その8
「ん~、あたし会社のことは何やってんのかよくわかんないんだけどぉ、パパはとにかく一郎
「相変わらずモノマネ上手いっすね先生」
「まぁモノマネはともかくとして、一郎氏と二郎氏、どちらを次期社長に据えるかということについては、家庭内でひと悶着あったとみてよさそうだな」
春子さんのモノマネを止めた先生は、ギャルの霊に取り憑かれた男が突然正気に戻ったみたいに見えた。演技派なので、こういうことはやたらと器用だ。「顔だけ見ても一郎氏は父親似、二郎氏は母親似だし……というのは春子嬢の受け売りだが」
「じゃ、じゃあ、あの上品そうな奥様が、二郎氏を後継ぎにするためにふたりを殺したってことっすかね……えっ、めちゃくちゃ怖」
「おい柳、一足飛びに結論に飛びつくんじゃない。第一、一郎氏は事故死ということになってるんだぞ」
「でも事故に見せかけて、とか……」
「だから結論を急ぐなと言ってるんだ。いいか? ミツヨちゃんがおれたちに頼みたいのは、今のところ太郎氏を殺した犯人を捜すことだ。そして少なくとも後継問題に関しては、花子さんには太郎氏を殺害するだけの十分な動機がない。邪魔な長男がすでに亡くなっているんだから、順当にいけば二郎氏が山中家の後継ぎになるはずだ。だったら、わざわざリスクを冒して太郎氏を殺さなくてもいいだろ」
「そっか……それもそうですね」
「まぁ動機がまるでないとは言わん。夫婦仲はあまりよくなかったみたいだしな」
「やっぱ後継問題っすか?」
「それもあるが、そもそも花子さんには結婚前、他に好きな男がいたとかいないとか」
「ええええ! 春子さん、それわりと爆弾発言じゃ……」
「やっぱり真偽のほどはわからないがな」
先生はさらりと言ってのけた。「大体なぁ柳、一郎氏はともかく、太郎氏の件については、花子さんにはアリバイがあるんじゃないか?」
「あ!」
おれは思わず大声を上げてしまった。この屋敷に来てから、奥様はおれたちとしばらく一緒にいたのだ。すっかり忘れていた。
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