第41話 ”湿原”のボス
“バレーグリフォンの天駆”のレベルを最大にした俺が続いてやってきたのは、以前にも来た“叢雨の湿原”だ。
ここのボスは倒していなかったことを思い出し、迷宮都市から近いこともあり挑戦することにしたのだ。
ウェランドリザードにフロッグ、スネークと、それほど時間は経っていないはずなのになんだか懐かしい。
最近は一日が濃いからな……。
ついでにクエストを受けてきたのでターゲットの魔物を狩りつつ、ボスエリアに到着した。
ボスエリアも他の場所と同じく、ぬかるんだ地面と背の低い植物が広がっていた。
『ご武運を』
恒例のセリフを聞いて、ボスエリアに侵入する。
「シィイイイ」
“湿原”のボスはウェランドバジリスクだ。
太いヘビの身体に、鶏のトサカと翼を持っている。
体格はそれほど大きくないが、恐ろしい能力を持っている。
「“炯眼”」
その能力に対応するため、目を強化して臨む。
“炯眼”は単純に目が良くなるだけではなく、視野が広がり、動体視力も上がる。空間把握の性能も上がるので、慣れればかなり有用なスキルになった。
敵のわずかな動きも見逃さない。そんなスキルだ。
「“健脚”……ッ!」
足を強化して身構えた瞬間、バジリスクの瞳が妖しく光った。
即座に横に跳んで、バジリスクの横に回る。
バジリスクの目から紫色の光線が飛び出して、さっきまで俺がいた場所を貫いた。
「あれがバジリスクの邪眼か!」
見ると、光線が触れた植物が白く、そして硬くなっている。
石化の邪眼……資料には、そう書かれていた。
バジリスクの瞳から放たれる光に質量はなく、熱もない。
しかし、触れたものを石にしてしまうという、恐ろしい効果を持つ。
「けど、やばいのは邪眼だけで本体は弱いって話だったな。“鋭爪”“天駆”“銀翼”“刃尾”」
ウェランドバジリスクは翼を持っているが、飛ぶことはない。
また、動きも遅いので邪眼さえ気を付ければ問題なさそうだ。
「後ろから行けば……い!?」
“炯眼”が異変を捉えたので、慌てて身を屈める。
俺の頭を、石化の光線が掠めた。
「あっぶ……髪の毛だけか」
手で触ってみると、髪の毛が一部石になっていた。軽く引っ張るとぽろぽろと崩れる。
「後ろにも攻撃できるのかよ……」
バジリスクは一歩も動いていない。
首をぐるりと回しながら光線を放ち、周囲を無差別に攻撃したのだ。
長い棒を持って回転すれば、ちょうど今のような攻撃範囲になるだろう。
ただし、その攻撃は触れたものを問答無用に石にする攻撃だ。
「さすがEランクダンジョンのボス……Cランク相当の魔物だな」
中級になるとこのレベルがごろごろいると思うと、怖くもあり楽しみでもある。
ともあれ、今はバジリスクだ。
邪眼の対処方法として、俺は既に考えてある。
「服や革鎧くらいなら貫通するけど、金属には弱いらしいな?」
「シィッ」
“銀翼”を広げて、地面を蹴る。
ファルコンの翼は、銀と黒に輝く丈夫な羽根を持つ。そしてこの羽根は、表面が金属のように硬くなっているのだ。リュウカが興奮しながら教えてくれた。
三回までジャンプできるようになった“天駆”で空中を駆け、頭上からバジリスクに迫る。
「シィイイ」
バジリスクの瞳が紫色に光った。
腕くらいの太さの光線が二本、上空にいる俺にまっすぐ向かってくる。
「頼むぜ!」
俺はそれを、“銀翼”で身体を包み盾にすることで防いだ。
身体は……石になっていない。翼の光線が直撃した部分は石像と化したが、スキルによって生み出した魔物の部位は解除すれば元に戻るので、問題はない。
「目を潰せばもう出せないだろ」
光線が止まったタイミングで、“鋭爪”によって目を潰す。
邪眼さえなければ、ただのヘビだ。いや、鳥か?
素早く足を切りつけ、転倒させる。
無防備になった背中に、牙を突き立てた。
「“大牙”……いただきマス!」
バジリスクの主食は石らしい。
石化した動物を食べて生きているようで、肉も非常に硬い。味はヘビと鳥を合わせたようだけど、臭みがすごい。
積極的に食べたい味ではないな。
『スキル“ウェランドバジリスクの邪眼”を取得しました』
『初攻略報酬として“雨精霊の祝福”を取得しました』
「たしか胃袋が売れるんだったな……解体は得意じゃないけど、せっかくだし取っていくか」
石をも消化する強靭な胃袋は、色々と使い道があるらしい。リュウカが欲しがっていた。
高値で売りつけてやろう。
他にも鱗や羽根を剥ぎ取った。
「“雨精霊の祝福”はたしか、雨に濡れなくなるんだったかな。わかりやすい」
たしかに、“湿原”に常に降り注ぐ霧雨が、冷たくなくなった気がする。
雨は体温を奪われるので、無視できるようになるならありがたいな。
「“ウェランドバジリスクの邪眼”」
続いて、“邪眼”を発動してみる。
名前からして、あの光線を使えるようになるのだろうか。
目に意識を集中して、光線を出そうと……。
「うお!?」
視界が一瞬光って、細い光線が飛び出した。
それは地面の低木に衝突して、消える。
「ほんとに出た……」
恐る恐る低木に近づいて、光線が当たった場所を見る。
しかし、何も変化がなかった。
「あれ? ……もう一回」
次は至近距離で光線を当ててみる。
注意深く観察すると、人差し指くらいの太さの光線が触れるとたしかに石化していた。しかし、一秒後には元に戻る。
「なるほど、バジリスクと違って一時的に石化できるだけなのか」
てっきり見ただけで殺せる最強のスキルかと思ったが、そう甘くない。
だが、一瞬でも動きを止められるなら非常に有用だ。
「よし、こっちのスキルもレベル最大まで上げるぞ! 効果時間伸びるかもしれないし!」
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