっと。なんだこれは、こいつは本当にゲスだな」

 そこには、いわゆるハメ撮りと言われる映像がたくさん保存されている。一応、スマホに保存されている名簿やこれらのデータを、USBに保存しているみたいだ。

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