その22

 幸いにも吹雪は夜明けまでに止み、翌日には警察が到着した。実行犯のオッサンと、共謀していた花子夫人が逮捕されたことで事件は一応の解決を見せたが、現場検証やらなにやらのために、おれと先生はもうしばらく足止めを食うことになってしまった。おかげで、答え合わせをする時間はたっぷりあった。

「太郎氏殺害の実行犯は、先生がキッチンで絞め落とした男ってことですよね。天井裏を這ってたのもあいつってことで」

 そう言うと、先生は「当たり前のことを聞くなよ」と返してきた。幸い、この程度の嫌味には慣れっこになっている。おれは続けた。

「花子さんがおれたちの前でアリバイを作ってる間に、男が太郎さんを殺した。誰かに罪をなすりつけるつもりがあったかはわかんないですけど……」

「俺も知らん。あえて考えるなら、外部犯の仕業ということにでもしたかったんじゃないかな。急に雪がひどくなってきたもんだから、そういうわけにもいかなくなったが」

「運の悪い話っすねぇ」

「お前に言われたくないだろうがな」

 まぁ、おれも色々あって先生のところに流れ着いたからな……しかしそれを言うなら、先生だって決して運がいい方ではないと思うのだが。

「先生はいつ、あの男が犯人だって気づいたんですか?」

「太郎氏の遺体を発見したときに、邸内にもう一人いるなとは思った」

「早くないすか!?」

「物音が一人分多かったんだよ。呼吸音とか足音とか色々あるだろ。おまけにお手伝いさんが殺されたんで、家族以外の誰かが実行犯だと断定していいと思った」

「顔を見られたから殺したってことですか?」

「そう、たまたま出くわしたんだろう」

「しかしあの男、やっぱりアレですかね。花子夫人の……」

「彼女のリアクションから察するに、あれが『好きだった別の男』だろうなぁ。そしておそらく、二郎氏の遺伝上の父親だろう」

 一郎氏が持ち出し、二郎氏が保管していた封筒の中身は、DNA検査の鑑定書だった。そこには太郎氏と二郎氏の間に血縁関係がないという検査結果が記されていたのだ。

 太郎氏が親子関係の有無に気づいていたことを、花子さんがどのタイミングで知ったのかはわからない。ともかくこのことが明るみに出れば、山中グループ総帥の後継ぎ問題どころの話ではなくなってしまう。花子さんは離婚され、この家を追い出されることになるかもしれない。そうなる前に太郎氏を殺害し、妻として財産を相続したかったのだ。

 さらに一郎氏が亡くなっている以上、太郎氏の死後、グループ総帥の座は二郎氏に回ってくる可能性が高い。そうなればますます甘い汁を吸うことができると考えたのだろう。もっとも実際の二郎氏は、真実を知ったところで、母親や実の父親と一緒になって私腹を肥やすことはなさそうに見えるが……。

「しかしあれだなぁ。そういうことなら、お手伝いさんはほんとにたまたま犯人と遭遇しただけってことですよね? 完全に巻き添えじゃないですか。気の毒だなぁ」

「彼女が一番運が悪かったな。まぁ、日頃の行いが悪かったということで」

「え?」

「遺体のポケットに貴金属やらなにやら色々入っていたらしいぞ。邸内のものを盗んでいたんだろう」

「ああ! それで先生の類友センサーが反応してたんすね」

「だから何だそのセンサーは! 彼女が動くたびにチャラチャラ音がしてたんだよ!」

 額にチョップを食らった。痛い。

「と、ともかくこれで一件落着ってことですよね」

「お前なぁ、一番重要な問題がまだ残ってるだろ」と、先生がもう一発チョップをくれた。「そもそも俺たちは、どうしてこの屋敷に呼ばれたんだ?」

「あ」

 忘れていた。一郎氏の部屋で奇妙な声がする件が、まだ片付いていなかったのだ。

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