第14話 次の日、僕たちは

 次の日、僕たちは八時に天翔学園前駅で待ち合わせ、電車に乗って新塾駅に出る。そこから、遊園地まで直通の私鉄の電車に乗り換える。

 海里さんの服装は、結奈さんのアドバイス通り、薄い空色のワンピースに白いレースのカーディガンで、清楚なイメージそのままである。

 遊園地行の電車はシートがロマンスシートになっていて、僕と海里さんが並んで座るようになっている。

 今、海里さんは雄奈さんが出てきている。となりのシートは別として、他のシートから死角になっていて、しかも、めちゃくちゃ至近距離に座ることになる。

 雄奈さんが僕に密着してくる。そして僕の方を見て小声で言ってくる。

「鬼無。悪いけど、私たち絶叫マシンとか平気だから、キャーとか言って、お前に抱きついたり、しがみ付いたりしないよ。そういう計画なら、無駄だからね」

 いや、すでにかなり密着しているんですが。それはそれで嬉しいから、そのことはスル―する。

「そんなこと期待していませんよ。大体僕も、絶叫マシンは苦手だから」

「なんだ、真治。絶叫マシンが苦手なのか。じゃあ、今日一日乗りまくって一緒に三半規管を鍛えてやろうか?」

 なんだ。勇奈さんが出て来たのか? それでも、密着度は変わらない。勇奈さんも言葉使いは男ぽいけど、やっぱり女の子なんだ。そう考えていると、

「真治、このシートちょっと狭いな。どうしても体がくっついてしまう」

 いや、そんなに狭くない。ふたりが座る広さは十分にある。

「じゃあ、もう少し僕がこっち寄りましょうか? 」

僕は通路側に、上半身を乗り出す。

「違う、違う。真治、遠慮せず、俺の方に寄ってこいっていう意味だよ」

 そういうと、俺の腕を取り、自分の方に引き寄せてくる。

 これではイチャイチャカップルモードに突入である。

「まさか、電車の中で、二人っきりになれるとは思わなかった。これも鬼無くんの計画の内なの」

 この癒しのオーラは、優奈さんが出て来たのか。確かに、周りはカップルが多いし、ロマンスシートで死角になっている。みんな出てきやすくなっているのか。

「計画なんて、でも嬉しい誤算かな」

「そっか。今日一日、嬉しい誤算が続くといいわね」

「本当だよ」

「うるうる」

 なんか、また雰囲気が変わっている。しかも、自分でうるうるなんて言う人居るか? でも、これは、夕奈さんだな。

「夕奈さん。出てきて大丈夫? 」

「あのね、ここは人の視線がないから大丈夫」

 俺の肩に頭を乗せ、安心しきったように、いつもの怯えた表情が消え、穏やかな表情で僕に体重を預けている。

 

しばらく、そのままでいると、また、雰囲気が変わった。

「真ちゃん。あたし、今日は勝負下着なの。服のコーデは譲ったけど、下着だけは譲れなかったの」

 遊奈さんが出て来たのか?

「それが、どうかしましたか? 」

「また、しらばっくれて。今、腕に押し付けているDカップ、今日は、フロントホックなの」

「どういうことですか? 」

「前から片手で外せるってこと。分かっているでしょ」

「まったく、わかってないんですが」

 そんなブラの違いなど僕には、まったくわからない。

「まったく、これだから童貞くんは」


 そこで雰囲気がまた変わり、海里さんは自分で自分の頭を小突いている。

「バカなこと言ってないの。まったく遊奈ったら。真治くん、私たちまだ付き合って一か月だからね。常識から考えてそうなるなんてありえないからね」

 結奈さんは頭脳派であり、そして常識派でした。

「わかっています」

「そうだ、せめて婚約してからだな」

 いまどき、そういう考え方の人っているんだ。でも僕もその考えを否定するわけじゃない。その考えは僕も理解できる。相手に対して責任が取れるようになってからだよな。

 そんなことを考えていたら、再び結奈さんが口を開く。

「でも、頭より気持ちや体が求めあう時もある」

「その時は、どうしたらいいんですか? 」

「その時は、本能の求めるままにだな」

「えーっ」

「冗談、冗談。私が止める」

 きりっとした表情で、僕を見つめている。僕にみんなを幸せにする決意を促しているようだ。やっぱり、この人はみんなの幸せを考える頭脳派だ。

「みなさんを大切にします」

 僕は、今、決意したことを結奈さんに宣言する。

「よろしい。じゃあ、みんなと今日は楽しみましょう」

 そんなふうにロマンスシートを楽しんでいると、一時間などあっという間だ。

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