第9話 ねえ、雄奈と何を話していたの?

「ねえ、雄奈と何を話していたの? 途中通信を遮断されたから、私にはわからなかった」

 通信を遮断された? そんなことができるのか。優奈さんに聞かれたくない話を、僕にしたということか。その中で、無難に話してもいい部分ってどこだ? 

 そう考えて、なるほど僕は相手に合わせてけっこう気を遣うタイプなんだと自覚した。確かに小学校時分は良くいじめられた。それでいじめられないように、みんなに気を遣っていたら、いつの間にか相手に合わせるスキルが身に付いた。

 それからはあまりいじめられなくなったんだが。自分の嫌な部分だと思っていたのに、まさか、この性格が結奈さんに見込まれるとは。

「いや、この次の図書当番の時、優奈さんがサンドイッチを作って持ってきてくれるから期待してねって話かな」

「えっー。雄奈、言っちゃったの。せっかくサプライズで驚かそうと思ったのに」

「まあまあ、聞かされていてよかったよ。サプライズでそんなことされたら、僕、嬉しくて心臓が止まるところだったよ。事前に聞かされていてよかったよ」

「そうか、鬼無くんに死なれたら困るからね。なら、腕によりをかけて作るからね」

「だったら、今度はあまりの美味しさで、心臓が止まるかも」

「止めてよ。私のサンドイッチに毒は入っていないよ」

「わかっているよ。優奈さんが作ってくれるだけで、僕が何とかなりそうなだけ」

「そんなに嬉しい? 」

「ああ、もちろん」

「そっか…… 」

 優奈さんがニヤニヤしている。

 なんとか誤魔化すことができたか? 

「あっ、それから昨日は、夕奈がごめんね。私たちが寝てしまった後、夕奈が勝手にメールしていたのよ。メールの履歴を見て驚いちゃった」

「あれか。別に僕は構わないよ。それより優奈さん、体の方は大丈夫なの? 」

「それなんですよね。体は一つしかないので、正直疲れます。頭は眠っていても、体が起きている状態ですから」

「逆に金縛りとか時々あるけど、その状態はちょっとわからないな? 」

「ふふっ、でも、夕奈、メールでしか鬼無くんと話せないって言うから、金曜日と土曜日の夜だけにさせるから、付き合ってあげてね」

「構わないよ。僕、夜遊びする予定もないし」

「夜遊びって、浮気したら承知しないからね」

 ウインクしながら、口を尖らせるなんて反則だ!

「絶対に浮気はしません。こんなにかわいい彼女がいるのに、そんなの有り得ないよ」

 今度は上目遣いだ。

「ほんとかなー? 」

「ない、ない、絶対にないって」

「絶対だからね」

 満足する優奈さん。

 それから、色々な話をしていたら気がついたら、もう四時を過ぎていた。

「少しのつもりがこんな時間まで、俺、そろそろ帰るよ」

「そうだね。明日は両親と出かけるから、また学校でね」

「それじゃあバイバイ」

「バイバイ」


 最後に優奈さんと話ができて良かった。俺は、温かくなった心を抱えて家路を急いだ。家に帰って、机の上で紙を広げて、今日、雄奈さんに言われたことを考えている。

     性格   特徴             攻撃      備考

 優奈  優しい  本人の人格に一番近い     無?      萌え

 雄奈  冷たい  人を接近させない人格     物理的オーラ  ツンデレ

 勇奈  強い   危険から逃れるための人格   空手の達人

 結奈  頭脳明晰 優奈全体の司令塔、知能犯   瞬間記憶等

 夕奈  怖がり  寂しがり、怖がり       メール攻撃   ヤンデレ

 遊奈  ビッチ  エロい?           言葉嬲り?

 こうやって考えている間にも夕奈さんからメールが着信する。そのたびに、メールに返信しているため、なかなか思考がまとまらない。たしか、優奈さんの中には七人の人格があると聞いている。最後の一人は未だに表に出て来たことはない。

 まだ、優奈さんと付き合って二日間だ。まだまだ、分からないことも多いし、これから出てくるのかもしれない。

 ただ、周りのみんなが出てくるのを押さえているとしたら、それはなんなんだ?

 あの遊奈さんでさえ出て来たということは、もっと途方もなくて危ないのか?

 あっ、またメールが入った。

「今、何している?」だ。

「夕奈さんのことを考えていた」と返信する。嘘じゃあないし。

「本当? うれしい。またメールするね」

 よしこれで、三〇分はメールが来ないはずだ。

〇〇  性格   特徴     攻撃      備考

?    ?    ?      ?    危(あぶ)ない?

 紙に危ないと書いて、危の文字に目が釘付けになる。

 僕は、一瞬浮かんだ考えを掻き消そうと頭を振り、コーヒー牛乳でも飲もうと台所に降りていく。グラスにコーヒ―牛乳を注いで、二階の部屋まで持って上がる。

 一瞬浮かんだ危険な考えが頭から消えない。別の方向から考えてみよう。

 自殺願望? いや、確かに危険な考えだが、危(あや)ういのは、夕奈さんがすでに存在している。やはりと僕は考えて、紙に恐ろしい考えを書いてしまった。


〇〇   性格   特徴     攻撃      備考

?    ?      ?     ?    危(あぶ)ない? 殺人衝動

 誰にでも一度は心に抱く闇だ。いろんな危険な目や、いやな目に遭っている優奈さんならそんな衝動を心に抱いてもおかしくはない。

 僕は、なんでこんなことに気が付くんだ? 自分の性格がいやになる。いや、あの頭の切れる結奈さんはすでに見越して、僕に何かをさせようとしているのか? 

 そこまで、考えていて、またメールが鳴った。

「まだ、起きてる? 」

「起きてるよ。ネットをしていた」

「何考えてった?」

「夕奈さんのこと考えてた」

「本当? あのね、結奈が七人めの人格について考えていたんじゃないかって。それでヒントが欲しいかって」

 やっぱり、結奈さんは見越していたか。あの人、優奈さんを救える可能性を考えて、性格合成をしていたんだ。

「要らないよ。まだ確信はないけど、答えに手が掛かったところかな」

 そう返信すると、

「夕奈、なんか怖い。誰か助けて」

その後の電文がどんどん荒れていく。なんとか宥(なだ)め、落ち着きを取り戻させたところで、すでに三〇分以上経っている。

また、メールが入った。

「結奈でーす。ごめんね。夕奈が面倒掛けさせて、今、寝かしつけたから、もうメールは行かないよ。それにしても、さすが真治くん。私が見込んだだけはあるわね」

「なにが、見込んだだよ! 」

 悔し紛れにメールを送る。しかし、メールは返ってこなかった。

 それにしても、殺人衝動か……。

 いったい誰に対してなのか? それとも、無差別に殺意を向けるのか?

 あの優しい優奈さんが、一体なにがあって殺意を抱くことになったのか?

 俺には、その殺意を包みこむことができるのか?

 夜は静かに更けていく。

「夕奈って、何でもかんでも怖がって。七人目の人格は出ないんじゃなくて、出てこれないだけなのに。でも、さすが真治くん。もう気が付いているなんて、私が見込んだとおりだわ。この後が楽しみ」

 鬼無と優奈たちの意識にズレが生じているが、鬼無の推測は将来的には当たらずも遠からずの結果になる。



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