第8話 パーティー潜入

 アモスさんの家に着くと、家族が飛び出してきた。



「あなた、どうしたの!」  



「お父さん、だいじょうぶ!」



 アモスさんをベッドに寝かせ、事情を話した。

 


「......私はアモスの妻セレン、こっちは娘のキリアです。 店長さんのお話は夫より聞いております。 良くしていただいているのに、こんなことに巻き込んでしまって......」



「セレンさん詳しく事情を話してくれませんか」



 わたしがいうと、セレンさんは全てを話してくれた。



 一年前、ディミットというこの街の貴族が、アモスさんの腕を見込んで屋敷の建築を依頼してきた。 貴族の屋敷の建築を受けたとなれば、名誉や箔がつく、一も二もなく飛び付いて仕事を受けた。 だが、屋敷が完成し代金を請求しても一向に払わない。 それどころかその契約書の不備をつき、自分を貶めたとアモスさんを糾弾、職人ギルドに圧力をかけ追い出したらしい。


 

「その契約書見せてもらってもいいですか?」



「あっ、はい」



 その契約書は、貴族ディミットの名前がない、恐らくこれで逃げ切ろうとしたのだろう。



「必ず署名したとはアモス本人がいってたんですが、名前がないのです......」



「きっと、魔法かなにかで消えるようにしてたんでしょうね。 最初からアモスさんを騙すつもりだったんだわ......」



 許せない......わたしを追放した王子の時でさえ、こんなに怒りがこみ上げてきたことはなかった。 こんな真面目でいい人を陥れるなんて、絶対に許さない! 



「お姉ちゃん......」



 わたしを見上げて、ミリアちゃんが心配そうにぬいぐるみを抱いて見ている。



「大丈夫、ミリアちゃん、お姉ちゃんが絶対に守ってあげる! アモスさんも二人も......セレンさんディミットのことで知ってる事どんなことでもいいので、全部教えて下さい。」



「......聞いた噂では、色々な職人を騙して、ゼブル協会に借金させて利益を得てるとか......あとは毎月一回パーティーを開いてるぐらいですが......」



「そうか、それで......全部仕組まれてたんだ......分かりました」

 


 お針子をしているというセレンさんにお金を渡し、貴族のようなドレスや化粧品、バッグをお願いして、わたしは一度店に帰ることにした。



 荷台の店を引いて帰るとき、



 ふぅ、大変、アモスさん、何もない荷台ですらこんな重いのを1日おきに運んでたんだ......



 そう思うと必ず何とかしなければという想いにかられた。



 早速店に着くと、迎えに来たラピスに、



「あなたの力をかりるかもしれないわ、その時はお願いね」



 わたしがそう言うとくるるるると鳴いた。

 

 

 店に入って、幻香キノコ、と紅魔石この二つがあれば......あとは、光遮土を水でといて......よし! わたしは徹夜であるものを作った。


 

 2日後、アモスさんの家に行くと、



「......面目ねえ、店長にまで、迷惑をかけちまって......」



 肩をおとす、アモスさんに、



「大丈夫!わたしに作戦があるの! それよりこの紅魔石、宝石のように加工できる? ある程度でいいのだけれど......」



「まあ、形ぐらいなら......」



「あと、ディミットのパーティーいつか調べてほしいの」



「まさか! 乗り込むつもりかい!? だが......契約書が......」



「そこも考えているから、アモスさんには作って欲しいものがあるから、それを作り終えたら、そのあと注文を受けた、乾風具と保冷箱を作っていてちょうだい」


 

