第10話 月曜日学校に行くと
月曜日学校に行くと、相変わらず雄奈さんの周りには、ブリザードが吹いていた。学校での人格はほとんど雄奈さんだと聞いている。まあ、外見は変わらなくてもここまで雰囲気が違っていれば分かりやすい。
僕は、雄奈さんの話しかけるなオーラを何とか掻い潜り、挨拶をする。
「おはよう。海里さん」
それで、初めて僕に気が付いたように、僕の方に向いた。
きっと、脳内会議が忙しかったのだろう。
「おはよう。鬼無。ちょっと」
挨拶を終えると、顎で僕を教室の後ろの隅に促す。
お互い人に聞こえないように小声で話し合う。
「今日は一段と話し掛けるなオーラが凄いですね」
「ああ、土曜日に入学式を終えた新入生が、今日からウロウロしているからな。今日から数日は、拒絶オーラマックスで過ごすから、お前も嫌な思いをしたくなかったら話かけるな」
「いやな思いなんて、感じたことないです」
本当は嫌な思いどころか、話かけるのが怖い。しかし、これが僕の彼女だと思うとその思いさえ僕の心を揺さぶるのだ。
僕は、Mの気があるのか?
すると、雄奈さんの雰囲気が変わった。
「真ちゃん、雄奈の冷たい態度にむらむら来るなんて、私、Sもいけるわよ」
「はっ? 」
「ホントはロープで縛られるのが、好きなんだけど♡」
「バカ! まったく、遊奈の奴、こんな時に出てきて」
雄奈さんが額を押さえ、狼狽している。そして、そのまま椅子までふらふらと歩いて行って、座り込んでしまった。
僕もしかたなく椅子に腰かけようとすると、クラスメートの佐藤に手招きで呼ばれた。
しかたなく、そちらに行くと、海里さんに背を向けて、こそこそと俺に話しかける。
「お前、よく海里さんに話しかけるよな」
「いや、僕だって怖かったよ。でも図書委員の事で、どうしても連絡しとかないといけないことがあったんだ」
「そういうことか」
「一瞬、馴れ馴れしい感じが海里さんに有ったから。お前が何かしたのかと思ったけど? でも勘違いだ。相変わらず、拒絶オーラが凄いからな」
「ああっ、僕も今日はもう話かけないよ」
佐藤と話を終え座席に帰ると、優奈さんは、相変わらず窓の方をぼんやりみている。
(海里さん。気苦労が絶えないな。でも、そこは僕も一緒か。僕たち本当に付き合っているのかなあ…… )
僕は、今日一日は、海里さんと付かず離れずの距離を取り続けている。
さすがに、新入生は、二年生の教室までは来なかったが、放課後になると、新入生がかなり校門前に集まっている。それと二年生や三年生もだ。
僕は一年生の時は、海里さんとクラスが違ったから知らなかったが、海里さんが新入生の時は、上級生が教室に押しかけ大変だったらしい。
数十人があの拒絶オーラを掻い潜り、海里さんに話かけるということが、放課後まで続いたらしい。
しかし、全員があえなく撃沈。天翔学園の氷華伝説の幕開けである。
そう、今日はその再現を見ようと、同級生や上級生は野次馬で集まり、新入生は我こそはと、海里さんの下校時を狙って校門に集まってきているのだ。
その中を、悠々と進む雄奈さん。それに合わせて、校門に向かって集団が二つに分かれる。まるでモーゼの十戒である。
そして、拒絶オーラのブリザードが吹き荒れる嵐の中、果敢にアタックを開始する二十数人の新入生。
「登頂アタックは、良く天候を判断してから行いましょう」って別に命まで取られるわけではないか。それにしても、今回は、土日を挟んだためか、アタックする新入生は手に手に花束やプレゼントを持参している。
まったく、健気なものである。僕も付き合い始めた記念に、海里さんに何かプレゼントしたいなと思っていると、雄奈さんの前に一列の列が出来上がった。
「海里さん。俺と付き合ってください!」
列の先頭から、花束やプレゼントを差し出し、頭を下げる新入生諸君。
僕は「ちょっと待った」と駆け出し、彼らの横に立ち同じようにプレゼントを差し出さなくていいのか?いや、ネルトン紅鯨団じゃないのか。
その新入生の花束もプレゼントも受け取らず、次々とダメ出しをする雄奈さん。
「顔が趣味じゃないから無理! 」
「年下には興味がない! 」
「スポーツバカは嫌い! 」
「その声、生理的にダメ! 」
「私に付きまとわないで! 」
「ストーカーとして、警察に突き出すわよ! 」
なんか周りの野次馬さえ、だんだん顔が青ざめていく。
そういう僕もさっきから胸にグサグサ刺さって、すでに膝を着きそうである。
これが、拒絶オーラマックスの物理攻撃か?
校門から去っていく雄奈さんの後には、心折れ膝を付き、涙を浮かべる集団がいた。って、なんで俺まで膝を付き、涙を流しているんだ?
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