その7
「先生ぇー! どこに行ってたんすか!?」
部屋に戻ってきた先生に、おれは思わず駆け寄ってしまった。先生は「うるっさいなお前は!」と言っておれの頭をはたいた。
「耳元ででかい声を出すな! 商売道具だぞ! 暇だから聞き込みに行ってたんだ」
「あのあのあの幽霊出たんすよ! 声がしたんですよ絶対! いますよ幽霊!」
「だからうるさいっつってんだろ!」
もう一発おれの頭を平手打ちして、先生は「あのなぁ、幽霊なんかいるわけないだろ」と、霊能力者として最も言ってはならない台詞を吐き捨てた。
「柳、それでも俺の助手か? 幽霊なんてものはいない」
「で、でもですね」
「後にしろ。部屋撮ってきたか?」
おれのスマートフォンを奪った先生は何度か動画を再生し、「ふーん」と何かわかったようなわからないような声を出した。
「ど、どうです?」
「まぁ、いかにも一郎氏の部屋って感じだな」
それだけ? それだけなのか? おれの努力は報われたのか?
「ていうか先生の方はどうだったんすか? その、聞き込みは」
「とりあえず奥様の花子さん、それから末っ子の春子さんと話してきた。短時間だから軽くだが」
さっきのソファに戻った先生はそう言って、冷めたコーヒーを啜った。
「あくまで俺の見たところだが、花子さんの方はちょっと胡散臭いな。太郎氏だけじゃない、息子の一郎氏の死についても、あまり堪えているという感じがない。あくまで印象だが……」
「先生、嘘くさい人見分けるの上手いっすもんね」
やっぱり同類だからかな、と言ってしまうとロクな目に遭わないので、おれは黙って飲み残しのコーヒーを飲んだ。冷めてもやっぱりうまい。
「春子さんもどうもフワフワした感じでな……もっとも、彼女はあれが素なのかもしれないが。まぁでも、こちらの方はよっぽどおしゃべり好きらしくて助かった。真偽はともかくとして、色々聞かせてもらったよ」
さすがコミュ強、しかも面のいいコミュ強は違う。
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