第12話 そして放課後、さすがに新入生たちも
そして放課後、さすがに新入生たちも、天翔学園の氷華に、いつまでも構っている訳にはいかないのだろう。
まばらに、図書室を訪れる生徒がいるだけで、図書室はいつもの平穏を取り戻しつつあった。
「海里さん。やっと静かな図書室が戻ってきましたね」
「そうだな。鬼無。まだ、油断はできないが…… 」
そう、雄奈さんが言うと、雰囲気ががらりと変わり、拒絶オーラが癒しのオーラに切り替わった。
「鬼無くん。面と向かって話をするのは久しぶりね」
「優奈さん? 」
「ええ、メールは毎日しているんだけど、それだけだとちょっと寂しいかな」
「遠距離恋愛みたいだよね。そうだ、お昼のサンドイッチありがとう。あの食パンって優奈さんが家で焼いたの? 」
「鬼無くん、気付いてくれたんだ」
「やっぱりそうなんだ。大変だったでしょう」
「別に、色々お世話になっているお礼だからね。ちょっと本気を出したかな」
「やっぱり」
そこまで、話をすると、図書室の外で人が居る気配がする。
すぐに、優奈さんの雰囲気が切り替わり、雄奈さんが出てくる。
(やっぱり、ゆっくり話は出来ないな)
そういうことを繰り返し、図書室での時間は過ぎていく。
そして、五時になり仕事が終わる。今日は、校門の所まで一緒に行くと、そこで別れを告げ、お互いの家の方向に向かって歩き出す。
(はあー、一緒に帰りたいよ。海里さん、もう少し普通でもよかったよな)
学校一の美少女と付き合うのに、こんなに気苦労が絶えないとは想定外だった。
そういうわけで、週に一回の図書当番をこなしながら四月がもうすぐ終わろうとしている。
学校での僕と海里さんの繋がりは、毎週金曜日に優奈さんが作ってくれて、雄奈さんが持ってきてくれるお弁当だけだ。
これでは二人の仲は全く進展しない。何かイベントを起こさなければ……。
六月になると、図書当番も、1年生がやるので二週間に一回になってしまう。
今まで、週に一回だけでも、何とか二人きりになれたんだが、いつ人が来るか気が気でない中、ゆっくり話もできない。別に雄奈さんと一緒に居ることがいやではないが、蓄積されたダメージを回復させるためにも、優奈さんというポーションが必要なのだ。
しかも、最近土日も、海里さんは親について、大学付属病院に出かけているため、休みの日も会うことができないでいる。このままでは、欲求不満になってどうにかなってしまうと考えていると、どうやら、海里さんたちみんなも同じように考えているようだった。
家に帰って、いつものようにメールで定時連絡のやり取りをしていたら、
「ねえー。鬼無くん。最近直接会う時間が無くて寂しいよ。一人ボッチは慣れっこだったのに。こんな気持ちになったのは、鬼無くんのせいだから責任を取って貰いたいな。でないとこの無責任野郎って鬼無くんに向かって叫ぶかも」
それ、周りに別の意味で取られると、非公認ファンクラブ「優奈を女神と崇める会」に抹殺されてしまう。
「真治、俺も最近、無性に暴れたくなって困っている。どうにかならないか?」
「姫ご乱心」ってか。 あなたが、暴れると怪我人がでます。それに僕ではあなたを止めることなどできません。
「寂しい……。 寂しい…… 」
うん。夕菜さんはさみしがり屋ですから。
「真ちゃん、コスプレなら白衣とナースどっちがいい?」
なんだ、もうどいつもこいつも、病気になる寸前じゃないか。
「そういう訳で、真治くんどうにかならないか。今度のゴールデンウィークあたり二人きりになれないか? 」
「そう言われても、二人きりになれる場所って。そうだ、僕んちに来ることができる? 」
「いや、無理だな。真治くんの家で両親に会うのは困る」
(雄奈が、真治くんの両親に、拒絶オーラ全開で威嚇すると、真治くんの両親に悪い印象を与えるかもしれない)
(海里さん。やっぱり第七の人格について、何かあるのかな。僕の家や家族が発症条件と何か関係があるのかもしれない。そういうことなら)
どうも、二人の考えに行き違いが感じられるのだが……。
「結奈さん。家がダメなら、遊園地とかどう? 」
「ゴールデンウィークだと人が多い。二人っきりになれる場所なんてあるのか? 」
「そこは大丈夫。僕に考えがあるから」
「じゃあ、そうしましよう」
「場所は、今から探すから。いいところを見つけたらすぐにメールするから」
それから、スマホで、遊園地の検索をして、僕の考えている所を見つけた。ここから、電車で一時間ほどの場所にあるごく普通の遊園地だ。
「そんなところに何があるのよ」
場所をメールすると海里さんからメールが帰って来た。
「ここが、最高の条件なんだ。きっと、ゴールデンウィークはみんな大きなテーマパークとかに行くから、そんなに込んでないと思うし」
「わかった。楽しみにしているからね」
初めてのデートまであと二日、明日は四月最後の図書当番だ。
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