第34話 僕は、再び、雄奈さんに声を掛けられ
僕は、再び、雄奈さんに声を掛けられ、二人で図書室に向かっている。
銀髪ツインテールの後ろ姿に見とれながら、僕は雄奈さんについていく。
そして図書室に入ると、髪型がハーフアップの黒髪になり、アンダーリムの眼鏡から僕を覗き込んでくる。
「結ぶの字を当てる結奈さんですよね。あの後、何が有ったか教えてくれるのは、やっぱり、結奈さんですよね」
「ああ、しかし、なんだこの髪の色にこの髪形は。雄奈の趣味にも困った物だ。だから、私はこうだ。真治くん似合っているか? このメガネは萌え要素が割り増しなんだろう?」
「もう可愛らしくって、それ以上の表現が見つかりません」
本当に、くりっとした瞳に似合ったおしゃれな一品だ。
結奈さんは上気した顔で、僕を見つめている。そして、目線を僕から外すと、
「感想はそれだけなのか? まあいいや。伝えたい内容はね、今までずーっと眠っていた有奈、えーっと、有無の有の字を当てるんだけど、有奈が目覚めたことによって、優奈が押し殺していた記憶が共有されて、不安と言うか、怖いものがなくなったわけだ。それで私たちは優奈に融合されそうなんだよ。それは別にいいんだけど、ちょっと、みんながビュジュアル的に自分を主張したくなっているだ。君の前だけじゃなくね」
結奈さんが、メガネのフレームを左手に持ちメガネを少し持ち上げる。知的さが増量されてお得な気分だ。
「それで、押し殺していた記憶と言うのがね、共通のキーワードが出てくるんだ」
「共通のキーワード?」
そういうと、結奈さんが優奈に変わりポツリポツリと話出した。
すると、前髪がまたピコンと立っている。
「優奈さん、その前髪が立っているのが、優奈さんのビジュアル的主張と言うか、アイデンティティなんですか? 」
「ああ、これ、手術の時、さすがに額に穴を開けると、後々、傷が残るでしょ。だから、前髪を剃って、今髪の立っている所に、一センチぐらいの穴を開けてAIを摘出したの。
その部分に植毛しているんだけど、なぜか、私が出ると、そこがピコンと立つのよね。
でも、気に入っているからいいんだけど、可愛くない? 」
「とても、可愛いですよ」
本当に、チャーミングで可愛い。でもこれ、世間一般では、アホ毛とか言うんじゃないか。癒し系優奈さんが、天然ボケ系にキャラ変することになるのかすこし残念なんだけど?
僕はそんなことを考えていると、優奈さんがいきなり重い話をし始めた。
「えーと、私が誘拐された時は、まだ小学三年生の時だったのよね。それで学校からの帰り道、知らない人に声を掛けられたの。「パパとママが務めている病院で倒れた」って、それで、その人の車、パパとママの勤めている大学付属病院によく出入りしている薬屋さんの車で、私すっかりその人の言うことを信じてしまったの。
それで、その車に乗ったら、いきなり押さえつけられて、手足を縛られ、目隠しと猿ぐつわをされて、そのまま車で走っていって、どこかの部屋に放り込まれたの。
かび臭いし、寒いし、暗いし、あまりの不安と恐怖で狂いそうになったわ。それでリミッターが外れて、夕奈の人格ができたの。おかげて私は狂わなくてすんだの」
「それで、どうなったんですか?」
僕の質問に対して、優奈さんが、夕奈さんに切り替わる。アホ毛が寝て、アクアマリンの瞳に一杯涙をためている。
「あのね。あのね…… とても、怖かったの…… 」
すると、また、アホ毛が立ち、優奈さんに切り替わった。
「やっぱり、夕奈に話させるのは無理ね。それで誘拐犯から、大学付属病院あてに要求が届いたの。一億円の要求と、パパとママの研究をやめることを要求してきたの。
大学付属病院では、大変な騒ぎになったんだけど、パパとママは慌てなかったわ。だって、AIにGPSの位置情報を発信できる機能があったから。それで私の居場所がすぐに特定できて、私は誘拐されて四時間後、山奥の廃屋で発見され、警察に救出されたわ」
「特になにもされなかったんですか?」
「なにもされていないわ。掴まった犯人は私を監視していただけ、犯人は浮浪者で、寝泊りしていた公園で見知らぬ人に声を掛けられて、金とメモを渡されたたけで、渡されたメモの通り誘拐劇を演じただけ。身代金を受け取る気もなかったみたい。
それで、犯人と黒幕を繋げる物は、そのワープロ打ちされたメモだけだった。結局、事件はお蔵入りね」
「そんなはずは? そうだ、誘拐に使った車は黒幕が用意した物では? 」
「そのメモには、大学付属病院の業者用の駐車場には、荷物を出し入れする関係で、カギの付いた車が、時々止まっているからそれを狙えって」
「その、車って?」
「巨富(きょふ)製薬と書かれてたいたことを思い出しの。警察も一応、運転手に事情徴収したみたいだけど、三日前に盗難届が出ているし、カギは普段から付けたままで作業するみたいだし、犯人が面談したみたいだけど、メモを渡わたした人ではないと証言したしで、証拠もないのにそれ以上追及できなくて、上からも捜査の打ち切りの命令があったみたいで、結局は、黒幕は逮捕できなかった」
「その時に夕奈さんの人格ができたんだ。ところで、共有のキーワードと言うのは? 」
「キーワードについては、まだ話すことがあるから、ちょっと待てね」
そういうと、髪の色が赤茶色に変わり、はでなアイブロウに真っ赤なルージュを引いたような唇は、以前より数倍色気の増したようだった。
「えーっと、遊ぶの字を当てる遊奈さんですよね。直ぐに分かりましたよ」
「真ちゃん、そうよ。あたしは真っ赤な口紅がトレードマークね」
その唇、色ぽさが増量されています。
「それで、あたしの人格ができたのは、私が中学1年の時。
私、診察時間外の病院の待合室で、1人でパパとママの帰り待っていた時、出入り業者のMRに声を掛けられて、のど飴を貰ったの。
それで、貰ったのど飴を舐めていたんだけど、そののど飴、強力な媚薬だったみたいなの。
私、頭の芯がぼーっとして、顔は火照るし、Dカップの乳首はビンビンになるし、あそこは、ジンジン熱くなって、パンツは濡れてくるし……。周りを見渡すと、さっきのど飴をくれた人が居るじゃない。思わす助けを呼ぼうとしたんだけど…… 」
「助けを呼ぶって? 」
「そう、この体の火照りを止めてもらおうと思って」
「それ、絶対、助けにならないですから」
「そうね。優奈はそのままだったら、きっと、快楽漬けにされて、その人の思いのままになっていたかも。でも、そこでリミッターが外れて淫乱なあたしの人格ができたわけ。おかげで、優奈は自我を取戻し、何食わぬ顔でその場をやり過ごし、パパとママと合流できたわけ」
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