第9話 家族

 アモスさんの家に向かいディネットの屋敷での出来事を全て話すと、

 


「すまねえ、本当にありがとう店長......」


 

「ありがとうございます。 なんてお礼をいったら......」  



「ありがとう!タニアお姉ちゃん!」


 

 皆から感謝されて、なんだか恥ずかしくなった。



「ううん、アモスさんは悪くないんだもの、あのパーティーには職人ギルドの人もいたからきっと、大工として職人ギルドにも戻れると思うわ」



 それを聞いてアモスさんは涙した。



「このお金はわたしが届けるから、ゼブル協会の場所を教えて」



「そ、それは駄目だ! あいつらは何をするか分からんゴロツキ共、危険すぎる!」



「ううん、だから対策もちゃんとうったわ、頼んだもの出来てる。」



「ああ、いわれた物は作って店に置いてきたが、あれで何を?」


 

「大丈夫、待ってて、多分あいつらこの店をまだ監視してるからアスモさんは二人を守ってて」



 アモスさん達は最後まで、わたしを止めたがゼブル協会の場所を聞いてから、店に戻った。



 そして、わたしはゼブル協会のあるスラムに来ていた。

 


 古びた大きな屋敷に入ると、柄の悪い男達が、お酒を飲んで騒いでいる。 にやにや笑う男達の前を通りすぎて奥に進むと、大きなソワァーに一人で座りお酒を飲む、顔に大きな傷のある男がいた。

 


 その男の前に立つと、男は



「あんたかい、アモスの借金返すって物好きは」



「ええ、お金は返します。ちゃんと持ってきました」



 男はヒューと口笛を吹くと、



「俺はレイガル、ここの元締めをしている者だ。じゃあ金を見せてくれ」



「その前にアモスさんの借金の証文を渡してください」



「フッハッハ、わかった、ほらよ」



 渡された証文を見ていると。



「心配しなくても、偽物じじゃねえよ」



「貴族ディミットと組んでアモスさんを陥れたのに」



 わたしがレイガルを睨むと、



「ありゃ、あっちから頼まれたんだ。あんなクズを信じたアモスがバカだったのさ」



 わたしはお金を机に置くと、レイガルはお金を数えだした。



「もうこれでいいでしょ、これ以上アモスさん家族やわたしに関わると、大変なことが起こるから......」



「ハッ、何が起こるのかねえ、ん? 足りないな」



「そんなはずはないわ! ちゃんと100万ゴールド持ってきたわ!」



「お嬢ちゃん、金をかりたら利子ってのが付くんだよ」



 レイガルは机をドンドンと叩いて威嚇してきた。



「返せば利子は入らないって言ったでしょ! それにアモスさんからさんざん奪ったお金だってあるじゃない!」



「俺は聞いてねえし、かりに誰かが言ったとしても、そんなもん口約束だ。 証文も証拠もねえ、あと100万持ってきな、これが証文だ!」



 そう言って、レイガルは本物の証文を出してきたやはり、さっきのは偽物だったのだ。

 

 

 わたしは意外にも冷静だった。 

 


「わたしさっき言ったわよね、これ以上関わるなと」



「だから、どうした」



「ラピス」



 わたしは小さい声で呟いた。 すると、ベキベキベキという音が建物中に響き渡り、男達はパニックになっている。



「何をした!?」



 驚くレイガルにわたしは、



「わたしは魔法を使えるの、それはとても強い魔法、あなた達なんか葬るのは簡単なこと」


 

「馬鹿な! ハッタリだ! やれるならなぜもっと早くやってんだろ!」 



「アモスさんが一人で背負っていたからよ、わたしは知らなかった、あんなにつらい想いをしてたのにわたしは気づいてあげられなかった......」



 ベキベキベキという音が続き屋根が、めくられて空が見えた。



「わたしも罪は負いたくないけど、あなた達が私達にこれ以上関わるなら......」



 そう言い終わるやいなや、屋根が完全に剥がれ空の星が見えた。



「わ、わかった! もうあんたらには関わらない! だから、許してくれ! ほら、この証文を持っていってくれ!」



 レイガルは取り乱し、怯えながら証文を渡すとぶるぶると震えている。



 帰ろうとすると、男達は怯えた目で、こちらを見ていた。 わたしが睨むと、ヒッと小さな声を出して顔を背けた。



 わたしが外にでると、呆然としたハンマーを持ったアモスさんと、セレンさんとミリアちゃんが待っていた。



「店長、こりゃ一体......」



「証文は取り返したし、もう手出しもしてこないでしょう」



 とりあえず、アモスさん達はわたしの家に来て、そう言って四人で店まで帰った。


 

