悪党どもがほくそ笑む
城下の一画にあるとある高級料亭。
月明かりが照らすその中庭に年若い女性達が数名、店には似つかわしくない強面の男が二人。
男達は交渉するように話をし、女性達は縄でお互い繋げられるように縛られている。しかし彼女達は騒ぎ立てようともしない。
「では確かに、お預かり致しました……ほら、さっさと歩きな」
男の一人が、乱暴な口調で縄で繋がれた女性達を連れていく。
女性達は抵抗もしなかった。声を上げる素振りも見せない。
彼女達も決して望んだことではない。それでも連れて行かれるしかなかった。
借金返済のために物のように売られた場所――娼館へと。
「へへっ、ほんとこりゃいい商売ですな」
金貨のギッシリ詰まった袋を両手で抱え、男が中庭から料亭の個室へと戻る。
席へと着くと、用意されていた酒へと手を伸ばしクイッと一杯。
「ポーションを売って一度、薬で抱えた借金の片に、若い娘を娼館に売り飛ばして二度。ふふっ、普段以上に酒が美味くなりますわ」
普段酒場で飲むような薄まった安酒とは違う、雑味のない酒の味が一仕事終えた体に染み渡り、唸るような声が上がる。
「それもこれも、マグルート男爵様のおかげです」
「ふふっ、当然だ」
その対面に座るマグルートと呼ばれた男に酒を注ぐ。
男爵という地位を象徴するように、彼の腹は突き出るような大きさだ。太ましい体と脂ぎった顔の中年男性、貴族らしい煌びやかな服と手にした多くの宝石達が眩しいほどの光を放っている。
「大戦が終結し、世は平和となった。しかしいいことばかりではない」
注がれた酒を一口で飲み干し、腹で響かせた野太い声で男爵は語る。
「かつて儂がそうしたように戦果を上げてのし上がることも難しくなったもの。これから先、より高い地位につくためには、別な力がいる――そう、金だ」
「うちらみたいなケチなチンピラから見れば、流通官って役職も十分なもんだと思いますが……それよりも更に上をお目指しになられているのですね」
もちろんだ、と笑みを浮かべるマグルート。
「こんなちんけな役職からさっさと抜け出すために、ばらまく金が必要だ。力を得るのに手段は選ばんさ」
「その暁にはぜひに、我らも家臣に」
「ああ、もちろんだとも。儂が用意したポーションをお前達バイヤーが巷で売り捌いてくれるから今の関係はある。お互い持ちつ持たれつよ。ハッハッハ!」
二人の間で笑い声が木霊する。
「ところで……そこの者達はどうした?」
「ああ、すみませんお見苦しいものを……」
マグルートが部屋の片隅に目を向けると、三名の男達が立たされていた。
しかしその顔と体には所々に傷が見える。アカネの家にやってきた連中だ。
「次に回収する予定の家で、少々やらかしたみたいでして」
「ほほう……そこの娘は随分と気が強いらしいな」
「ええ、まあ……」
「いいだろう。その娘は儂が買おう」
「マグルート様、自らですか」
バイヤーの男は驚きながらも、少々怪訝な表情を浮かべる。
「そりゃあ男爵様は娼館に売るよりも高く買っていただけるので嬉しいですが……あの娘、自警団にも入っていてかなり腕の立つじゃじゃ馬ですよ?」
「それがよいのではないか」
マグルートが、ニチャアと口元を歪めていく。
「そういう娘を屈服させて快楽の淵に墜とす。それがよいのではないか」
「お好きなことで。やはり力ある御方は違いますな」
「ふっふっふ……それも全ては、この帝国お墨付きのポーションのおかげよ」
マグルートは手元に置いたそれを眺め、不敵に笑う。
ポーションの澄んだ水色が、僅かに揺らめいた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます