第11話 受付嬢
「昨日はボスを三回も倒したからな。ランキングがどれくらい上がっているか……」
Fランクダンジョンのボスを倒すと、世間的には初心者脱却とみなされる。
冒険者になる者は大勢いて、才能がありすぐに駆け上がる者もいれば、俺のように長い間初心者のまま燻る者もいる。
その初心者の中から抜け出せたのだ。順位も相応に上がっているはず。というか、上がっていて欲しい!
「どれどれ……」
ドキドキしながらランキングボードを見上げる。
毎朝の日課は、最下位を確認するだけではなくなった。
『84908位 エッセン』
ようやく見つけた俺の名前は、以前までは考えられないほど高い順位にあった。
「よっしゃぁあ! ついに八万位台に載ったぞ!」
良い調子!
とはいえ、まだまだ上にはたくさんいる。しかも、全員がボスを討伐できる強者だ。ここから先、無才はいない。
「おいおい、あいつエッセンだろ……? 万年最下位の」
「四年間も最下位だったのに、なんで突然……」
「八万位とか数日で上がれる順位じゃねえぞ!?」
俺をバカにしていた奴らが驚いている。
朝の冒険者ギルドは人が多いので、俺の声が聞こえていたらしい。
もう今までの俺じゃないぜ!
「まだ上には八万人以上か……はははっ、滾るね」
ボスを倒したが、まだ初級冒険者だ。
まずは中級と呼ばれるようになる五万位のボーダー。そこを目指そう。
“白霧の森”の魔物から取れるスキルは全て最大まで上げたので、もう用はない。
「次はEランクダンジョンだよな。他のFランクに行くのはなんか違うし」
迷宮都市の周辺には様々なダンジョンがあるので、選択肢は意外にも多い。
もう少しFランクダンジョンで肩慣らしをするのもいいが、俺は早く上に行きたい。
「すぐに行ける場所にあるのは、たしか三つかな?」
できれば日帰りできる場所のほうがいいよな……。
こういう時は冒険者ギルドの受付だな!
冒険者登録の時に訪れたが、長らく利用していなかったな。
様々な手続きや契約の受付をしているほか、冒険者のサポートなども行っている。
「わからない時は素直に聞いたほうがいいよな。ダンジョンの特徴とか教えてくれるはずだ」
列に並び、それほど待たずに俺の順番が来た。
女性の職員が対応してくれる。
「お待たせいたしました。受付のエルルでございます。ご用件をお聞きします」
「Eランクダンジョンに行きたいんですけど、どこかオススメの場所はありますか?」
「Eランクダンジョンの攻略は初めてですか?」
「はい、そうです」
「かしこまりました」
彼女は軽く頷いて、立ち上がった。
さすが、ギルドの受付嬢は所作が綺麗だ。
ギルドの職員は財神の領分だ。戦闘を生業とし荒くれ者も多い冒険者とは違い、理知的な印象を受ける。
受付嬢に熱を上げる冒険者がいるのも納得だな……。
彼女は棚から取り出した資料を俺の前に並べる。
「ギフトによって得手不得手はありますが、初めての方は“安息の墓地”がオススメですね。アンデッド系の魔物が出現します。動きが遅く、聖水や聖銀を準備すれば比較的安全に対処できます」
アンデッドか……。うん、ナシだな。
だって死体だろ? さすがに食べたくない。いや、この選び方もどうかと思うけど、死活問題だ。
俺はこれからもどんどんスキルを増やしていかないといけないからな。
「アンデッドはちょっと……。他には何がありますか?」
「生理的に受け付けないという方も多いですよね。それでしたら“黄土の地下道”も人気ですね。Eランクでは珍しく迷宮構造となっていて、攻略に時間はかかりますが宝箱を発見できれば収入になります。ですが、ソロだと難しいでしょうか……」
受付嬢のエルルさんは、顎に手を当ててうーんと唸った。可愛い。
俺より少し年上だろうか。
「では、“叢雨の湿原”はいかがでしょうか。あまり人気がないので競争も少ないですし、難易度もEランクの標準程度ですね。素材が不足気味なので、高値で売れます」
「おお! 人が少ないのはいいですね」
「では、資料をお渡ししますね。場所や魔物の種類、注意点についても書いてありますので」
「ありがとうございます。相談してよかった」
やはり悩みはプロに頼るのが一番だな。
“黄土の地下道”は人気だと言う話なので、戦っている姿を見られる可能性が高い。魔物のような見た目になったり、魔物を食べたりする光景は見た目が良くないからな……。
「……あの」
お礼を言って離れようとした時、エルルさんが声を発した。
「エッセンさんですよね?」
「え? そうですけど……」
名乗った覚えはない。
「申し訳ございません。受付嬢は冒険者側から頼まれたこと以外は干渉しないルールなのですが……心配で」
「ああ」
彼女は俺のことを知っていたのか。まあ、この初級冒険者ギルドでは悪い意味で有名だ。悪名は無名に勝るというが、万年最下位だった俺を知っている者は多い。
「エッセンさんがランキングを上げているのは知っています。四年間頑張り続けていたことも。だからEランクに挑戦できるようになったことは、私個人としてもギルドとしても喜ばしいことなのですが……」
「いきなり上がったから、ですよね」
「はい……。あ、詮索するつもりはないんです。でも、調子よくランキングを上げている時が一番危険です。特に、初めて挑戦するダンジョンは不意の事故が多いですから」
彼女の言葉にはっとする。
たしかに、俺は調子に乗っていたかもしれない。準備も下調べもなしにボスに挑んだのは昨日のことだ。
結果的に勝てたからいいものを、もし大けがを負ったりしたらポラリスに追いつくことは不可能だ。ましてや、死んでいた可能性もある……。
「ご忠告、ありがとうございます。気を付けます」
「はい。お願いしますね。……ご武運を」
最後に、旅神と同じ決まり文句を言って、俺を送り出してくれた。
よし、しっかり準備して“叢雨の湿原”に挑もう!
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