第26話 そこで、放課後五時のチャイムが鳴る
そこで、放課後五時のチャイムが鳴る。
海里さんの意識が返ってきたのだろう。僕の方を見た。
「鬼無くん。帰ろうか? ごめんね。まだ、頭の中が混乱しているみたい。
そうだ、お願い。私が多重人格者であることや異能者であることをみんなに言わないでね。約束だよ」
やさしく腕を差し出す海里さん。いや、これは間違いなく優奈さんだ。
優奈さんが、僕にお願いしてくれている。
僕は、優奈さんの手をとり力強く宣言した。
「絶対に誰にも言いません」
優奈さんが優しく僕の手を握り返してくれた。
その時、優奈さんが纏うやさしさの中に黒い影が混じっている。
その影は、鬼無真治に、ひそかに誰にも気づかれず忍び寄っていたのだ。
そして、校門での別れ際、雄奈さんから、新しいスマホのメールアドレスを交換したいから貸してと懇願された。 どういう風の吹き回しだ。また、メールとかしてくれるのだろうか?
僕は喜んで、スマホを貸してしまった。
しかし、優奈さんは、僕のスマホと自分のスマホをいじくり回した挙句、
「ごめん、真治君、私とのメールのやり取りや、一緒に写した写真を消しちゃった」
「うそでしょ」
僕は、雄奈さんからスマホを取り上げ、スマホのメールの履歴や写真の保存状況を確認するが確かに、メールのやり取りの記録も、写真の記録も消えていた。確か保存のためロックを掛けていたのに。
「ごめんね。私、こういうのあまり詳しくないから」
「詳しくないって、ロックをわざわざ外して、消去しているのに? 」
「うるさい。じゃあ、責任を取ればいいんでしょ。どう責任を取ればいいのよ! 」
突然優奈さんの雰囲気が変わって、凄まじいブリザードが吹き荒れて来る。
「責任の取り方っていわれても……」
元々、責任を追及する気のない僕は困ってしまう。
そこで、雄奈さんの雰囲気がエロぽく変わった。
「真ちゃん。私のDカップを触らせてあげる。これで許して、えーっ、許してくれないの。じゃあ、生パイでどう?」
僕はまだ、その提案にたいして是非を返していないのだが……。
「いや、ぼ、僕は、別にそういうことがしたくて、言っている訳じゃなくて」
「じゃあ、どういうことがしたいのよ。遊奈、さすがにそれ以上はダメよ、なぜなら今日は勝負下着を着けてないから」
これは遊奈さんだ。久しぶりのエロネタに心が和む。
「遊奈、いい加減にして、鬼無くん、消去してしまったものは仕方がない。今度、埋め合わせをするから許してくれないか?」
こちらは結奈さんだと感じる。それぞれのビジュアルを変えていないということは僕に別に見せたいわけではないのだ。さすがに僕も諦めざるを得ない。
「埋め合わせも何も、僕、気にしていませんから」
「わーい、さすが鬼無くんだ。有難う。でも私も何か考えとくね」
僕の手を握り、ほほを赤く染めている。
「優奈さんにそこまで言われたら、僕、もうスマホのデータ消去については忘れました」
「えへへ、有難う。雄奈のこと許してくれて。じゃあ、私帰るからね。バイバイ鬼無くん」
下校する生徒が、増えてきたので、優奈さんが慌てて雄奈さんに切り替わる。
そうして、雄奈さんは、ブリザードを全身にまといながら、自宅の方に歩いていく。
僕は、その後ろ姿を見ながら、何か違和感を感じていた。
去っていく海里の頭の中では、再び脳内会議が繰り広げられていた。
「まったく、あんなやつにおべんちゃらを使うなんて、聞いているだけでも、腹が立つわ」
「まあまあ、優奈、幽奈に何か考えが有ってのことだろう。なっ幽奈」
「もちろんよ。結奈にそれからみんな、ごめんね。あたいがみんなを演じちゃって」
「幽奈、そっくりだった。すごいね。なにそのスキル? 」
「あたいは、優奈の殺意から生まれた人格だからね。そういった、偽装や薬品なんかについてのスキルが高いんだ」
そうなのだ。優奈たちは、鬼無真治が優奈たちが隠していた多重人格者であることも異能者であることも知っていることに不安を覚えた。さらに優奈自身も良く知らない他の人格が現れた原因についても知っているらしい様子に、優奈以外の人格はひどく警戒している。
しかも、優奈たちの弱みを握って脅しを掛けている節(ふし)もある。
これからも、鬼無真治に振り回されることを恐れた、優奈が鬼無真治に消えてもらいたいという殺意を抱いた。
AⅠはすぐさまその心に宿った殺意に従い、第八の人格を創り上げていたのだ。
殺人願望を持った第八の人格を持つ幽奈は、殺人するターゲットに合わせて必要な性格や雰囲気のコピー、そして機器の操作さや殺人を可能にする薬品や道具に精通する人格を、脳力のリミッターを外すことで習得しているのだ。
そして、放課後五時のチャイム以降、他の人格に成りすました幽奈は、雄奈、結奈、遊奈、優奈を鬼無真治の前に出し、鬼無のスマホのメールのデータを消去し、写真データーを抜き取っていたのだ。
「みんな、しばらくは私がみんなを演じるからね。みんなそれぞれ鬼無にどういう風に思われているかも、メールで大体わかったし、それに上手く鬼無を誘い出して、殺す算段も付いたから」
「すごーい。幽奈、もう計画が出来たの。でも絶対に私たちに容疑が向かないように、絶対に事故に見せ掛けるのよ」
「まかせて!」
幽奈の瞳がキラリと白く光り、唇を薄く開くと、怪しく上唇を舐めるのだった。
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