第3話竜の洞窟店開店!

夕方、わたしはラピスと共に洞窟まで戻ると、洞窟から頭を出し、こちらを覗いてるアモスさんと目があった。


「アモスさん、ただいま! こんなに魚が手に入ったの、さっそくご飯にしましょう。 それに話したいこともあるしね」


 そうわたしが明るくいうと、アモスさんは泣きそうな顔で、


「ただいまじゃないよ店長......帰ってきたらいないし、周りは魔物がうようよいるしで、生きた心地がしなかった......」


 と情けない声で訴えた。


「ごめんなさい、でもその分の収穫はあったわ。 早く洞窟に入りましょう」


 洞窟に入って驚いた、ラピスのいた場所の手前に、木でできた床やテーブル、いくつかの家具や食器類、かまどなどが出来ていた。


「これ! アモスさんが作ったのこんな短時間で!」


「ああ、俺は大工だからな、石材、木材と道具さえあれば、このくらいは朝飯前さ、もっと時間があれば何だって作るよ。 残ってた金で食料と道具類、最低限の生活道具を集めてきたんだ」


「持ってたお金使っちゃっていいの?」


「俺は店長に賭けた、賭けるに値すると思ったんだ」

 

 こう言われて、わたしはうれしくなった。


「よし! 頑張って夕食を作りましょう!」 


 わたしがかまどに火をつけ、内臓を取った魚を丸焼きにしていると。


「それそのまま焼くのかい」


「ええ、魚の丸焼き、両親が死んでからお金があまり無くて、端切れの野菜や売れ残りの魚を料理してたから、簡単な物しか作れないの」


「まあ、誰しも苦手なもんはあらーな。 よし! 俺が作るよ店長」


「アモスさん料理も出来るの!」


「料理人程じゃねーけど、家でも作ってたし、仕事で飯屋の厨房でも働いたこともある」


 そういいながら、手際よく魚を捌き、野菜やキノコをみじん切りにし、鍋に油を引くと具材を入れ炒め、香草、香辛料や調味料を加えている。

 

 とてもいい匂いが洞窟に香り、わたしのお腹がなった。


「そりゃ元気な証拠だ!」  


 とアモスさんに笑われ恥ずかしかったが、なにかとてもいい気分だった。


「よしできた!」


 アモスさんがテーブルに料理が並べると、わたしは煮沸した河の水を木のコップに注いだ。


「さあたべてくれ!」


「いただきます!」


 その料理はとても美味しいかったが、美味しいだけじゃなく暖かな気持ちになった。

 それはきっとラピスやアモスさんがいるから温かい気持ちになれるんだ。 とラピスにおっかなびっくり料理を差し出すアモスさんを見て思った。

 

 わたしは、両親が死んでから、生活に必死で友達や恋人も作れなかった。 そんな人は大勢いるし、私より困難な状況の人もいるだろう。

 自分だけが大変だとは思わない。思いたくない。 だから、前向きにとがんばってきたけど、でも、こんな幸せな時間が自分に訪れるとは思わなかった。


「おいおい、どうした店長、泣くほどうまいのか、俺は料理人もやれるのかな」 


 そう言うアモスさんに、そうね、泣くほど美味しいわと、わたしは言った。


 夕食後、わたしは手に入れた紅魔石のをアモスさんに見せた。


「これは、たまげたな......聞いたことぐらいあったが、実物を見るのは始めてだ」


「これを売れば、かなりの元手が手に入ると思うんだけど......」


「うーん、確かに売れはするだろうけど......」


 アモスさんが首をひねる。


「問題は売った後だ、こんな希少品持ってたなんて知られたら、俺達を探しだしてここに人がわんさか来る。 前の俺のように......それに、買えるのは貴族や王族だろうから、すぐに調べに来る。 もし、こんなのが何個もあるなら国も黙っちゃいないぜ。 必ず兵を送ってこの土地を奪おうとするだろうな」


「......わたしも、それが心配なの、やっぱり売るのはまずいかな。

 薬も作れるけど、信用の無いわたし達から買ってくれるかしら」


「ああ、それなら大丈夫だ。 今は回復薬のポーションが売れてんのさ、イゾリアに魔物の大群が現れて騎士団にけが人が多いんだと、粗悪なやつすら出回ってるって話だ。 だから、品質のいいポーションを作れれば必ず売れるさ!」


「本当! それなら得意だわ! 材料の薬草もあるし、すぐ作るわ!」


「俺も手伝う」


「くるるるる」


「ラピスも手伝ってくれるのね、ありがとう、まずラピスは薬草を羽ばたいて乾燥させて、アモスさんは乾燥した薬草をすりつぶして」


 わたしはそのすりつぶした複数の薬草を調合し、水を入れ最後に魔法力を注いだ。

 

「おお! 色が透き通った緑になった! これがポーションか!」


 驚くアモスさんに、


「今日お互いに疲れたでしょう、品質確認も含めて飲んでみましょう」


 そう言ってできたポーションを二人で飲んでみた。


「うん! なんか体に力が漲る感じだ!」


「そうね、少し甘い自己評価なのかも知れないけど、かなりよく出来てると思う」


「よし! じゃんじゃん作ろう!」


「それがそうもいかないの......」


 そうポーションを作るためには魔力が必要だ。 わたしの少ない魔力では、1日10個が限界だった。


「そうか魔力か......俺は魔力がねえからわかんなかったが、ポーションじゃ体力や怪我しか回復できねえもんなあ......魔法回復薬があればな、ん? あっ!」 


「どうしたの? アモスさん」


「あるぞ! 店長! あれだ紅魔石だ! あれは魔力を回復出来るんじゃないのか!」


 そうか! 売りものだと思い込んで、自分で使うという発想はなかった。 さっそく魔紅石を触り魔力を回復させ、皆で夜通しポーションを作り続けた。


 朝になる頃にはポーションは100個になっていた。 アモスさんが荷車に乗せ売ってくるといった。


「でも、大丈夫......あまり寝てないでしょう、一休みしてから......」


「何いってんだよ、店長は夜通し作ってたけど、俺は出来ることなくて眠ってただろ。 俺は大丈夫、それより店の名前考えてくれよ」


「店の名前......そうねえ、そうだ! 竜の洞窟店でどうかしら」


「なるほど、確かにそうだな! わかったうちの店は竜の洞窟店だ!」


 そう言うとアモスさんは意気揚々とポーションを山のように乗せた荷車を引いて行った。

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