第4話 帰還
それから、何匹かフォレストラビットを倒した。
いくつか分かったことがある。
まず、取得できるスキルは、魔物一種類につき一つまで、ということ。
どこの部位を食べても、新しいスキルを取得することはなかった。
代わりに。
『“フォレストラビットの健脚”がLV4に上がりました』
同じ魔物を喰らうとスキルのレベルが上がる。
フォレストウルフは一匹で三まで上げることができたが、ラビットは一度目の捕食で絶命してしまうため、四にするまでに八匹必要だった。
最初の予想通り、スキルを取得するためには魔物を生きたまま喰らう必要がある。
そのため、死んでしまうと食べても意味がないのだ。
「レベルが上がると性能も上がるみたいだ」
大牙は鋭さや硬さが。
健脚は跳躍力や走力が。
細かく調べたわけではないが、体感では強化されている。ギフト特有の感覚で、なんとなく分かるのだ。
「なら、なるべく高くしたほうがいいよな……。最大がいくつなのか知らないけど、高くて損することはないはず」
“フォレストラビットの健脚”を手に入れたことで、狩りの効率が大幅に上がった。
ウサギのような瞬発性を発揮し、木々が並ぶ複雑な道でも素早く動くことができるのだ。そして、跳躍することで一気に距離を詰めることができる。
捕まえた後は“フォレストウルフの大牙”の出番だ。
鋭い牙で皮を破り、肉を食いちぎる。
昨日までだったら考えられない活躍だ。
問題と言えば、生肉が非常に不味いことくらい。でもスキル強化のためなら我慢できる。
「俺が魔物を倒せるようになるなんて、嘘みたいだ」
でも、嘘なんかじゃない。
万年最下位の俺は、ようやく戦う術を得たのだ。
「せっかくだからもっと狩りたいところだけど……」
枝葉の隙間から差し込む夕焼けを見る。
「日が暮れたら危険だ。今日のところは帰ろう」
フォレストラビットを狩りながら、薬草も採取してある。移動速度が上がったおかげで、容易く目標を達成することができた。
「おっ、転移門だ」
『ダンジョンから脱出しますか?』
「はい」
ダンジョンには各所に転移門という、ダンジョンの外に瞬時に脱出できる門が存在する。
これも旅神イイーリクが作ったものとされていて、動かすことも破壊することもできない。
蔓でできたアーチのような門を潜ると、景色が一瞬で変わった。
入った時と同じ場所だ。夕焼けに照らされた街道が、真っすぐ迷宮都市まで伸びている。
「こんなに清々しい帰り道は初めてだ」
その分、疲労感もいつも以上だけどな。
一時間ほどかけて街道を歩き、迷宮都市に辿り着いた。
迷宮都市は高い外壁と堀に囲まれていて、全部で八つある跳ね橋のどれかを通らないと中に入れない仕組みだ。
夕方はダンジョン帰りの冒険者で混雑するので、列に並んで順番を待つ。
「なんだあれ……」
「気持ち悪い」
「言ってやるな。ケガでもしたんだろう」
なんだろう、みんなが俺を見ているような気がする。
いや、さすがに自意識過剰だ。少し強くなったからって調子に乗るものじゃないな。
「おい、止まれ」
前の冒険者に続いて門を通ろうとしたが、門番に止められた。
「お前、どこに行っていた?」
「え? “白霧の森”ですけど……」
「その血はなんだ」
初老の門番に指を差されて、ようやく周囲の視線の意味がわかった。
生きたまま魔物に噛り付いていた関係で、首から腹に掛けて返り血まみれだったのだ。口元は拭ったものの、ここまで気が回らなかった。
普通、魔物を剣などで斬ってもこういう汚れ方はしない。
まるで生肉を喰らったかのような……まあ、それは事実なのだが。
「えっと、これは……」
魔物の肉を食べたからで……そう答えようとして、言葉が詰まった。
“魔物喰らい”のギフトは、周囲にはほとんど話していない。魔物は旅神イイーリクの教えによると人類の敵なので、あまり良い顔をされないからだ。
ましてや、生きたまま喰らって能力を得るなど……。門番にどう思われるか分からない。
「その、フォレストウルフの解体に失敗しまして」
あはは、と笑って腰袋から鋭利な牙を見せる。
門番は訝し気に目を細めたが「よい。通れ」と許可してくれた。解体が下手な奴、くらいに思ってもらえたと思う。いや、どんな失敗したら胸まで血だらけになるのかわからないけど。
「ギフトの効果は隠しておいた方が良さそうだな……」
魔物の牙を持ち、魔物に食らいつく。そんな人間がいたら、普通に怖い。
うん、俺なら絶対距離を取る。教会に知られたらどうなるか分かったものじゃない……。
「せっかく戦えるようになってもソロか」
口では残念そうに言いながらも、俺の気分は高ぶっていた。
やっと強くなれる。
明日の冒険者ランキングが楽しみだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます