第5話 商品開発

 美味しい昼御飯の後、わたしはラピスと共に、森に採集に出掛けた。

 

 

「あの......やっぱりラピスがいるとはいえ、危険じゃないか......俺も行こうか?」 



 アモスさんは心配そうに言った。



「大丈夫、大丈夫、平気よ」



 わたしはそういって、森に入った。




 心配性なのよねアモスさんは、でも心配してくれる人がいるって幸せなことだわ。 そう思っていると、ラピスは隣を歩きながら、小さくくるるるると鳴いてわたしに頬を寄せてきた。 そうね、ラピスも心配してくれるものね、ありがとう。



 薬草はどこでもあるので、採集には小一時間もかからなかったけど、 何かないかと散策してみると小さなキノコを見つけた。



 これ!? 幻香キノコ! 始めて見た! これは持っていこう。 まあ、売るには問題があるけど......



 他にも、冷水晶や、吸水樹の根と皮、風纏鉱ふうてんせき光遮土こうしゃど、紅魔石よりはるかに効果は少ないが魔力を回復する石、蒼魔石そうませきまで見つかった。



 すごい! 珍しいものばかりだ。 魔力を含む物は、なかなか入手がしづらいはずたから、どうもこの森は魔力が多いようだった。 魔物も魔力の影響で動物達が変異したものと聞いたことがあった。

 


 アモスさんに作ってもらった木の箱と、かごが一杯になるまで拾ったから帰ることにした。



 夕方頃に帰るとアモスさんが、安心したのか満面の笑みで向かえてくれた。



「少し遅いんで心配したよ、夕食の準備をしたから入ってくんな」



 あっ! とわたしは思った。 洞窟の前面が木で覆われ小さなドアがついていた。



「塞いだの! あんな大きな穴を!」



「ああ、横殴りの雨や風は中に入っちまうし、もし川が大雨で増水したらこっちまで入ってきてしまうからなあ、とりあえずだが、薄い木の板を合わせて仮に塞いどいた」



「これで入り口から全部を利用できるわ! ありがとう!」



 店に入った私達は、夕食を食べて明日のことを話した。



「とりあえず、今日50個ポーション作って、明日売り出しましょう」



「50個でいいのかい、まあ朝までじゃ、疲れるしなあ」



「ううん、今どのくらいポーションが市場に出てるかわからないから、

もし大量に出回りはじめたら、価格の値下げ競争が始まるし、毎日大量にあると、いつでも手に入るから、今買わなくてもいいやって思われちゃう可能性もあるのかなって」 



「なるほどな、確かにそうだな」



「それに、今回は新しい商品も出したいから」



「わかった、あっ、あとラピスに手伝って欲しいことがあるんだ」



 そう言うとアモスさんは大工道具を片手にラピスの部屋に向かった。


  

「あっ! 下が木の床になってる!」



「ああ、直に寝ると痛いかなと思ってな、重さに耐えられるよう、下に石を置いてる、まだ部屋全部には置けてないがな」


 

 ラピスは気に入ったのかペタペタ歩いている。



「ラピスには、外に置いてある俺が作った積み上げてた板と、大きな石をこの上の穴の横に置いて欲しいんだ」



 ラピスは言われた通り置いたようだった。



「で、俺を洞窟の上に連れてってくれないか」



 おっかなびっくりラピスの手に乗ると、手にしがみついて上に登った。

 


 トントンと金づちを打つ音や、ドンと大きな音が聞こえ、上を見ていると、天井の穴に板を通し始めた。



 しばらくすると、入り口から汗をかいたアモスさんが来て、



「なんとか出来た」



「これって天井、でもラピス入り口から入れないんじゃ......」



 とわたしが言うと、



 ギイイと天井が開いて、ラピスが降りてきた。



「これ扉なの!? すごい!」



「雨が降るとラピスが濡れるから、かわいそうだろ、だから蝶番つかって、上下に開く天井にしたんだ」



 照れながらそう言うアモスさんにラピスはゆっくり頬を寄せくるるるると鳴いた。



「ほら、ラピスもありがとうって!」



「ははは、まさか竜に感謝されるなんてなあ」

 


