その9
この辺りで、おれたちがこの屋敷に来てからの行動を一度おさらいしておいた方がいいだろう。
おれと先生がここに到着したのは、今から二時間ほど前の夕刻のことだ。玄関で出迎えてくれたのはミツヨさんと、それから主人である太郎氏、そして花子さんだった。このとき、太郎氏はまだ生きていたのだ。
応接間に通されたおれたちがミツヨさんと話をしていると、少しして花子さんが手づからお茶を運んできた。それから何だかんだと話し込んでいる間に、朝から降っていた雪がどんどん勢いを増してきた。天候の心配をしていたところで、慌てた様子のお手伝いさんがやってきたのだ。急いで三階の一郎氏の部屋に駆けつけると、そこに太郎氏の遺体があり、二郎氏と春子さんがその傍らに立っていたのだった。
「応接間に現れたとき、花子さんは出迎えのときと同じ訪問着を着て、髪型も整えていた。直前に人ひとりめった刺しにしてきたにしては、些かきちんとしすぎているように思えるな」
そういえばそうだった。高級クラブのママさんか? というくらいビシッと決めて現れたので、おれは内心(先生を見に来たな……)と思ったものだ。ご存じのとおり先生はインチキだが、見た目はかなりいい。今すぐ映画に出演しても大丈夫そうなくらいよろしい。当然モテる。
「春子さんはその間ひとりで自室にいたらしいから、彼女に関してはアリバイなしだな。二郎氏の方はよくわからないが……」
「そういえば先生、二郎さんとは話してないんすか?」
「あいつ、絶対俺のこと警戒してるだろ。面倒なんだよそういうの」
うん、まぁ、それは先生が胡散臭いからでしょうね。たぶん。やっぱり二郎氏には経営者の素質があると思う。少なくとも、人を見る目はありそうだ。
「何か二郎氏の弱点がわかれば、そこをつつくんだが……」
思わずいやらしいなぁ、とぼやきそうになって、慌てて口をつぐんだ。
「そ、そういえば先生、ミツヨさんとは改めて話してないんですか?」
「話が長くなりそうだからな……下手すると太郎氏のことまでナントカの祟りと言い出しかねん。そういえばさっきのお手伝いさんにも会ったが、彼女はまだここに来て日が浅いようだな。この家の人間関係にはあまり関わりがなさそうだ」
「じゃあ、シロですかね」
「この人もなんとなく胡散臭い気がするんだがな……」
「出た、先生の類友センサー! 気をもたせないでくださいよ!」
「おい、類友ってどういう意味だ?」
まずい。絞められる。
幸運なことに、ちょうどそのとき客間のドアがノックされた。
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