上司の判断

トマトも柄

第1話 上司の判断

「青爪係長! 今よろしいでしょうか?」

 青爪係長と呼ばれた女性が部下に振り向く。

「どうしたの?」

「デザイン完成しました! ご確認よろしくお願いします」

 青爪は資料を確認して、目を通す。

「これは良いね。 上にも話してみるね。 ただ一個ミスあるわよ」

「ミスですか? 確認したとき見当たらなかったのですが」

「自分でデザインしたのは自分の名前残しとこうよ。 自分の功績なのだから、ちゃんと残しておかないと。 名前はこちらで書いてね」

「はい!」

 部下は青爪から資料を受け取り、すぐに自分の名前を書いて資料を返す。

「よし! ではこれで話を通すね。 お疲れ様」

 そこで話が終わったはずなのだが、部下はその場を去ろうとしない。

「係長、実は今日何人か飲みに行くんですけどどうでしょうか?」

「ん? それは課での飲み会? 聞いてなかったわ」

「いえ。 完全にプライベートの飲み会です。 課長が趣味の話してると凄い食いついて何人かで飲もうってなりまして」

「ああ、ごめんなさい。 今日はちょっと予定があるの」

「そうでしたか。 分かりました」

「私もそれ気になるから来週お誘いしてもいいかな?」

「全然大丈夫ですよ。 では来週お誘いしますね。 他のメンバーにも空いてるか聞いてきます」

「ありがとう。 じゃあ今日はこれでお終いね。 飲みに行くんだから準備していかないとね」

「はい! お疲れ様です!」

 部下は一礼し、その場を去る。

 青爪は背伸びをして、

「さて、私も帰りますか」

 青爪も会社を出て、家に向かう。


 家には何事も無く帰宅でき、家の電気を付ける。

 そこにはワンルームの部屋に一つのPCと複数のゲーム機が置かれていた。

 壁に近いところにはショーケースが飾られている。

 そこにはいくつかのプラモデルが飾られている。

 部屋もキレイに片付けられていて出したい物があればすぐ出せる環境になっている。

 そこで青爪は鞄から一つの物を取り出した。

 それは一つのパッケージの箱でそれを開けると一枚のDVDが出てくる。

 そのDVDをゲーム機にセットする。

 その時の青爪の顔はとても笑顔になっている。

「ついに手に入れたよ~。 このゲーム探すのにハシゴして正解だった!」

 付けたタイトルは今から十年ほど前に盛り上がってたタイトルだった。

「このゲーム中々見つからなかったのよね~。 店員さんに聞いて正解だったわ」

 青爪の趣味はゲームとプラモ作りである。

 ゲームと言っても幅広いジャンルをしており、世間で言うレトロゲーム、つまり昔のゲームをするのが趣味なのである。

「さて、今日は遊び倒すぞー! 明日は休み取ってるんだからな!」

 青爪は没頭してゲームに夢中になって遊び倒していた。


 休み明けになり、青爪は遊び倒したゲームを横目に笑顔で家を出る。

 会社に到着して周りに挨拶して自分の席に着くとそこに一つの資料が置かれていた。

 その資料には書いて欲しいのがロボットと書いてあったのだ。

「これは難しそうね」

 青爪は少し悩む。

「しかも条件でパイロットが乗るような搭乗型ロボットを描いて欲しいと書いてある」

 試しに部下を呼んでこれが出来るか頼んでみる事にした。

 その部下は先日に飲みに誘われた部下である。

「こういうデザインの依頼きたみたいなのだけど、やってみる?」

 部下に資料を見せる。

「ロボットですか!? これ描いて良いんですか!? 受けます!」

「ええ。 しっかりオリジナルでよろしくね。 参考にするのは構わないけど」

「ならバックパックは拘った方が良いですね。 腕を片腕タイプにするか? いや、依頼に合わせて機動型にしてカッコ良さを求めるか? パワー系のスーパーロボで攻めるのも……」

「考えるのは良いけど、それは自分の席で考えてね」

「あ! すみません! けど、係長はこの依頼を私がして良いんですか?」

「ええ。 あなたが適任と思ったからよ。 あなたの席に置いてる参考用のプラモを見ればね」

 青爪は部下と一緒に部下の席に行く。

 部下の席には二つのプラモが置かれていた。

「そこに置かれているドッター2号とゴファフラー一型のプラモはかなり丁寧に作られているのが分かるわね。 繋ぎ目も綺麗に消す調整も付けているし、足元には汚れの塗装を付けている。 拘りを持っているデザインをする人にはうってつけだと思うわ」

「係長良く分かりましたね。 パッと見では中々気付きにくい部分ですのに」

「色んな物を見るのも係長の務めだからね。 私もやっているからね」

「え!?」

「はいはい! 雑談はここまでにして仕事ついてね! 後で話してあげるから」

「はい! 今すぐ作業に入ります!」



 そこから数日で部下がデザインを仕上げて青爪に持ってきた。

「出来ました! どうでしょうか?」

 青爪は驚きを隠せずにいた。

「あれから数日しか経ってないよ! 早くない!?」

「まぁ、出来たのは出来たのでご確認お願いします」

 青爪が確認する。

「これは凄い……。 ロボットの要素を抑えつつオリジナル要素を出している。 クライアントの要望通りに完全なオリジナルになっている」

「オリジナル要素を出すのに少し苦戦はしましたが、取引相手さんの企業イメージでパッと思いつきまして、オリジナル要素が出来ました!」

「これで行こう! これなら相手さんのイメージも合うし、オリジナル要素もある! これは凄いよ!」

「ありがとうございます!」


 仕事も順調に終わり、

「では今日は飲みに行く? 予定が良かったらで良いけど」

「え!? 良いんですか!? あの……同僚とかも誘っても良いですか?」

「ええ。 もちろん良いわよ。 それとプラモの作り方も色々聞きたいけど良いかな?」

「私で良かったら全然大丈夫ですよ! 同僚も誘ってきます!」

 その会話を聞いて課長が羨ましそうに2人を見ている。

 それを見かねて青爪が声をかける。

「課長も良かったらどうですか?」

 課長が太陽のように明るい顔を示し、喜びを頷きで証明する。

「課長も来るんですか? 前に話したゲームどこまでクリアしたか確認しますよー」

「是非お願いします! 先生!」

 部下と課長の会話に驚く青爪。

「あ! 係長は知らないんでしたね。 子供達との会話に入りたくて課長も最近ゲーム始めたらしいんですよ」

「ここに先陣の先生達がいるから凄い参考になるよ。 子供達が食い付く話が出来る!」

 それを聞いて青爪が、

「課長も色々苦労しているんですね」

「俺には俺の悩みがあるから! 今日は俺が出す! 色々飲み屋で教えてくれよ! この飲みは部下達が先生だからな!」

 そこにいる全員に笑みが溢れる。

 そして皆は飲み屋へ向かい、それぞれの趣味について語り合った。





 









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