第25話 そして放課後

 そして放課後

「鬼無、図書当番」

 雄奈さんは、僕の方をチラッと見ると図書室に向かって歩いていく。

 図書室で受付に座ると開口一番に僕に向かって言い放つ。

「まったく、私なんで、図書委員なんて立候補したんだろう? 図書委員になったらなんか良いことがあったけ?」

 それを僕に聞かれても……。

「海里さん。なんで図書委員になりたかったのか覚えてないんですか? 」

「立候補したことは覚えている。私って、なんで図書委員になりたかったのかな?」

「言っても信じないでしょうけど、たぶん、僕と一緒にしたかったからだと思いますよ」

「鬼無、最近のしつこさに免じて、今の発言、許してあげるけど、私、あんたの顔、趣味じゃないよ」

「それは知っていますよ。他の優奈さんたちの趣味でもないことも」

「あんたの話、私にはよくわからないのよね」

 どこまでも、しらばっくれるつもりなんだろうな。

「海里さん。昼にメールや電話を僕としたことないって言ってましたけど、僕のスマホにはその証拠が残っています」

 そう言って、僕は、海里さんとのメールのやり取りが記録された画面を、海里さんに差し出す。

 僕のスマホを覗き込む海里さん。

「これ、鬼無がねつ造したんだろう! 」

「よく見てください。海里さんのメールアドレス、前に使っていたスマホのアドレスですよね」

「いや、お前、メールで成りすましとかできるのか? 」

「そんなテクありませんよ」

「それに、二人で行った遊園地の写真もあります」

 僕はスマホの画面を変え、遊園地で取った写真を見せる。

 ゴンドラに乗った時、それぞれの人格の時に、広大な風景をバックに二人で取った自撮りの写真だ。

 それにしても、ビジュアルだけじゃなく、それぞれの人格の雰囲気の違いは写真からもにじみ出ている。

 幸せそうな二人の姿の写真を見て、思わずにやけてしまう。

 雄奈さんは、僕のスマホを取り上げ、メールや写真を黙って見入っている。


 時々、本を借りに来たり返しにきた生徒が、図書室にやってくるが、全く無視しているため、僕の方に手続きをしに来る。生徒が近よりがたいほど、雄奈さんの表情には緊張感が走っていた。そして、いつの間にか図書室に他の生徒がいなくなっていた。

 雄奈さんは、僕にスマホを返すと、ふーっとため息を吐くと、知的な雰囲気に変わった。

「鬼無くん。どうやら私たちが付き合っていたということは本当みたいですね。もっとも、私たち、誰一人としてあなたと付き合っていたという記憶がないの」

「そ、そんな、今、話しているのは、結ぶと書く結奈さんですよね。瞬間記憶を持っているはずですよね」

「なぜ、鬼無くんは私が瞬間記憶を持っていることを知っているんですか? 」

「だって、結奈さん、自分で言ってましたよ。物理的拒絶オーラを出せる雄奈さんに、肉体的超人の勇ましい勇奈さんとか。なんか、生命維持のために元々備わっている人間のリミッターをそれぞれの人格は外せるとか」

「まさか、私たちが人間の能力を超えるために、リミットを外せることまで知っているなんて! いや、メールには、そんなことは一言もなかった」

「そういう話もしましたよ。実際、優奈さんが不良に絡まれて、勇奈さんがその不良をぶっ飛ばしたところも見ていますし」

「この間の金髪、唇ピアス男の時か? いや、それを鬼無くんが見てたのか?」

「そうです。一緒に下校してました」

「うーん(まったく一緒にいた記憶がない)」

 唸ったまま、結奈さんが黙り込んだ。

 

 これは長い脳内会議の始まりの合図だった。

「鬼無くんと私たちが付き合うなんてありえないでしょ。いくら私が乙女脳をしていたとしても」

 恋愛に憧れる優奈が一番に否定する。

「優奈の言う通りだ。じゃあ、なんで鬼無はあんなに、私たちのことを知っているんだ? 」

 勇奈がみんなに疑問を投げかける。

「そこなのよね。私たちが色々鬼無に情報を提供している節があるのよ。私のガードが甘かったかしら」

 雄奈が、首を傾(かし)げていぶしがる。

「雄奈が悪いんじゃない。これはメールの内容から判断するに、私たちは弱みを握られている可能性がある」

 結奈がメールの内容を分析して言う。

「えーっ、どの辺が? 内容なんかは、もし私に彼氏が出来たら、きっとこんなふうにメールをしたりすると思っているまんまなんだけど」

 優奈が結奈に尋ねる。

「そこなんだ。優奈、なんとも思ってない男に、なぜ私たちから連絡を先に取っているんだ? 弁当を作ったり……。 そこがおかしい。」

 勇奈がポンと手を打つ。

「なるほど、確かに、脅されていなければあり得ないな。こうなれば俺が出て、ぶっ飛ばして聞き出そうか!」

「いや、彼はなぜ勇奈が超人的に強いかその理由を知っている。その辺のことを、事情聴収で警察に訴えられるとまずい。あくまで、私たちは可憐でか弱い美少女でなければならない。決して、優奈が異能の多重人格者であることを知られるわけにはいかない」

 そして、結奈の影に怯えて隠れる夕奈を抱きしめ、

「夕奈を怯えさせた落とし前は、つけさせてもらうわ」

「ところで落とし前はどうつけるの? 」

 雄奈が結奈に尋ねる。

「色仕掛けで、鬼無の弱みを握る! 」

 遊奈がいきなり会話に入り込んでくるので、みんなの緊張が解けた。

「遊奈、これ以上鬼無くんに良い思いをさせてどうするのよ。もう鬼無くんに振り回されるのはいや! 」

優奈が何かを決意する。

他の人格はその決意を見守るだけだった。

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