第3話 図書委員会の会議が終わり
図書委員会の会議が終わり、僕と海里さんは、荷物を持って、校門に急ぐ。
「鬼無くん。明日、図書室、忙しいかな? 」
「海里さん、新学期そうそう借りに来るやつなんて、そんなにいないよ。春休みは本の棚卸があって、貸し出しが禁止だったから、返却もないし」
「そうか……。 じゃ、明日はゆっくり話せるかな?」
「えっ!」
「鬼無くん、私はこっちだから。さようなら」
そういって、僕の家とは反対側の方向に歩いていく海里さん。僕は挨拶もできずに、今、海里さんに言われた言葉に金縛りになっている。
はっと気が付いて。海里さんの後ろ姿に声を掛けた。
「送って行かなくて大丈夫? 」
「うちの家、学校から近いから大丈夫。また、明日ね」
「ああ、じゃあ、明日」
僕とゆっくり話したい? 膨らむ期待。僕は、今夜は妄想で眠れないかもしれない。
翌朝、僕は寝不足で学校に行く。
僕の席の隣には海里さんが座っている。挨拶だけ交わすと、海里さんは窓の外をぼんやり見ている。
相変わらず、海里さんの周りには友達がいない。
昨日の話はなんだったんだ? まったく僕に興味も向けない。整った横顔を見ながらため息を吐く。のぼせあがった僕がバカだった。天翔学園の氷華は、近づく者の心を心底凍(こご)えさせる。
昼休み、仕方なく海里さんに声を掛けた。相変わらず声がかけ辛い。むちゃくちゃハードルが高いのだ。
「海里さん、図書室に行こうか? 」
「ええ」
図書室に行こうとする海里さんに俺は後ろから声を掛ける。
「海里さん、職員室で図書室のカギを取ってから行くんだよ。図書室は普段は、カギがかかっているから」
「そうなの? 」
そうやって、二人並んで職員室でカギを受け取り、図書室に行く。
昼休みは四〇分間、弁当も図書室で食べることになる。海里さんの弁当は一口サイズのおかずがきれいに並び、上品に口に運んで食べている。
僕は購買で買ったパンと缶コーヒーで、いつも昼は済ませている。
「鬼無くんは、お弁当を持ってこないの? 」
「ああ、僕はいつも購買かな、今日は、焼きそばパンが買えたからラッキーだった」
「ああ、焼きそばパン、人気みたいね」
「すぐに売り切れるんだ。ホントはサンドイッチとかがいいんだけど高いからなあ。海里さんはお弁当? 」
「私はいつも自作なの。親は両方とも忙しいから……」
それだけ言うと、いつものように窓の外をぼーっと見だした。
せっかく、話ができたのに、当たり障りの無い会話ですぐに終わってしまった。しかたなく、僕も携帯小説を取り出し読むことにする。
昼休みに、クラスメートの野郎や、僕の知り合いが図書室に様子を見にくるが、二人して別なことをしているのを見て、安心して帰って行く。
そのうち何人かが、本を借りようと海里さんに話しかけるが、海里さんは無言で図書カードに印鑑を押し日付を書き込んでいる。
なんだ、この話かけるなオーラは? そうか、僕は当たり障りの無い会話が、できただけましなんだ。これが海里さんにとってゆっくり話すということなんだ。
海里優奈さんという人間が、少しだけ理解できた気がした。
そして放課後、再び、海里さんと図書室で貸出の仕事をする。
しかし、昼休みのような冷やかしは、昼間の仕打ちでもう来ないし、部活が始まると、ますます人が来なくなる。
まあ、図書室が開店休業なのはいつものことだ。
「ああっ、暇だな。真治」
「えっ、今、海里さんが言ったの?」
僕は自分の耳を疑い、手に持った携帯小説から目を離し海里さんを見た。
すると、海里さんの座っていた場所にはサラサラの金髪をポニーテールにしたエメラルドグリーンの瞳の美少女が、脚を組み頬杖をして俺を見ている。
「……?!……」
「どうした? 真治、俺の顔になにか付いているか?」
声のトーンと顔立ちは間違いなく海里さん。しかし、自分のことを俺って言っちゃうし、その雰囲気は不良みたいにワイルドだ。普段は清楚な海里さんもなにか溜まっているものがあるのか?
「あの……、海里さんでいいんですよね。それってウイッグとカラコン?」
「ははっ、この髪と瞳は自前だ。なにせ真治とは初めて話すからな。100%の自分を見てもらいたいんだ。俺のことは勇奈(ゆうな)と呼んでくれよ。勇気の勇と奈良の奈で勇奈だ」
まったく何を言っているのかわからないけど、話を進めないといけないよな
「あの、勇奈さん。どうしたんですか」
「昨日、言っただろう。ゆっくり話がしたいって」
「それが勇奈さんの地なんですか?」
「はははっ、地だって。ちょっと待ってろ」
海里さんがちょっと黙ると、今度は、すごく怯えた雰囲気なる。さらに髪の色は水色にみるみる変わると思い切って上目遣いに上げた瞳はアクアマリンの瞳の色になっている。
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