エルフを救った陛下

「クロエ、どうだ?」

 

 バルドが馬車を制圧したクロエと数名の影追人達の元へと駆け寄ってくる。


「捕まったエルフ達は眠らされているようですが、全員無事でございます」

「おお、そうであったか」


 帝国の港は広大だ。

 何十隻と停泊する船に、無数の倉庫。その中から攫われたエルフ達を一晩で探し出すのは、不可能と言ってもおかしくない。

 しかし、クロエ達影追人達はそれをやってのけた。


「他の影追人達によって、既に搬送先の船も特定、制圧を終えております」


 僅かな人数と少ない時間。そんな制約の中で彼等は持ち前の探索能力をフルに使い、僅かな痕跡を見つけ出し潜伏先の倉庫と、船を特定に至ったのだ。

 これが衛兵達だけではもっと時間がかかったことだろう。

 まさに、彼等影追人だからできたことだ。


「ここのエルフ達同様、船に乗せられた者達も全員無事とのことです」

「間に合ったか……本当によくやってくれたクロエ、それに皆の者も」


 称賛を送るバルドであったが、クロエの表情に喜びの顔はない。

 それは、いつものような冷淡な反応とは些か違う意味があった。


「陛下の御懸念の意味、ようやく私にも理解できました……」


 クロエ達が制圧した倉庫と、船。

 そこから、既に持ち主は特定されている。

 その名を彼女は淡々と報告した。


「…………やはり、そうであったか」


 それを聞いたバルドの表情は複雑だった。

 しかし、その顔もすぐに引き締められる。

 

「事後処理は衛兵に引き継げ。余は――」


 行かねばならないところがある。

 そう告げて歩き出そうとする。

 しかしその足が、一瞬立ち止まる。

 そして背中越しにその名を呼んだ。


「クロエ」

「はっ」

「ついてまいれ」

「ははっ」


 クロエの短い返事と共に、バルド達は闇の中へ足を踏み出した。


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