第79話 太古の密林
「相変わらず速いな……」
“超人”……単純にして最強の能力だ。最初はあんなに高い効果はなかったらしいけど、ギフトの成長は無限の可能性を持つ。
ギフトを重ね掛けした武者よりも身体能力が高そうだ。
あれで5位が最高だったのだから、一位はいったいどんな化け物なのかと思う。
「ともかく……強くならないとな」
逃げる選択肢もある。
だが、逃げてどうする? それは、冒険者をやめることと同義だ。
逃げて虚しく生きるくらいなら……冒険者として死ぬ。
「もちろん、死ぬ気はないけどな!」
Bランクダンジョン、絶対乗り越えてやる。
『ご武運を』
旅神の声は、上級でもなにも変わらない。
“古代の密林”……聞いたことのないダンジョンだ。どんな魔物が出てくるのかすら、想像がつかない。
ダンジョンの中も、外とあまり変わらない光景だった。
木々が所せましと密生していて、地面には苔がびっしりと生えている。日はちらほらと差し込むばかりで、視界は悪い。
「……ていうか、魔物はともかく三日間生き延びないといけないんだよな。マジックボトルがあってよかった」
“静謐の淡湖”のボス攻略報酬であるマジックボトルは、空のはずなのに無限に水が出る。これのおかげで、飲み水には困らない。
「食糧はほとんどないけど……魔物を食べればいいか!」
もはや、魔物を食べることにはなんの抵抗もない。
だって俺のギフト、魔物食べても腹を下すことはないし。
まずは魔物を見つけないと話にならない。
慎重にダンジョンを進んでいく。
「そういえば、最後に魔物の名前だけ教えてもらったな」
ギルドマスターが最後に言い捨てていった、魔物たちの名前を思い出す。
名前だけではあまり想像がつかないが、たしか……。
「グガガガァ」
考えながら歩いていると、少し先に魔物を発見した。
姿かたちは人間に近い。だが、慎重は俺の三倍以上あり、筋肉が大きく膨れ上がっている。顔は醜く、大きな牙と角が生えていた。手には巨大なこん棒を持っている。
「エンシェントオーガか……!」
人型の魔物は初めてだ。だが、どう見ても人間には見えないので戦うのに抵抗はない。
問題は……こいつが上級の魔物であること。一筋縄ではいかないだろう。
「強く、ならなくちゃな」
“魔物喰らい”の真の能力に気が付くまで、俺は最弱の冒険者だった。
一番ダメなのは、弱い自分を受け入れてしまっていたことだ。使えない能力だから。仕方がないから。才能がないから。そうやって、自分を誤魔化していた。
それでも、諦められなかった。
意地汚く冒険者という職業にしがみついていたからこそ、今の俺がある。
あの頃よりは強くなったと思う。
でも、まだまだだ。
「俺は弱い。でも……諦めの悪さだけは、誰にも負けるつもりはない」
処刑? お断りだ。
俺はランキング一位になるまで、諦めるつもりはまったくない。
魔物を前にして、ようやく闘志の火がついてきた。
「上級だろうと――喰らってやるよ。“健脚”“鋭爪”“刃尾”“三叉”“炯眼”」
スキルを発動して、エンシェントオーガに肉薄する。
尾が二本。それぞれ、問題なく動かすことができた。
「グガァ」
隙をついたつもりだった。
だが、エンシェントオーガは俺の接近に気づき、振り向きざまにこん棒を振るってくる。身体の大きさに似合わぬ俊敏さだ。
「くそっ!」
横にステップして躱す。しかしその動きすら読まれていたのか、着地に合わせて蹴り上げてきた。
「“天駆”」
なんとか回避して、距離を取る。
身体の大きさに差がありすぎる。そして、予想以上に知能と戦闘センスが高い。
「グガガガ」
俺が飛びのいたのを見て、すかさず追撃してきた。
エンシェントオーガは大きく一歩踏み込み、こん棒を横薙ぎに振るう。
受け止めるのは無理だ。
「“銀翼”」
エンシェントオーガは大きいが、それより上に逃げれば……。
ふと、なにかに足が引っ掛かった。
「えっ……?」
飛び上がるのに失敗して、バランスを崩す。
膝をついて体勢を立て直す頃には、こん棒が間近に迫っていた。
「……っ、“角兜”“大鋏”」
咄嗟に頭を兜で覆う。盾代わりの大鋏でこん棒を受けた。
全身に衝撃が襲う。
俺はそのまま弾き飛ばされ、受け身も取れないままなにかに激突した。
「がは……っ」
まずい、肋骨が何本か折れた。
それだけじゃない。攻撃を受けた腕も痛いし、頭も殺しきれなかった衝撃でぐらぐら揺れている。
「カタカタカタ」
背後から、骨がぶつかり合うような音が聞こえた。
「しゅるしゅる」
さっきまで俺が立っていた場所には、地面から伸びた茨のような蔓がゆらゆらと踊っていた。
「エンシェントフォッシルに、エンシェントプラント……」
俺の足を拘束し飛ぶのを妨害した、植物の魔物。
吹き飛ばされぶつかったのは、巨大な恐竜の骨、エンシェントフォッシル。
“太古の密林”における三体の魔物が、同時に俺を取り囲んだ。
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