第3話 変身練習 2度目

 今日は2度目の変身練習日となった。緑のタヌキさんが、また訪ねて来てくれたんだ。


 俺はタヌキさんが、あの緑の容れ物を2つ、持って来たのをめざとく見つけた。早速ヨダレが出ちまった。でも、すぐに食べる訳じゃねえみてえだ。どうやら、タヌキさんの表情を見ると、まずは練習だと言いたいらしい。


 合点承知とばかり。

 俺は早速前方に1回転してみせる。

 へっ。どんなもんだい。

 もう、前回の練習でバッチリよ。

 でも、やっぱり変身はできねえ。


 そこで、良く見ていろとばかりに、タヌキさんが目顔で示して1回転してみせる。


 オッ。やっぱり、すげえ。

 見事に緑の狼だ。


 前回は、つま先立ちで降りて、なぜかアオダイショウになっちまった。だから、今回は足は普通だ。


 どの道、テンは手足が短けえんだ。

 今更、何とかなるもんじゃあねえ。


 よし、今回は首だ。ちょっと首を伸ばして降りてみるぞ。


 そして、クルッ。

 どうだ。

 青い狼になれたかな?

 あれっ。

 何か尻が重てえぞ。

 振り返って、驚いた。


 何かシッポが無くなって、尾羽が何枚も付いてる。そこで、エイヤッとばかりに広げてみる。


 ビックラこいた。

 とんでもなく大きい。

 俺の体よりでけえ。


 何かイチョウの葉っぱみてえな形だ。オマケに青い丸がいくつも付いていて、妙にど派手だ。


 こんなの見たことねえ。

 この近くにいねえ鳥の奴だ。


 そこでタヌキさんを見る。満面の笑みで、その丸っこい手を差し出して来る。


 よしハイタッチだ。

 ――ならぬ、ロータッチだ。

 何せ俺の手は短い。


 タヌキさんは、目顔で、そこら辺を一周してみて来いよ、とうながす。


(おうよ。でも、このシッポ。目立つな。これで、俺モテモテかな。ヘヘ。モテ期到来という奴か)


 少し歩くとシカさんがいた。角がえ。女だ。しかもベッピンさんだ。おまけに水色だ。俺と同じ色変わりだ。


 俺はここぞとばかりにシッポを振ってみせる。

 どうだ。

 格好良いだろうと。


 あれっ。


 そっぽを向いて、とことこ歩いて行っちまった。 


 あの娘には、この魅力、分かんねえか?


 何かバサバサとの音が聞こえて来る。すると樹の枝の間から鳥が飛んできた。しかも一羽じゃねえ。たくさんだ。


 俺は急いで逃げ出す。悪いが、鳥さんには興味ねえんだ。一目散に走って戻り、タヌキさんのところに至るが、なぜか、やったな、成功だなの顔。


 いや、なんにもうまく行ってないんだが。


 そうしてしばらく逃げ回っていたら、不意に鳥さんが追っかけて来なくなっていた。


 それで後ろを振り返ると尾羽が無くなり、シッポに戻っていた。


(あれは危なすぎる。鳥さんの女をトリコにするシッポに違いない。首を伸ばしての一回転はやっちゃいけねえ)


 俺は走り疲れ、更には腹がペコペコになったせいもあって、ふらふらとなって帰り着く。


 文句の1つも言おうとしたんだけど。タヌキさんは緑の器を出して待っていた。


 これを出されたら、言えねえ。それをやっちゃあ、テンがすたるってもんだ。


 食べる。


 そして一言。


「うめえ~」



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