第13話 そして、四月最後の図書当番は
そして、四月最後の図書当番は、僕もかなり忙しかった。ゴールデンウィークをどこにも出かけず、読書三昧するつもりの生徒たちが、一人で何冊も借りに来るのだ。
学校の図書室に置いてある本って、あまり面白い内容の物はないと思うんだけど。せめてDVDのレンタルとかにしてほしい。
そういう訳で、やっぱり、四月最後の図書当番も二人きりになるチャンスは、ほとんどなかった。
でも、明日はいよいよデートができる。僕の心は躍っていた。
それは、雄奈さんも同じことで、珍しく本を借りに来た生徒に受付で言葉を掛けている。
「そこのカレンダーの日付までに返しに来きてよ」
受付の返却日を示すカレンダーを指差し、冷たく言うだけなのだが、今まで一言も発しなかった雄奈さんが言葉を発するなんて、この後、騒動が起こらないかと心配した。
しかし、吐く言葉は言葉自体に棘があり、その言葉を受けて会話を続けようとする猛者はいなかった。
やっぱり、このいつもと違ったつんつんした態度から、心境の変化が分かるのは僕だけなんだ。そのことが雄奈さんと繋がっているようで嬉しく感じて、雄奈さんをチラッと見てしまう。
そんな、僕の視線を感じたのか、雄奈さんも僕の方を見て、ほほを少し染めている。
お互いに意識していることが分かるなんて、これが付き合っていることの証なのか? それとも初デート前夜祭効果なのか?
慌ただしく、放課後時間が過ぎて、もう図書室を閉める時間になった。
帰り際、雄奈さんが優奈さんに一瞬、切り替わった。
「私たち、付き合い始めて、もうすぐ1か月になるわね。今日はそのことをつくづく感じて嬉しくなっちゃった。心が通じ合う充実感ってなにものにも代え難いわね」
「そうだね。僕も今日はそういうことを感じたな」
「やっぱり、それじゃあ、明日のデートを楽しみにしているからね」
優奈さんはすぐに雄奈さんに切り替わり、さっさと校門の方に歩いていく。そして、校門の所で振り返ると、飛びきりの笑顔で僕に微笑みかける。
「鬼無、それじゃあね。もう帰るから」
「海里さん。さようなら。気を付けてね」
拒絶オーラを出しながらのあの笑顔は反則だよ。思わず明日は楽しみだって声を掛けそうになったじゃあないか。雄奈さん相手に、心が浮かれたのは初めてかもしれない。
僕は、心うきうき家路を急ぐのだった。
家に帰り、明日着ていく服を確認する。今回はこういうことを想定して、勝負服をちゃんと買っていたのだ。
英語のロゴが入った紺色のTシャツに、今の季節を意識した薄いグレーのジャケット、そして、ジーパンだ。
服をベッドの上に並べて、これでいいのか考えていると、メールが入る。
今日は金曜日、いつもなら夕奈さんの定時連絡の日だ。
「鬼無くん明日、どんな格好してくる? 」
「僕は、グレーのジャケットにジーパンかな。優奈さんは? 」
「今、考えている所なんです。可愛らしいワンピースがいいかな? 」
「私は、髪はツインテでゴスロリがいい」
ゴスロリって雄奈さんか。それってツンデレぽいといえばそうとも言えるか。
「真治は、ポニテでボーイッシュな感じがいいよな。ホットパンツとか」
これは、勇奈さんか。雰囲気には合っていると思う。
「夕奈はね、あのね。お姫様」
遊園地でドレスというのはどうなんだ?
「真ちゃん、ピンクのキャミソールにミニスカで決まりよね。あっ、ノーブラでチューブトップもいいかな。遊奈、Dカップだから、かなりセクシーだよ」
遊奈さん、その容姿でそんな恰好していたら、男の注目を浴びて困ってしまいます。
でも、噂のDカップは本当だったんだ。
「グレーのジャケットにジーパンか。それに合わせるなら、薄い空色のワンピースに白いレースのカーディガンがふたりにお似合いのコーデだな」
これは結奈さんか? さすが、僕の服装に合わせてくるとは知的派を語るだけはある。
その後、色々な意見が出るし、僕の意見も求められたけど、結局、結奈さんの意見が、一番説得力があるということで、やっと服装が決まった。
それに、食事は、行動しながら食べられるものがいいという意見で、優奈さんがサンドイッチを作ると言い出した。
僕の計画にもその案は合っている。でも、朝早くから用意をしてもらうのは申し訳ない。
「僕が用意するので、楽しみして」
「鬼無くんが、お弁当を作るの?」
「違う、違う。ハンバーガーセットにするんだよ」
「そんなのダメ。絶対、私が作って持っていく!」
強情な優奈さんに押し切られて、結局、お弁当をお願いすることになった。
それにしても、みんなでメールをするのがとても楽しい。
相手は一人なのに、色々なタイプの六人の女性と付き合っているみたいだ。もう一人の人格ともうまくできればいいのに。
「結奈さん、もう一人の人格の人は参加しないの」
「無理言わないでよ。絶対不可能だから」
「そうなのか? 残念だけど仕方ないか」
(やっぱりダメか。できれば、何とかしてあげたいんだけど)
「鬼無くん。心配しないで。何時(いつ)か、鬼無くんの前に出られると思うから」
その後も、みんなで色々な話をして、気が付いたら一一時を過ぎている。そろそろ寝ないといけない。優奈さんもそう思ったのか、
「明日があるからそろそろ寝るね」
というメールが入った。
「僕もそうそろ終わりにしないといけないと思ていたんだ」
「終わりって、なに。私たち終わりなの? 」
「いや、今日のメールのやりとりを終わりにしようというだけだよ」
しまった。夕奈さんにネガティブな言葉は厳禁だった。これは大量のメール通信が始まると、気構えていると、肩透かしなメールが届いた。
「夕奈はみんなで寝かせるから、明日の初デートで、みんな疲れていたら楽しめないでしょっていったら、「うん」って素直に言うことを聞いたから」
「そうなんだ。助かったよ。じゃあ、明日楽しみにしているから」
「私もすごく楽しみ。それじゃあ、お休みなさい」
「ああ、お休みなさい」
僕は、明日を楽しみに、眠りに付いた。
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