第33話 僕は、以前と同じように

 僕は、以前と同じように、大学付属病院から最寄りの駅まで歩いていく。

 海里さんのおかあさんが差し出したタクシー代を断って、歩いて駅に出ることにしたのだ。

 僕はここでやっと海里優奈さんという人を理解できた。

 歩きながら考えることはそのことばかりだ。優奈さんが次に学校に出てくるときには、どんなに変わっていても受け入れることができる。だって、それが本当の優奈さんなのだ。

 そこには、優奈さんとの関係を悟り切った僕がいた。


 そして、海里さんの手術から五日経った金曜日、優奈さんが久しぶりに学校に出て来た。

 校門の所で誰か人を待っているように、拒絶オーラを強烈に出し、腰に手を当て仁王立ちしている。

 しかもその容姿は、今までのストレートの黒髪ではなくて、銀髪にツインテール、相変わらず強烈な拒絶オーラを身に纏っている。

 唖然と見ている僕に向かって言葉を掛けてきた。

「鬼無。何、ジロジロ見ているのよ」

 そう小声で言いながら、僕の横を並んで歩きだす。

 怒ったように僕に言う雰囲気は、雄奈さんの雰囲気だ。しかもこの言い方、僕を意識したツンツンである。実は色々突っ込んでもらいたいみたいだ。

「海里さん。とうとうみんなに異能のことかミングアウトするんですか? 銀髪、ツインテって、僕に見せたい容姿を学校中に知らしめるんですか? もっとも、ツンデレキャラそのまんまなんでギャグと取られる可能性大ですね」

「なに、その言い方。私はツンデレキャラじゃあないし。あんた意識してどうするのよ。これは、あんたにやられた傷を手術するために、前髪をバッサリ剃られたんだから。まったく、初めて鏡を見た時は、どこの落ち武者かと思ったわよ。まあ、超能力で髪の長さなんてどうとでもなるんだけど、慌てたママがウィッグを買ってきたんだけど、、銀髪にツインテには驚いたわ。

 私の西洋風の顔立ちに似合っているでしょうって、これ私の地なんですけど?」

「確かに、似合ってますけど…… 」

 優奈の黒髪も清楚な感じでよかったんだが、こちらも、もともと目鼻立ちのはっきりした西洋風な顔立ちに合っているのはすでに知っていることだ。ただ、あのお母さんと雄奈さんが同じ趣味だったとは……。

「似合っているけど、どうなの?」

「まさかその姿を学校で見ることが出来るなんて、凄く眩しいです」

 雄奈さんが、ほほを赤くしてプィと向こうを向いた。

「これは、私(雄奈)限定バージョンだからね。他の人格が出るときは、また変わるんじゃない?」

 そういうと、雄奈さんは、僕を置いて、2年E組の教室に入っていく。

 ざわつく教室に入ると、いままでと変わらぬように過ごし、四時限目の終わりを告げるチャイムが鳴る。

「鬼無、図書当番に行くよ」

 雄奈さんは、僕に声を掛けると、さっさと職員室に向かって歩き出す。廊下を歩きながらも、今まで以上にみんなの注目を集めている。

 僕は職員室で、やっと雄奈さんに追いついた。

「雄奈さん。なんか、今までの雰囲気が根本的に変わりましたよね。その銀髪のせいだけじゃなく」

「そお、別に変わった気はないんだけど、もう、恐れるものがなくなったしね」

「恐れるもの?」

「図書室で話す。邪魔されないように、ちょっと本気を出すわよ」

 そういうと、雄奈さんの身体からブリザードが噴き出す。拒絶オーラマックスだ。しかも、今までよりさらに強力になっている。

 僕の目の前で、まつ毛や眉毛からぶら下がるつららが幻視できる。凄まじい圧力に、みんな気圧(けお)されて道を開けてた。

 図書室に着いた途端、雰囲気が変わり優奈さんが出てきて、僕にお弁当を渡してくれる。もちろん黒髪のストレートだ。

 まさか、ウイッグまで色の変更が可能とは……。優奈さんの超能力はどこまで進化しているんだ? 僕のそんな疑問とは裏腹に、優奈さんは今までと変わらないようだ。

「はい、お弁当、今日は病み上がりで、ゆっくり作れなかったから簡単レシピを元に作ってみました」

 少しほほを赤らめ、にこにことお弁当を渡してくれる優奈さん。

 あれ、優奈さん、前髪辺りがピョコンと数本立っている。

 お弁当箱を開けると、おにぎり、玉子焼き、アスパラの豚バラ肉巻、ほうれん草のクルミ和えと見た目も色鮮やかで、食べてもとても美味しい。おにぎりの具は、牛肉のしぐれ煮に、さけフレークに、王道のおかかと三つとも味が違う。

 これが、簡単レシピなのか。

「すごく、美味しいです。また、腕が上がったんじゃ」

「そう思う? なにしろ脳力のリミッターが外れて、一〇〇%脳力を使えるようになったからかな? 愛情を隠し味に使えるようになったしね! 」

「脳力が一〇〇%使えるようになったの? 確か前もそんなこと言ってましたね」

「あっ、ちょっと待ってね。人が来たみたい。話の続きは放課後ね。色々伝えたいことが有るんだから」

 そういうと、元の銀髪ツインテに戻った雄奈さんは本の貸し出しの作業を始めた。


 僕は昼からの授業は雄奈さんの「伝えたいことが有る」の言葉をずーっと考えていた。

 それで、気がついたら放課後になっていた。

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