第12話 叢雨の湿原
資料を参考に物資を購入してから、“叢雨の湿原”に向かうことにした。
森よりも遠く、徒歩で行けなくはないが馬車を利用するのが一般的らしい。
「“フォレストラビットの健脚”」
ぞわり、と膝から下に白い毛が生えて、俺の足を強化する。
このスキルを使うと足が一回り太くなるので、短パンを履くことにしている。
「走ればすぐ着くよな。節約節約……」
馬車はお金がかかるので、自力で行くことにした。
フォレストキャットから収穫した茸のおかげで潤った財布は、湿原のための準備でまた空っぽになった。
初めて行く場所だから、色々と入用なのだ。
資料を参考にして、色々と買い込んだ。
湿原特有のものだと、雨が降るので動きやすい外套を羽織っている。また、薪の入手が難しいので燃料となるものをいくつか、収納袋に入れた。
他にもポーションや解毒剤、水に食料など、入念に準備した。
それらは全て、ボス討伐報酬であるアイテムボックスに収納した。
結構入れたのに、見た目は何も入っていないように見える。重さもない。
さすが、冒険者の必須アイテムだ。
「とーちゃくっ」
三十分ほどでダンジョンに辿り着いた。
徒歩だと二時間かかる距離なので、“健脚”のおかげでかなり時短できた。疲れもほとんどない。
「改めて思うけど、便利なスキルだよな……」
汎用性が高くて助かる。
『ここから先はEランクダンジョンです。侵入しますか?』
「はい」
『ご武運を』
いつものやり取りをして、結界を通り抜ける。
「ここが“叢雨の湿原”か……」
資料で読むのと実際に見るのとでは大きな違いだ。
うっすらと霧がかかり視界が悪く、肌に湿気が張り付く。背の低い植物が多く、藪や蔓が群生している。
土はぬかるんでいて、油断すると足を取られそうだ。
「これは、人気がない理由がわかるな」
道も狭くて足場が悪い。戦闘に不向きなダンジョンだ。
ジメジメしていて気持ちも良くない。
「まあ、俺には都合がいい」
フードを被って、歩みを進める。
「“健脚”“大牙”“吸血”“鋭爪”」
足に、口に、手に、森の魔物たちの力を宿す。
今のところ、全てのスキルを同時に使っても問題なさそうだ。あまり長く使用していると疲れてくるが、一度や二度の戦闘では困ることもない。
「シャー」
「ウェランドスネーク!」
ウェランドスネークは、人間を丸呑みできるほどの巨大なヘビだ。
牙には麻痺毒があり、噛まれれば動けなくなる。麻痺してしまうと、あとは丸呑みされるのを待つだけだ。
「魔物が状態異常中心なのも、不人気の理由だよな……」
「シャァアア」
ウェランドスネークが地面を素早く這って接近してくる。
スネークは藪の中でも構わず移動できるのに対し、俺の行動範囲は狭い。そのうえ、慣れないと蛇行する動きは先読みしづらい。
「噛まれるのだけは回避しないと……一応、解毒剤も買ってきたけど使わずに済むならそれに越したことはない」
スネークは牙を剥きだしにして、俺に跳びかかった。
牙からは紫色の液体が滴っている。
「どっちが先に喰うか、勝負だ」
“鋭爪”を構え、迎え撃つ。
五指から伸びた爪は、まるでナイフのように長く、鋭い。昨日フォレストラビットに試した時は、ひと撫でで首を切り落としたほどだ。
攻撃手段が“大牙”しかなかった俺にとって、非常に有用なスキルだ。
「遅えよ」
「シャ!?」
横にステップして回避。俺の横を通り過ぎていくスネークに、すれ違い様に斬撃を放つ。
ヘビの横顔に五本の爪痕が刻まれた。だが、まだ浅い。
「シャァア」
スネークは、すぐに戦術を切り替えてきた。
突進した勢いのまま、今度は俺を囲うように身体を捻る。尾が俺に絡みつき、一気に締め上げた。
「……っ!」
慌てて跳躍しようとする。しかし、ぬかるみに足が沈み、あまり跳べなかった。
瞬く間に、スネークの身体に閉じ込められる。締め付けが強くなり、骨が悲鳴を上げた。
「シャー」
勝ち誇ったように、舌をちろちろと見せた。
「いいのか? 腹を俺の目の前に出して」
悪いが、俺のメインウエポンはスネークと同じ牙だ。
口を大きく開けて、剥きだしの腹に噛みついた。
『スキル“ウェランドスネークの毒牙”を取得しました』
おお、牙のスキルが一つ増えた。
すぐさま発動する。
「シャ!?」
スネークは慌てて俺を殺そうとするが、もう遅い。
自分の毒でも有効だったようで、俺の牙から注ぎ込まれた麻痺毒がスネークの身体を侵し、身体の自由を奪った。
「ふう……。結構危なかった……」
さすがEランク。森とは比べ物にならないほど強力な敵だ。
スネークにトドメを刺し、口元を拭う。
「ごちそうさん」
こうして、初戦は無事勝利を収めた。
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