君を想って、

あん彩句

未来を繋ぐ


 ハンドルにもたれて眺めていたスマホが震えた。


『ごめん、遅くなる』


 そうメッセージを受け取ったのは数時間前。


『もうすぐ終わると思う』


 そう受け取ったのは一時間前。今、画面が伝えたのはため息を吐きたくなるようなメッセージ。


『もう少し待って』


 やられた、待ちぼうけだ。



 いいよとメッセージを返したら、土下座の女の子がエヘッととぼけて笑うスタンプを送って来た。連絡できるってことは、自分の仕事でというわけじゃなく、誰かの何かが終わるのを待っているところなんだろう。


 うっかりミスが多いっていう新人さんの尻拭いかな——さっきまで足早に駅へ向かう仕事終わりの人で混み合っていた通りを眺めた。


 このところただでさえ忙しそうだったのに、休みを合わせて取った有給のはずが返上になった。責任感が強い上に頼られ上手、さらに仕事大好きってなったら、デートより仕事だよね。


 弟たちの話によると、「誰かの限界をちゃんと見極められる」けど「それまでは絶対に助けてくれない」んだってさ。


 俺の限界もちゃんとわかってくれてるかな。



 電車より楽かなと迎えに来たものの、待ちぼうけで駐車料金だけが嵩む。こんなことなら部屋でも掃除してればよかったか?



「今日のご飯は何? 和? 洋? 中?」


 手持ち無沙汰にメッセージを送る。どんなに疲れてても、きっとその手際の良さでパパパッと作ってくれる気なんだろう。


 終わって買い物、それで帰宅——俺が迎えに来なかったら、いったい何時になっちゃうわけ?


『和食』


 即答だ。もうメニューも決まってるはず。それなら、と文字を打つ。


「食べたいのある」


『何』


 ちょっとイラッとしたな。せっかく考えてるのにって、しかも積もったイライラを重ねて。


 俺には八つ当たりできるもんね。


 スマホを眺めてニヤニヤする俺はちょっと気持ち悪いかもしれないけど、しょうがないよ、大好きが止められないんだから。


 だからいいでしょ、甘やかしても——俺の未来の奥さんを。


「緑のたぬき」


 すぐに付いた既読。俺の心の中を全部ちゃんとわかって、笑っただろう。左頬にエクボを作って、普段はきつめの目を垂らして、ふふって口角を上げて。


『そんなに疲れてないって』


 そう送られてきたメッセージに続いて、『OK』のスタンプ。


『赤いきつねも買って半分こしよ』


 だってさ。なんだよ、俺の優しさだけわかってくれればよかったのに、裏の裏の願望までわかっちゃったか。


 料理なんてさぼって、一緒にいてほしいって、さ。




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君を想って、 あん彩句 @xSaku_Ax

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