 そういって、また顔を指でかいて照れた。



 私達はその後ポーション作りを始めた。前に一度やってるので、今度はかなり早く作業は進んだ。



「薬草をすりつぶすのはもう終わっちまったな、店長何かすることはあるかい」



「あっ! アモスさん、この水晶を小さく割って欲しいの、そして角を丸めて人が触っても怪我しないよう」



 わたしが水晶を渡すと、



「冷た! この水晶、氷みたいに冷たいぜ」



「そう、それは冷水晶、魔力が出てて常に冷たいのよ」



「ああ、これが、熱だしたとき使うってやつか」



「そう、少し高価だから庶民はあまり使わないけど、これなら安く出せば売れると思うの」



「なるほど、でも貴族とかに高くは売らないのかい」



「これは便利なのだから、みんなが使えるように安く売りたいの、だめかな......」



「いや、それがいいと思うぜ、みんなが幸せになる。 俺が言えた義理じゃないが、人の為になるまっとうな商売が一番さ」



 そう言ってアモスさんは水晶を割り出した。



 そうやって深夜になる前に今日の作業は無事終えることが出来た。



 次の日、アモスさんは朝早くから出掛けていき、わたしは川で洗濯をすることにした。



 ふう、かなり重労働だわ、量が多いと大変ね。



 洗ったものをアモスさんが作っておいてくれた物干しに洗濯物をかけ、ラピスに羽ばたいてもらい乾かした。



 うーんやっぱりラピスの風ならすぐ乾くわ! でも普通に乾かしてたら、大分時間がかかるわね......こういうのも何かあればいいけど、あとでアモスさんに相談してみよう。 



 洗濯が終わった後、わたしは新しい商品を作る為、店でアモスさんが作ってくれた小さな机の上に拾ってきた材料とお茶を置いた。



 風纏鉱ふうてんこうは魔力を与えると風を生む、これで洗濯物乾かせないかな...... 魔力を与え続けるのは無理か......ダメだわ。



 次は、光遮土こうしゃどか......魔力を得ると光を反射する、鏡があるし......売り物としては価値は低いわ。



 蒼魔石そうませきこれは紅魔石と違い、結構市場に出回るから、売っても問題はないけど、回復量が少ないからどっちかと言うと、宝飾品としての需要の方が高い、ただ庶民には必要性があまりないし......

  


 うーん加工すれば宝石として売れるけど、さすがにアモスさんも加工技術はないと思うし、なにか売れる方法はないかな、そう思いながら石を触って温かさを感じていた。



 かなり温かい...... そうか!



 小さなものを洗い飲みかけのお茶に入れてみた。 少し待つとお茶から少し湯気が出てきた。 やっぱりお茶の保温ができるわ!

 

 

 それに簡易の保温具としても使えるはず、市場に出回ると言っても加工済の宝石、この原石のままは売られないはず。 ただ名前が蒼魔石じゃ分かりづらい、温石おんせきでいいか。

 


 そして、この吸水樹の根と皮、水を吸い上げ乾燥する。 これはほとんど市場に出回らない。 少しだけ珍しいものだけど使われることが余りないから、価値は低い、パンの近くに置いたらカビづらくなるかしら......根を持ちながら思案していると、机にお茶をこぼした。



 あー! あっ、でも! これ使えるかも!



 こぼしたお茶を皮で拭いてみるとすぐ乾いた。 よし! この皮をほぐして繊維にして固めたら、布巾に使えるかも! 根は細く切ってまとめてホウキにすれば、水も吸いながら掃除できる。



 全部さっそく試作品を作ってみた。出来は不恰好だが使ってみると、ちゃんと使うことができた。



 見た目は悪いけど使うことはできる! よし、ホウキと布巾以外はわたしでも作れるから、さっそく量産しよう!



 そう思ったわたしは、とても充実した気持ちで、せっせと作り始めた。 

 

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