第23話 そして、三年後、鬼無真治という
そして、三年後、鬼無真治という理想の彼氏を見つけることになるのだが、その時にAIの言う通り、異性とのお付き合い用の人格を作り上げていたとしたら、すんなりと恋愛して、こんな悲劇は起こらなかったかもしれない。
いや、これこそが六人の反抗期だったのかもしれない。
そういうわけで、優奈の人格は生まれた時からあった未だ眠ったままの人格を除き、すべて、AIが作り上げたものだったのだ。もちろんそんなことになっているなんて優奈の両親は全く知らない。そして、鬼無に生命の危機を告げたのは、脳内に埋め込まれたAIだったのだ。
優奈に取り付けられた、プラグにつながるコンピューターの画面が、処理中から処理完了に切り替わった。
「あなた、どうなったの? 」
「僕も、領域の中身までは分からないが、おそらく、優奈の感情の部分、恋愛感情だけが消去されたと考えるべきだろう」
「じゃあ、日常生活には影響がないのね」
「たぶん、学校生活にも影響がないだろう。鬼無くんと付き合っていたという記憶とその時の気持ちだけが消されたはずだ」
「そうなのね……」
「しかし、恋愛感情とは凄まじいものだな。AIを暴走させ、脳を機能停止に追い込む」
「あら、あなた、好きな人が出来たら、何も手に付かなくなるわ」
「だが、そこまでだろう。リミッターが働いて、生命の危機には陥らない」
「そんなことないわよ。精神を病んだり、食事ができなくなって衰弱したり」
「ああ、のめり込めばそういうこともあるな。医学が踏み込むことができない領域なのかもな。
それにしても、二人になにがあったのか? 」
「いずれにしても、次に二人が会う時には、悲しいことになりそうね」
「ところで、優奈のスマホは? 」
「ロックが掛かっていて、中身を見ることができないの」
「そういうことなら、スマホを見て、AIが混乱しないようにスマホを壊しておこう」
「そうね。病院に担ぎこむときに落ちたみたいで壊れたと言っておきましょ」
**************
僕は、大学付属病院から、徒歩で、最寄りの駅に向かう。しかし、駅までの道のりは2キロ以上あった。
まさか、救急車は病院までの片道とは思わなかった。てっきり、帰りも乗せてもらえると思っていたのだ。
「はあ、親でも呼んで、迎えに来てもらうか?」
しかし、いまだ優奈さんたちみんなが苦しんでいるのに、僕だけが楽をしていいのか。
僕は、優奈さんを心配しながら、重い足取りで家に向かう。
あれから、二日が経った。しかし、海里さんからメールの一つも来ない。僕もメールを送ってみるが、返事も返ってこない。
僕は業を煮やして、海里さんに電話を掛けてみる。しかし返答は「電源が入っていないか、電波の届かないところにあります」だ。
そして、ゴールデンウィークの谷間の平日、僕は、海里さんの様子を知りたくて、普段なら、めんどくさいと感じる登校もいそいそと出かけてた。
しかし、僕の隣の席の海里さんは登校してこなかった。
先生の話では、体調不良で二日休んで、ゴールデンウィーク明けから出てくるということだった。
海里さんと後六日も会えないのか。海里さんは、やっぱりかなりの重症なのか? 「生命維持機能の低下」とか言っていたしな。
僕はそこで不安になった。
あの最後に出て来た人格は誰だったんだ。まるで血の通っていない無機質な話し方、生身の人間があそこまで機械的に話すことができるなんて……。
僕は、ゴールデンウィーク明けに第七の人格と対決しなければならないのか?
僕の思考はその一点に集中していく。学業に身が入るわけがない。そして不安なまま、学校が終わり、そのまま海里さんと連絡が取れないうちにゴールデンウィークが終わった。
**********
久しぶりに学校に出ていくと、僕の隣の席には、海里さんが座っていた。相変わらず、窓の外を見てぼーっとしている。しかも拒絶オーラも健在である。拒絶オーラということは今の人格は雄奈さんだ。拒絶オーラを掻い潜り、雄奈さんに声を掛ける。
「海里さん、お久しぶりです」
「……」
雄奈さんは、僕の顔を見て、無言である。
「スマホに何回も電話やメールをしたんですが、海里さん出られなくて。体はもう大丈夫なの?」
たとえ、人に会話を聞かれたとしても、図書委員の緊急の伝言といえばいいだろう。そう考えて、雄奈さんにメールや電話をしていたことを伝える。
「あなたと私が、メールや電話? そんなことするわけないわよ。それに体の方はもう大丈夫」
「だって、スマホを見てください。履歴を見ることができるでしょう。それに、僕の目の前で、海里さん意識がなくなって倒れたから、僕はびっくりして、それで心配していたんだ!」
「私があなたの前で倒れた? そんなことはないよ。私は家で倒れたんです。それに、私、スマホを変えたばかりだから。倒れた時に前のスマホは壊れてしまって」
僕の目の前に突き出されたスマホは今まで使っていたものではなかった。
「番号も前と変わっているから。もっとも、わたしと電話やメールをする人は、今まで親としかしたことないしね。だから、スマホを変えたことを言う人もいない」
今までの雄奈さんと全く違う。ツンデレじゃあなくてこれじゃあツンツンだ。しかも、これは僕を意識してツンツンしているのではなく、僕が眼中にないツンツンだ。
しかも、倒れた時の状況も覚えていない感じだ。
クラスの注目もあるし、ここは引きさがった方がよさそうだ。ひょっとして何か理由があるのかもしれない。なんとか二人きりになった時に優奈さんに出てきてもらおう。
しかし、今日は月曜日だ。確実に二人きりになれる図書当番の金曜日まではまだ五日ある。
なんとか、クラスメートの目の無い所で話がしたい。
チャンスを窺うが、まったく、そんなチャンスがない。
なにしろ、海里さんは自分の椅子から動くことが無い。
そうやって、月曜日が過ぎ、火曜日が過ぎ、水曜日が過ぎていく。思い切って海里さんの家電にも電話を掛けてみたが、電話に出た雄奈さんに「ストーカーとして訴えるわよ」と怒鳴られて電話を切られてしまった。
その剣幕は冗談ではなく、本当に警察に突き出されそうだった。警察にファンクラブのある海里さんに逆らって、いいことになるとは思えない。
ここはおとなしく引き下がるしかなかった。
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