第10話 依頼達成
『ボスが討伐されました』
『初攻略報酬として“アイテムボックス(小)”を取得しました』
声が響き、地面から宝箱が生えてくる。
「おお、これが噂の……」
ボスはダンジョンの中でも特に強力だが、ボスエリアから動かないため、戦闘を避けることは容易だ。
それでも多くの冒険者が攻略に挑むのは、初めて討伐した際に報酬が貰えるからだ。
Fランクダンジョンである“白霧の森”の報酬は、アイテムボックスという名の巾着袋だ。
中の空間が拡張されていて、見た目以上に多くのものを収納できる。冒険者必携の道具だ。
「倒した本人にしか使えないから、自分で倒さないといけないんだよな……」
フォレストキャットの討伐が新人の登竜門だと言われている理由の一つだ。
ポーションや食料、ダンジョンで入手した素材など、冒険者の荷物は多くなりがちだ。
なので、アイテムボックスは非常に重宝される。
「ふう……勝ててよかった」
口元を拭って、地面に座り込む。
俺にダメージはない。結果だけ見れば完勝だ。
「でも危なかったな……」
“健脚”のレベルを上げてなかったらどうなっていたか。
俊敏な動きを可能とするスキルと、上昇した身体能力があってようやく、キャットの攻撃を掻い潜ることができた。
“大牙”がボス相手でも問題なく通用することがわかったのはよかった。
最初に手にしたこのスキルが、“魔物喰らい”の生命線だ。噛みちぎることができなければ、スキルを取得できない。
「そうだ。茸を取らないと」
伝染病の治療に使われるという、キャットの頭に生えた茸だ。
ユアの母親を助けるため、なるべく早く届ける必要がある。
倒れ伏したキャットの耳の間から、一本だけ茸が生えていた。手のひらサイズで、体色と同じ緑色をしている。
毒にしか見えない。
ナイフで根本を切り落とす。身体から生えているが、身体の一部というわけではないようだ。血が出たりはしない。
「これをユアに渡せばいいんだよな」
彼女はダンジョンの入口で待っているはずだ。
ボスを討伐すると、ボスエリアの中に転移門が現れる。先日と同様、木のアーチのような門を潜って、ダンジョンから脱出した。
「えっと……ユアは……」
思ったよりも早く帰ってこられたので、時刻はまだ昼過ぎだ。
「エッセンさん!」
街道で待っていたユアが、手を振りながら小走りでやってくる。
「大丈夫でしたか!?」
「ああ、取ってきたよ。……ほら」
アイテムボックスから茸を取り出し、ユアに渡す。
さっそく活用してます。初心者卒業!
「え、早い。お怪我はしてないですか?」
「ああ、余裕だったよ」
「よかった……。あの、ありがとうございます!」
本当はギリギリだったけど、見栄を張る。
無駄に心配させる必要はない。
「俺のことより、早くお母さんに届けなくていいのか?」
「そうですよね。この茸があれば、母を助けられます!」
ダンジョンに入る前は泣きそうな顔だったのに、今は晴れやかだ。こっちのほうが魅力的だな。
茸一本手に入れただけで楽観的な……とは思わない。ダンジョン産の素材は特別な効果を持つものが多い。
この茸も、とある伝染病に特効薬的な効果を持つ。
「そうだな。ちなみに、村はどこにあるんだ?」
「迷宮都市からは馬車で半日ほどです」
そう言ってユアが上げた名前はあいにく聞いたことがなかったが、その距離ならすぐに帰れるだろう。
「エッセンさん、本当にありがとうございました。二度も助けていただけるなんて、わたしの恩人です。あの、このお礼は必ず!」
「ああ、早く行ってやれ」
「はいっ」
ユアは最後に深く頭を下げて、走り去っていった。
偶然知り合っただけの少女だけど、母親が無事だといいな。
「さて」
陽が沈むまでは、まだ時間がある。
「依頼も終わったことだし……スキルレベルを上げるか」
最近、スキルのレベルを上げるのが楽しくて仕方がない。
強くなれる。そう思えば、激マズの魔物肉を呑み込むのも容易い。
そして今回、新しいスキルを手に入れた。
「“フォレストキャットの鋭爪”……か。クク、レベル最大になるまで周回だ」
シャキン、と音を立てて両手の爪が鋭く伸びた。
この日、帰るまでに三回ボスを倒した。
報酬が貰えるのは最初だけだから、普通はやらないけど……。ボスは一度ダンジョンから出れば再挑戦できるのだ。
フォレストキャットはボスだからか、一匹倒すだけでいくつかレベルが上がる。おかげで、一日で最大まで上げることができた。
道中でも魔物を倒したし、もうこのダンジョンに用はない。
「次はEランクダンジョンだな!」
所有スキル
“大牙”レベル10
“健脚”レベル10
“吸血”レベル10
“鋭爪”レベル10
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