22日 【掌編/コメディ】バカとマヌケ ~偏差値2ミリの頭脳戦~ (2/2)
それは異常なまでのバカにしか使えない異能〝
絶賛台無し中の私立天賽学園高校の入学式で、田中
「先に聞いておくけど……」
今もなお全裸の卍慈郎が、膝をついて苦しむ煉獄丸を見下ろし、問う。
「そもそもキミ、愚能は使えるんだよね? 愚能すら使えない秀才だったら、ばかばかしくて仕方がないんだけど……」
「使える、に、決まってん、だろうが……!」
煉獄丸は、卍慈郎から発せられる重力負荷のような〝
「オレは世界一のバカになる男……! 十歳のころから、愚能に目覚めてんだよ……!」
「あっそ。ボクは三歳のころからだけどね。じゃあ、
煉獄丸はファイティングポーズをとり、卍慈郎はポケットに手を突っ込んだまま、順番に『名乗り』を上げた。
「市立ぽかぽかようちえん卒業〝いずれ世界一のバカ〟田中煉獄丸ッッ!!」
「天賽四天王東門〝マヌケ〟本村卍慈郎」
煉獄丸が跳ぶ! 卍慈郎が佇む!
激突するッ!
「オレから行くぜェッ! 愚能発動! 【
叫んだ瞬間――――煉獄丸の逆立つ髪が、真っ赤な炎で燃え盛り始めた!
「オレはバカだ。バカはいくら考えてもわからねェことばかり。それでも無駄に考え続けた結果ッ! オレは知恵熱で頭に一億℃の炎を着火できるようになったんだぜェッ!!」
一億℃はノリで言っているだけだが、すさまじい高温であることは明らかであった。そのまま煉獄丸は頭突きを喰らわそうと走り出し、卍慈郎に迫る!
しかし。
卍慈郎は遥か高みから見下すように――――否。
遥か低みから見上げるように、侮蔑の眼差しで煉獄丸を見た。
「やはり、どちらが愚かか、なんて……比べるまでもなく、ボクが愚かだ。愚能発動」
卍慈郎の表情が崩れる。めちゃくちゃマヌケな顔になる。
すでに愚能は放たれていた。
「【
ドゴォッッ!!
何が起こるでもなく普通に煉獄丸の頭突きが卍慈郎にクリーンヒットッッ!!
「グハァーーーーーーーッッ!!」
そのまま卍慈郎は気絶したのであった……。
「……え。……お、オレ、勝っ……た?」
呆然とする煉獄丸。
静まり返る入学式の生徒たち。
勝利を理解し始める煉獄丸。
ざわめきだす生徒たち。
「勝った……勝ったッ!」
煉獄丸のガッツポーズ!
沸き上がる生徒たち!
「よっしゃあああああああああッッ!! オレの、勝ちだああああああッッ!!」
「そう思うの?」
卍慈郎の声が聞こえた気がしたが、煉獄丸の意識はそこで途絶えた。
そしてハッと気づいた時、煉獄丸は体育館に這いつくばっていた。
体が重い。否……体の上に、何か、とんでもなく重い物が乗っかっている。
肋骨が傷む。おそらく何本か折れている。呼吸が苦しい。腹部に衝撃を受けたようで、胃液が逆流してきている。
意識がはっきりとし始めて、自分の上に何が乗っているのかにようやく気がついた。
……胸像であった。
屋外に飾られているはずの初代天賽学園校長の胸像が何故かここにある。
「入学式は終わったよ」
声の方を見ると、そこには余裕の笑みを浮かべた卍慈郎がいる。体育館には、他にはもう誰もいなかった。
「キミも早く帰るといい。まあ、その身体で動けるものならね?」
「い……いったい、何を……。オレは勝ったはず……」
「哀れだね。インテリジェンスしか感じない」
卍慈郎は煉獄丸を見下ろすと、答え合わせを開始した。
「勝ったのはボクさ。負けたのはキミ。ボクの愚能の一撃でキミは敗れ去ったのさ」
「んだとォ……!?」
「【
「な……な……」
「愚能力は使用者がバカになればなるほど強くなる」
くっくっくっ、と卍慈郎がキザな笑い声を発した。
「ボクの【
「う……ぐぐぐ……」
「キミが初めてじゃあないよ。ボクや、ボクら〝天賽四天王〟に挑んできた奴は。そのたびにボクらは偏差値の差を見せつけてやっている。キミも雑魚どものひとりでしかないのさ」
「ぐ……うう……」
煉獄丸は下唇を猛烈に噛む。目には涙。卍慈郎はそんな無様な有象無象をフンと鼻で笑い、踵を返した。
「じゃ、ボクも帰ろうかな。キミも天賽高校でバカを名乗るのなら、足し算のやり方を忘れてからにするんだね」
「ち……ちくしょおお……! おい全裸野郎ッ! ま、待ちやがれ……!」
胸像をなんとか退かし、震える膝で立ち上がろうとする煉獄丸だが、まだ思うように動けない。卍慈郎は溜息をつく。
「まったく……秀才め。それにしても、今日はなぜかよく全裸全裸と言われる日だったな……」
「全裸じゃねえかッ! どう見てもッ!」
「は……?」
卍慈郎は自分の体を見下ろした。
「うわあああああああああっっっ!?!? ボク全裸になっとるーーーーーーー!?!?」
「え」
「どうりで寒いと思ったよ!! 隠さなきゃ!! キャーー!!」
「いや最初からおまえ全裸で」
「イヤーーーーーーーーーーー!!!!」
卍慈郎が女の子みたいに叫びながら乳首だけを隠してダッシュで逃げていく。
その姿を見て、煉獄丸は更に絶望した。
常軌を逸したバカとは、ああいう奴のことを言う。
最初から、勝敗は決していたのだ。
「うっ……くうう……! オレは……ただの天才だ……!」
嗚咽が、空っぽの体育館に響く。
煉獄丸は死ぬほどの悔しさにその身を灼いた。しかしバカなので次の日には忘れるだろう。
これは
常軌を逸した高校で繰り広げられる、
偏差値2ミリの、頭脳戦である。
【続きはいずれ】
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