 不安そうなアモスさんにそう頼んで、キリアちゃんと遊んだ。



 夕方、調べてきたアモスさんにパーティーの日時を聞いて、



「2日後ね、分かったわ、それまでに準備を終わらせましょう」



 それから、2日アモスさんの家に泊まらせてもらって、色々とセレンさんと話をした。



「逃げようとも思ったのですが、どうやら監視されているようなんです。娘に危害が及ぶといけないので、我慢して......」



「そうみたいですね。 外にこっちを見てる男の人が何人かいますし......ドレスの方、大丈夫ですか?」



「あっ、はい、もう出来上がります。でも、店長さんにこんなご迷惑をおかけして申し訳ありません......」



「いいえ、アモスさんがいなければ、わたしはお店も作れなかった。

 こちらが感謝してるんです......それに、一人だったわたしは竜のラピスと一緒に家族のように思ってましたから......」



「だから必ず、この問題を解決して、皆さんを守りますから」



 わたしがそう言うと、セレンさんは涙した。



 ディミットのパーティーの日、わたしはセレンさんの作ってくれたドレスに身を包み、化粧をして髪を整えた。



「タニアお姉ちゃん、きれいー」



「ありがとう、ミリアちゃん」



「貴族のお嬢様のようです」

 


 セレンさんにも誉められて照れるが、気持ちを切り替え、頼んだ馬車を使いディミット邸に向かう。



 向かう馬車の中、幻香キノコから作った香水を体に振りかけた。



 ディミット邸に着くと、門の前で使用人が



「すみませんが、招待状の提示をお願いします」



「ごめんなさい、どうやら失くしてしまって、招待されて、来ないのは失礼かと思いきたのですけれど......」



 そういいながら、胸に着けた大きな紅魔石を見せた。 それを見た使用人は緊張し、



「いえ、失礼致しました! どうぞお入り下さい!」



「では......」



 とわたしは門の中に入った。



 やはり、こんな紅魔石、王族や大貴族の一部しか持ってないから、失礼をすれば主人の怒りを買うわ。 ここまでは思った通りになったあとは......」



 パーティー会場に入りその豪華さに驚くも、周囲の視線が気になった。  効果がでてきたわね、幻香キノコから作ったこの香水は、周囲の人間にとても魅力的にうつるらしい、注目は苦手だが餌が食いつくまでは仕方ない。



 そう思っていると、背の低い小太りの男が近づいてきた。



 「これはこれは、我がパーティーに来ていたきありがとうございます」



 来た! これがディミット! わたしは平静を装いつつ話をした。



「お呼び頂き光栄です。それに素晴らしいパーティーですね」



「ふはは、そんなことはありませんよ」



「それにもまして、皆様このお屋敷、素晴らしいとは思いませんか」



 わたしは周囲に聞こえるように大きな声で言った。



「おほめいただいて光栄です、100万ゴールドもしましたからな、なかなか大貴族でも100万の屋敷は建てられません、はっはっはっは」



 ディミットは上機嫌で自慢した。



「100万ですか! 驚きました。 わたくし新しい別宅を建てようと思っているのですけれど、出来るなら、この屋敷を建てた人物を紹介していただきたいのですよ」



「えっ......ああ、アモスという大工ですが......」



「このようなお屋敷を建てられるなんて、素晴らしい......アモス? アモスとおっしゃいました?」



 わたしは、俳優のように大袈裟に驚いて見せた。



「アモスが何か......」



 ディミットは、怪訝な顔をしている。


 

「実はある人物から契約書を買い取ったのですが、その契約書を書いた貴族を探していまして、こちらディミット様だったのですね」



 わたしは、アモスさんの契約書を見せて言った。



「い、いや、これは、わたしでは......」



 ディミットはごにょごにょと何か言ったが、わたしは、



「100万ゴールドもの屋敷など建てられるものは大貴族でもいない、やはりこれはディミット様の契約書ですね。 今すぐわたくしにお払い頂けますか、出来なければ、裁判に訴えねばなりません。 負けても勝っても、貴族としての名誉に傷が付いてしまいますから、最悪この国から貴族としての称号剥奪、または追放......」



 周囲の視線がこちらに向かっている。ディミットは目を白黒させながら、使用人を呼び、



「は、はい、いますぐお金はお払いします! ですので、裁判は......」



「分かりました、ですが......」



 わたしはディミットに近寄ると、



「ゼブル協会というゴロツキと関係があると聞いています。 もしこれ以上彼らと関われば、あなたは全てを失うでしょう」



 そう耳元で告げ、使用人からお金を受けとった。


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