その21
「皆さん! 終わりました!」
突然キッチンのドアが開いて、先生が顔を見せた。結界を張るのに気を取られている間に、いつの間にか物音が止んでいたのだ。
髪と着物がやや乱れているが、先生はケロッとして襟元を繕ったりしている。あのバタバタしていたのはなんだったのだろうか? ポルターガイストの演出にしてはずいぶん派手だったが……。
「おお、ということは犯人がわかったのじゃな!?」
ミツヨさんが上ずった声を上げる。
「わかりました」
おお〜! という声が上った。ということは今から犯人当てか? 推理小説でいえばクライマックスだ。おれも思わずわくわくしてきてしまう。
「犯人は……この人です!」
そう言って先生が指さした先には……めちゃくちゃに散らかったキッチンの床に倒れて意識を失っている、見知らぬ男の姿があった。
いや、誰だよこのオヤジ!! どこから出てきたんだ!?
「え……誰?」
二郎氏が心底不思議そうな顔で言った。知らないのかよ!
まさか、まったくの第三者の仕業だったのか? おれたちが突き止めた動機らしきものは? これまで行ってきた情報収集の意味は……いったい……。
「てか先生犯人捕まえたの〜!? やばくない!?」
「ははは、なんとかなりました」
「霊能力で!?」
「ええまぁ、霊能力で」
たぶん例によって例のごとく普通に暴力だと思う……あのバタバタはこの男と格闘していた物音に違いない。
おれは一郎氏の部屋の天井裏にあった、何者かが這った跡の事を思い出していた。天井裏を伝って移動していたのは、おそらくこの男だったのだろう。さっきもキッチンのどこかにこっそり潜んでいたのに、先生だけはおそらく音で気づいていたのだ。降霊術を装って一人になったところで、何だかんだ言っておびき出したのだろう。本当に制圧してしまえるのがすごいところだが……。
とにかく、犯人を捕まえることができたのならめでたしめでたしだ。一応は事件を解決に導くことができたわけで、これならおれたちがインチキ呼ばわりされることもないだろう。あとは警察が到着するまでこのオッサンを拘束しておけばいいのだ。
いやしかし、このひと本当に誰?
「この男、空き巣か何かでしょうか?」
二郎氏が男をまじまじと眺めながら言った。「潜んでいるところを見つかって、父や佐藤さんを殺害したのか……」
「いえ、違います。佐藤さんはともかく、お父上が被害に遭われたのにはほかにちゃんと理由がある。おそらく、二郎さんにもお心当たりがあるのでしょう」
先生がそう言った途端、二郎氏の顔からさっと血の気が引いた。
「それじゃ……」
「おっと、逃げないでいただきたい」
先生のその声は、廊下に向けて放たれたものだった。
「この男性は、あなたのお知り合いでしょう?」
その視線の先には、真っ青な顔をしてぶるぶる震えている花子夫人の姿があった。
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