陛下、星々の下で決意を抱く


 それからすぐのことだ。

 城の衛兵が男爵の屋敷へと雪崩れ込んできた、どうやらクロエが事前に城へと通報していたらしい。

 しかし、その場にバルドの姿は既になかった。

 あの場に皇帝である自分がいても、余計に混乱を招くだけである。


(それに、こんな騒ぎが爺に知られたらまた面倒なことになるしな)


 近くの屋根へと上り、見下ろす様に屋敷の様子を伺っていると、踏み入った衛兵達によってアカネは無事保護されたようだ。

 倒れて意識のない男爵とバイヤー、傭兵達も連行されていき、屋敷の中から着服したポーションなども出てきている。

 これで、彼等は言い逃れも出来ない。

 たとえ相手が貴族といえど罪を犯せば裁かれる。彼等の処分は皇帝自らが裁かずとも、法が裁いてくれるはずだ。

 バルドのいる屋根の上には、他に誰の姿も見えない。ただ夜風だけが吹き抜けていく。しかし、バルドはまるで誰かに語りかけるように呟きだす。


「余は、大きな勘違いをしていた」


 魔獣の侵攻を退け、この世界は確かに平和になった。

 荒れに荒れた国も立て直され、今では見事に復興を果たしかつての輝かしさを取り戻しつつある。

 しかしそれは、表面上だけのこと。

 魔獣が討伐され平和になったとしても、悪そのものが消えるわけではない。

 悪事を働くのは魔獣だけではない、人の欲こそが最も恐ろしい悪となる。

 世界がどれだけ平和で豊かになっても、闇で弱者が泣く世界では、今までとなにも変わらない。


「決めたぞ」

 

 バルドは決意を声に出す。

 

「たとえ魔獣を倒しても悪はまだ蔓延ったまま。この平和の世で、弱者をいたぶる悪党共を余は断じて許さない」

 

 星々の光の下で、誓う様に拳を掲げる。


「そして誰も泣くことのない真の平和を――必ず作ってみせる」


 その目は力強く、まだ見ぬ闇と悪を確かに貫いていた――


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