第81話 魔装
“エンシェントフォッシルの骨鎧”は、骨を鎧のように纏う能力だった。外骨格としてかなりの防御力を誇るが、隙間があり防御は完璧じゃない。
その上に、“鱗甲”を張り付ける。鱗が重なり合い全体を覆うことで、隙間もなくなる。目元と鼻だけを残して、全身を鱗で覆った。
他のスキルも、“骨鎧”と一体化するような形で融合させ、一つの鎧となった。
足は“足跡”と“健脚”で、腕は“剛腕”で肥大化しているため、身体が一回り大きくなっている。
“黒針”と“角兜”、そして“鋭爪”を融合させることで、各部位を補強する。肩、頭、拳がそれぞれ硬くなった形だ。
“刃尾”と“三叉“をそれぞれ生やせば、背後にも隙がない。
「ずいぶん禍々しい鎧だな……。いよいよ人間らしくない」
鎧は鎧だけど、全体的に魔物感がありすぎてただの化け物である。
表面は赤い鱗で脈打ってるし、背後には尻尾が二本蠢いている。
まあ、見た目が悪いのは今に始まったことじゃないし……。
「グガガガガァ」
我に返ったエンシェントオーガが、再びこん棒を振りかぶる。
さっきは避けるので精一杯だった攻撃だ。
今度はそれを……正面から受け止める。
「グガァ!?」
オーガの太い両腕で全力で振り落とされた、巨大なこん棒。
それを俺は、おもむろに開いた左手一本で受け止めた。
“鱗甲”を使っても意識を飛ばしてきたレベルの威力だった。
「敵じゃない」
攻撃さえ防げるなら、デカイだけの魔物だ。
拳を握りしめ、オーガの腹にめり込ませる。ついでとばかりに、“三叉”で腹を貫いた。
「しゅるるる」
オーガの巨体で視界が塞がった隙を狙って、エンシェントプラントが蔓を伸ばしてきた。
オーガの懐から抜け出し、プラントの蔓を視界に収める。オーガの陰から、数えきれないほどの蔓が躍り出た。
それぞれが鋭い棘を持ち、人を捻り殺せるほどの太さを持っている。
「“炯眼”“邪眼”“咆哮”」
スキルの組み合わせは、“魔王の鎧”だけではない。
「魔装――“鬼呪の波動“」
この魔装に、特別な動きはいらない。
ただ視界に入れるだけ。それだけで……。
全てが石化する。
「しゅる!?」
蔓が一本残らず石化し、ぼろぼろと崩れ落ちた。
“邪眼”が持っていた効果範囲の制限は“炯眼”で、効果の弱さは“咆哮”で補った。
結果、プラントの蔓を全て無力化することに成功した。
「終わりだ」
プラントも同じく、接近して叩き潰す。
茨の壁も、石化で簡単に砕けた。さすがに本体に石化は通用しないようだが、蔓さえ消せれば敵ではない。
「カタカタカタ」
「あとはお前だけだな」
エンシェントフォッシル。
鋼鉄のように硬い骨で構成された魔物で、一体どうやって動いているのかさっぱりわからない。
身体全てが硬いので弱点が見当たらないだが……。
「“星口”“雷掌”“空砲”」
左手をフォッシルに向ける。
「魔装――“迅雷砲”」
手のひらの中央に、禍々しい口が現れた。大きく開かれた口から放出されたのは、雷が凝縮された弾丸だ。
ばちばちと音を立てながら、やや遅い弾速でフォッシルに向かう。
命中した瞬間……轟雷を響かせて、弾丸が爆ぜた。
「カタ……」
爆雷はエンシェントフォッシルの頭蓋骨を大破させ、息の根を止める。……元々呼吸してないけど。
三体とも絶命していることを確認し、ほっと息をつく。
「勝った……」
スキルを解除し、マジックボトルで喉を潤す。
“鱗甲”を発動していたはずなのに、それほど疲労感はない。
「スキルの融合、か」
さっきまで力が漲っていた手を開いたり閉じたりして、感覚を確かめる。
まるで自分じゃないみたいだ。ただスキルを使うだけよりも、何倍もの力を出すことができた。Aランクの魔物を一方的に蹂躙できるくらいに。
信じられないと同時に、この手にはたしかに感触が残っている。
すぐにでも、もう一回発動することができるだろう。
「これがギフトの進化……」
上級に達するような冒険者は、誰でも経験することだという。
それは、ただ能力が上がったりスキルが増えたりするだけではない。
ギフトそのものが一段階アップグレードされ、さらに上位のものに生まれ変わる。そのレベルの変化がもたらされるのだ。
「……結局、さっきの奴が何なのかはわからなかったけど」
声の主。そして、口から出てきた黒い“魔物喰らい”。
あれのおかげで助かったけど、出方が怖すぎる。もしかして、俺の体内にあんなのがいるの……?
いよいよ人間じゃないな。
ともあれ……ギルドマスターとの約束通り、強くなることができた。
だが、まだ終わりじゃない。
三日間生き延びる必要があるのだから。
「マジックボトルの水とオーガの肉で腹を満たすかな。……硬くてまずそうだな」
人型をしていることは考えないことにする。顔はとても人間には見えないし、二足歩行しているだけの猪みたいなものだ。
そう考えると美味しそうだな。
「よし、休憩終わり。三日間でどんだけ倒せるかな。……“魔王の鎧”」
俺はそのまま……三日間の修行を再開した。
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