 店に着いて、



「もういいわよラピス」



 わたしがそう言うと、何もないところから大きな布をとってラピスが現れた。



「その布って俺が作った......」

  


 驚くアスモさんに、 


「ええ、これにわたしが水でといた光遮土を染み込ませて、魔力を加えると、光を反射して人には見えなくできるの」



「そうか! ゼブル協会をぶっ壊したのはラピスだったのか! ありがとうラピス!」



 アスモさんに言われてラピスは伏せると、くるるるると楽しそうに鳴いた。



「すごーい竜だー!」



「わたしの家族ラピスだよ」



 ミリアちゃんがゆっくりと近づくと、ラピスはそーっとほほを寄せた。 ミリアちゃんは頬にくっついて撫でている。



「これがラピスさんなんですね、主人から聞いていましたけど、とても優しく賢い竜だと」 



 セレンさんは驚いてはいるが、優しい眼差しでミリアちゃんとラピスを見ている。



 そうして皆を店入れて夕食をとった。 両親を失ってから一番すごく楽しく幸せな夕食だった。



 一週間後、何も起こらないことを確信してアスモさん一家は帰っていった。 予約分の乾風具と保冷箱を売ってきてくれるという。 



 「あーいっちゃったね」



 でも、元々大工さんだ、大工に戻れば腕もいいのだし、前の生活にすぐ戻れるだろう。



 さあわたしはどうしようか、商品を作るにしても、誰かを雇うか、委託しないと商売はできない。 アモスさんに相談して誰かを仲介してもらうか、それともコツコツ一人でものを作ってできたら売りに行こうかな......



 そんなことを考えているうち、雨が降ってきた。



 店に急いで入り、何かをしようと考えたが、特に何も思い付かない。

 元々広かったこの洞窟が、アモスさん達がいなくなって、とても広く、そして、冷たく感じる。



 とりあえず、何か商品のアイデアを出そう、そう思って、母さんの本を読んでみた。 だが、何も浮かばなかった。


 

 ラピスのそばで座り、もたれかかって、わたしは楽しかったこの一ヶ月を思いだしてみた。



 両親が死んでから、ただ店を潰すまいと生きてきた。 王子の求婚を断って追放されて、何とか生きようとした。 ラピスと再会して、アモスさんと出会い、店を作れるかもと思った。 店を作りはじめて商品をつくって売れたときは、嬉しかった。 色々あったけど幸せだった......



 でも、この一週間はそれを超える幸せだった......

 

 

 くるるるる、ラピスは優しく鳴いて首を曲げタニアを抱えるように頭をそばに置いた。



 そうね......わたしにはあなたがいるものね。



 わたしがラピスの頭を撫でていたら、遠くから声が聞こえる。



「タニアお姉ちゃーん」



 キリアちゃんが飛び出し抱きついてきた。



「キリアちゃん!? とうして」



「すまねえ、店長、こっちに住まわせてくれねえかな」



 アモスさんが、頭をかきながらそう言う。



「アモスさん、大工の仕事はどうするの?」


 

「まあ、仕事ならどこでも受けられるし、こっちの商品、量産するにも、人手が足りねえだろ、弟子達にも仕事回したいしな......家で相談したんだけど......」



「いくらラピスさんがいるとはいえ、この人タニアさん一人ここに置いとくのが心配なんです」



 セレンさんが続けてそう言った。



「当然だろ、あの......なんだ......あれだ......店長は、その......俺のまあ娘みたいなもんだからな......」


 

 そう照れながら言った、それを聞いてわたしは涙があふれて、アモスさんに抱きついた。



 その時、ラピスがくるるるると嬉しそうに鳴いた。



 わたしには家族ができたのだった。

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王子に求婚されて断ったら国を追放されたのですが、竜の洞窟で道具屋を開いたので平気です。 @hajimari

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