戦い終わった陛下とクロエ。それと爺
翌日。
爺とバルドが城の中庭を並んで歩く。
城のなかに作られた中庭は、木や季節の花々が綺麗に彩り、いつも綺麗に整えられている。
職人たちが丁寧な仕事ぶりを披露する姿を、バルドは満足そうな顔で眺めていた。
「まさかあのクロエが独断で動いたなどと聞いた時は、それはもう驚きましたとも」
「ああ、まったくだ」
「しかしそのクロエ達の活躍によって犯人を捕らえ、放火事件も無事解決。これで城下の民も安心でございますな」
あの後すぐ、売りに出されようとしていたエルフ達は、影追人達の手によって解放された。
住まいが焼かれ戻る家もない状態であったが、バルドの命により一時的な保護の後、新たに住まいが用意されることは今朝方すぐに決定されたことである。
再開発を担当していたボストロは中庭にて処断されたが、放火を指示した容疑だけでなく魔獣密輸の罪で爵位剥奪。屋敷と財産は全て没収され貿易商のエイチゴも同罪となった。
そして再開発計画は、計画そのものが見直されることとなった。
「しかし、余が城下に降りることを許してくれるとは思わなかったぞ」
それはつい先程、爺から言われたことだ。
だが、それを言い出した爺の顔は、なんとも複雑な顔のまま。
「それは今でも反対でございます。ですが……」
爺は、呆れるように諦めのため息をつく。
「そう言ったところで、陛下はお止めにならないでしょう」
爺の疲れ切ったような言葉に、バルドも思わず苦笑いが零れる。
「毎度毎度隠れて城下に行かれて、その度に心配していたら……この爺の心臓が持ちませぬ」
「それは、なんというか……すまんことをしたな」
「ええ、ええ本当に……どうせ陛下が折れることはないのですから、老骨の私が折れることにいたしましたとも」
「ありがとう爺、感謝するよ」
「ですが!」
今まで呆れていた爺が、突然力強くバルドに迫る。
「くれぐれも、くれぐれもっ! 政務を滞らせることのないよう。政務には陛下にしかできぬことはあるのですから」
「わ、分かっている。今までだってそうしてきただろ……」
「それと……クロエ!」
爺がどこへともなく呼びかける。
すると、柱の陰から音もなくメイド姿のクロエが現れた。
「はっ、ここに」
「陛下も一人になりたいこともあるでしょう。しかし、お側と言わずとも影には必ずクロエを置き、すぐに城と連絡がとれるようしてください」
「つまり、それは……」
今までとなにも変わっていない。それが爺の諦めの境地からきたものなのか、それとも爺の心遣いなのか。
バルドは、あえてそれを言及しようとは思わなかった。
「よいですね。必ず、必ず! お約束ください。でなければ……」
「で、でなければ……?」
「たとえ陛下といえど、玉座に縛り上げてでも城外に出ることは許しませぬ! この爺の命に賭けて!!」
などと力説しながら、縛り上げるような動きを見せる爺。
その姿に、思わずバルドも笑い声を上げてしまう。
「まったく爺は心配性だな」
「誰のせいでございますか、誰の」
「ハハハハハッ!」
中庭に笑い声が響く。
そんななかでふと目を向けた先、確かにバルドは見た。
「――――フッ」
傍で控えるクロエの口から、ほんの僅かな微笑みが溢れ落ちるのを――
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