第4話 初売り上げ

 夜通しポーションを作り続けたわたしは、昼過ぎまで寝てしまっていた。 少し遠くからラピスが心配そうにこちらを見ていた。


「大丈夫よ、大分寝たからすっきりしたわ」


 わたしがそう言うと、安心したように首を伏せて目を閉じた。

 

 とりあえず、探してきた薬草は全部使ってしまったし、アモスさんが帰るまであまり動いたら、昨日みたいに怖がらせてしまう。 昨日の怯えたアモスさんの顔を思い出して、つい笑ってしまった。


 そして、わたしはラピスのそばに寄り頭を撫でていた。 その時、ラピスがいる天井に穴の空いた場所から向こう側に、まだ洞窟が続いているのに気づいた。


 それは、人一人通れるほどの穴で、なかは暗く奥まで続いているようだった。 この狭さじゃラピスは通れないし、何かいたら危ないけど、このまま調べないと、ラピスが襲われるような魔物がいると困るし......


 よし! 行こう!


 わたしは護身用として包丁とたいまつを片手に穴の中に入ってみる。

 中は、カビ臭く湿度も高いようで、汗が滲んできた。 ああ、先に川で水浴びでもしてくればよかった。 そう思いながらかなり長い道を歩いた。


 少し開けて来たところに着いた。 そこは、何もなくただ広い空間があるだけだった。


 なんだ何もないじゃない、戻ろうとしたわたしは、たいまつの明かり

 の範囲の外が少し青く光って見えた。 何だろう? たいまつを下に向けると、その部屋が青白く光っている。 これは......壁に近づきよく見ると、苔がびっしりと生えていた。 この苔が光っていたのね、みたこと無いものだから、持って帰って調べよう。


 戻って川で水浴びをしてから、少しだけビンに持ってきた光る苔を調べてみた。 家から母の薬草や植物、鉱物、魔法の本を持っていたから、その中から調べてみるが、この苔のことは載ってはいなかった。

 

 うーん、書いてないな、まあ全てが書いてあるわけじゃないから、他の本でも手に入れれば載ってるかも、ただ珍しい苔の可能性はあるから、何かの道具に使えるかもと、わたしはそう思った。


 アモスさん、まだかな、そう洞窟の外を見にいくと、あたりはとっくに暗くなっていた。 そんな時間になってたなんて、わたしどれだけ調べてたんだろう。


 そう思っていると、向こうから声がする


「おーい! 店長! 今帰ったぜ!」


「どうだったアモスさん!」


「ああ! バッチリだ! 売れたよ!」


「やったね! まあ中には入って話はそれから」


 店に戻ると、アモスさんが懐からじゃらじゃら音のする袋を、自慢げに取り出した。


「ほら完売で、1800ゴールドだ!」


「すごい! わたしの実家の1ヶ月分の売り上げだよ! たった1日で......」

 

「いやぁ店長が言ったように、ポーション一個18ゴールドで翔ぶように売れたなあ、俺は最初は安く売った方がいいと思って、相場20ゴールドを半額にしたらなんていっちまって」


「薬はあまり安くても効果を疑う人が多いから、少しだけ減らして売る方がいいと思ったの」


 さすが俺が見込んだ店長だ! アモスさんからそう誉められちょっと恥ずかしくなってしまった。


「この1000ゴールドはとりあえず店の運営資金にしておいて、800ゴールドはアモスさんに......」


 わたしが袋からお金を分けようとする。


「ちょ、ちょ、待ってくれよ、こんなにはもらえねえ、給金じゃ多すぎるよ」


「アモスさんが手伝ってくれなきゃ、わたしひとりじゃ店も作れなかったし、それに、ご家族にお金を送ってるんでしょ」


「ど、どうしてそれを......」


「昨日持ってるお金は全部つかったって言ってたから、失礼だけど手に入れてきたものの額的には、それほど多くはならないし、職を転々としながらでも、働いてたならもう少しお金を持っていたはず。 だったら、ひとつしかない。 アモスさんみたいに家族思いの人が家族を放ってるおけるはずないものね。


 わたしがそう言うと、アモスさんは目に涙をため、すまねぇ、すまねぇと呟いた。


 食事を終えたあとアモスさんが聞いてきた。


「店長、次はどうするんだい、材料ないから取りに行くんだろうけど......」


「まず、ラピスがいなくてもアモスさんが安全に作業できる場所を確保したいから、洞窟前に大きな柵を作りたいと思うんだけど」


「ああ、そりゃあ助かる、ここから町までは、比較的明るいからか何とか切り抜けられるが、洞窟近くは魔物の気配が強いんだ。 怖くてたまらん」


 ぶるると震えるアモスさんに笑いそうになるのをこらえた私だった。


「じゃあ朝作業を始めて、昼からわたしとラピスは材料の採集を始めるわね」


 次の日。


 私達はさっそく柵の製作に入った。 ラピスは前に折った木の先を牙ガリガリ削ると円錐の形にし、器用に地面に突き刺していった。


「こりゃ驚いた。ラピスはこんなこともできるのか、大工だって簡単に出来そうだぜ」


 わたしはヒモをねじりながら太いロープを作っていた。

 

「うん......あれだな、店長はあれだな......」


 とアモスさんはわたしが作った不揃いのロープを見て苦笑した。


「知識はあるんだけど、不器用なんです」


 わたしが不機嫌そうに答える。


「なんてこたあねえ、人は、得意、不得意があるからな。 その点、店長は商才とさまざまな知識を持ってる。 それで十分過ぎるさ、羨ましいくらいだ」

 

 ずいぶんわたしのことを高く買ってくれてる。 何とか期待に答えたい、そうわたしは思った。


 昼前には洞窟を囲むように丸太でできた大きな柵を建てることができた。


「これなら、魔物が来ても、大丈夫だぜ」


「じゃあ私達は、昼御飯のあと森に材料を探しに行ってくるね」


「じゃあ、昼は旨いものをつくるとするか」


 そう言うと腕まくりをするアモスさんとわたしは、洞窟......いや店に入った。

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