3回目 地元の魅力

 旅行やドライブで来ているのだろう。県外ナンバーの車が走っているのをよく見かける。連休になると、その数はぐっと増える。県外の人が地元に来てくれるのはとても嬉しく、ありがたいことではあるのだが、時々「何がそんなにいいのだろう」と思うことがある。

 関東圏に近いこともあり、品川や横浜、山梨といったナンバーを多く見かけるが、全国津々浦々、時には札幌ナンバーや鹿児島ナンバーまで見かけることがある。

 こちらからすれば、そのナンバーの土地に魅力を感じ、わざわざこちらに来なくても十分に自分たちの地元で楽しめるだろうに、と思うが、彼らにはこちらのほうが魅力的に見えていたりするのだろうか。


 年に1回、健康診断を受けているのだが、年を重ねるたびに色々と指摘事項が増える。そのたびに「食生活の見直しと、適度な運動をしてください」と医師に言われるのだが、どちらもなかなか実行に移すことができずにいた。

 何がきっかけだったろうか。ある時に一念発起して、少し歩いてみようと思った。最初は家の近所をうろうろと散歩する程度であったのだが、何日かすると何か物足りなくなってきて、もう少し長い距離を歩いてみようと思うようになった。そういえば、よく観光客の来る湖沿いをランニングやウォーキングをしている人がいたぞ、と思い出し、自分もその湖のほとりを歩いてみることにした。

 普段は車で湖沿いを走ることはあるが、歩くのは初めてだった。湖のほとりには遊歩道が整備されており、そこを歩きながら打ち寄せる波や、水面に跳ね返るキラキラした太陽の光を見ていたら、地元ではないどこかに旅行に来ているのかと錯覚した瞬間があった。

 普段は気にも留めていない湖だが、こうして近くに寄って普段とは違う見方をすればこうも美しく、魅力的に見えるものかと驚き、それからは暇さえあれば湖の回りを歩くようになった。ほかにも普段は横目で見て終わり、そこにあって当たり前だと思っている神社や城址があるが、ちゃんと向き合えば湖と同じように見えるのだろうか。今度は湖ではなくてこちらの方もゆっくり歩いてみようか。

 地元に長いこと住んでいるが故に、あまりにも当たり前に思っていて気づかない魅力がそこにはあった。どこかいいところはありますか、と聞かれればさも当然にその湖や神社や城址を紹介すると思うが、実はそれらのことを全く分かっていなかった。反省しかない。

 とかく、連休などになると地元を離れて違う土地へ行きたくなるが、自分の地元をゆっくり見直すのも楽しいと思う。自分の地元も、十分魅力的じゃないか、と必ず気づかせてくれる。自分もしばらくは、地元の魅力探しをしながらウォーキングを続けてみたいと思う。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る