獣達の挽歌 Chapter.6
散々、明るい環境に目が慣らされていた!
だからこそ、いきなり陥った暗闇は改めて深く吸い込む!
現状にして思い起こせば、途中から屋内照明が常灯化したのは、
ともあれ辺りは視線を貪欲に吸収し、冴子は気配察知に依存した応戦を
「ったく、あの
暗闇に弾けた火花が床を噛んだ!
当てずっぽうではなく、鋭敏に気配を感じとればこそ……だ。
つまりは、
が、優に
ともすれば、
「ま、当然か」と、軽く自嘲。
そうでもなければ、こんな罠など敷きはしない。
(……ったく、どんな〈獣人〉よ?)
視認してはいない。
(夜目が利く……
物音を忍ばせようとも、そのぐらいは気配で察知できる。
(……段々見えてきたかな?)
視野の話ではない。
相手の
「ウオォォォーーーーーーッ!」
野人の猛り!
その巨拳は流動に空気を裂き、
「かはっ?」
重い苦悶を吐き漏らしながらも、瞬間的な後方跳躍を離脱慣性に加味するラリィガ!
自発的な防御であった。
下手に踏み止まれば、砕骨重傷は
ともしても、衝撃は凄まじい!
宙を泳ぐままに、背中から壁へとめり込ませられる!
「ぐはあ!」
「ぅ……ぁ……」
崩れ落ちる
その無様さを眺めながらも、野人に優越は無い。
醒めた
「愚かな……実力差も嗅ぎ取れないとは。無謀──
緩和されていく殺気。
「
巨拳の痛みを余韻に噛み締める。
「……しかし、分からんな。何故オマエは、
沈む肢体に返事は無い。
「いくら〈
いつしか虚空を仰ぎ眺めながら、
自問のように……。
遠き吐露のように……。
「なればこそ〈怪物〉と生まれ変われた
浮かび
回顧の
初めて知った生殺与奪の快楽……。
悪徳と
追われし流浪の始まり…………。
──トレイシー、この〈魔法薬〉が完成すれば……。
消え失せろ! 過去の亡霊が!
「もはや〈怪物〉は〝迫害されし弱者〟ではない! 旧暦から一転した〈強者〉だ! 絶対的な〈強者〉なのだ! もはや〝人間〟ではない!
返事は無い。
だから、巨獣は
「
向かうべきは〈ブルックリン区長〉の
早々に加勢してやりたい。
と──「下らない……」──背後からの
振り向けば、死に体が起き上がっていた。
「弱者とか強者とか……下らないんだよ」
「キサマ?」
「その先に
よろめきを殺して立ち上がる。
フラつく体幹は、
「バッフィーは言っていた──この世総てのものは、
「
「生きとし生けるものに敬意を示せば、彼等は敬意を持って答えてくれる!」
気概に吼え返すは〈アラパホ族〉の訓示!
「異端視に拒絶する!
思い出す!
思い出してしまう!
その
──この〈魔法薬〉が完成すれば、人々を……。
消えろ消えろ消えろ消えろ!
もはや〝良心〟など無意味!
免罪符にもなりはしない!
それが〈
「
「アイツは〝痛み〟を知っている……例え相手が〈怪物〉であろうと、内に秘めた〝
「人の痛み……だと? 我等〈怪物〉に? 下らん!」
ならば、心に生まれる波紋は何だと言う?
──この〈魔法薬〉が完成すれば、人々を救う事が……。
下らん!
下らん! 下らん! 下らん!
なればこそ、不快と
師よ!
「だから、寄り添ってやれるんだ……あの〈
よろめきを殺して立つ
「満身創痍に立って、何をするという?」
「ブチのめす……
「まだ学ばないか! 俺には勝てんと!」
「倒すッ!」
意志を定めた気合が呼気と猛った!
「ハァァァァァーーーーーーッ!」
小娘の内へ流動と集束していく気!
ラリィガは覚悟していた──
「
虚空からの雷光が、彼女の肢体を
眩い閃光は鳥と化し、帰巣とばかりに巫女の肉体へと飛び込んだ!
「何……だと?」
野獣の瞳が驚愕に見開く!
「フゥゥ……」
浄め鎮めるかのような呼気を吐き、少女は白を拡散した。
眩む霊気の鎮静に祝福されしは、初めて見る〈獣〉の姿であった!
先刻までの獣人形態を
身に逆立てる体毛は、はたして〈獣毛〉か〈羽毛〉か……。
その毛色は神々しいまでの
何よりも大きな変化は、翼だ!
その背に生まれた優美な巨翼だ!
「何だ……
「……
「な……何?」
「アンタらにも
「グゥゥ!」
静かなる威圧感を前に、野人は
無自覚に。
本能のままに。
肌で感じたのだ!
一転して強大に
その絶大な戦闘力を!
ともすれば、自分さえも凌駕する驚異であった!
「悪いが、覚悟しておいてくれ……
「ほざくなァァァーーッ! 旧暦の亡霊がァァァーーッ!」
「オオオォォォォーーーーッ!」
互いに地を蹴る!
猛りに上げる意気は、凱歌への執念か!
それとも、獣の咆哮か!
黒い湖面と静まる闇──。
暗殺獣の奇襲を見極めんと、
即座に反応できるように両手持ちの愛銃を下げ構えながらも、全身の筋肉からは緊張を解放する。
(息吹──
(来る!)
左後方からの跳躍!
鋭爪が身に触れるタイミングに同調し、右脚を軸とした回転を回避行動とやり過ごす!
それは同時に相手の背後を取る反撃体勢と転じ、好機を活かした発砲が甲高い白花を咲かせた!
(速い!)
刹那に弾丸が
獣は着地と同時の横跳びで、再び闇へと
暗殺劇は
(間合いを取ったわね……)
気配で察知する。
距離を置いた。
動いてはいる。
獲物を囲い狙うかのように、周囲を
「驚いたわね」
闇が
「何がよ?」
獲物が返す。
「この奇襲戦法で、仕留められなかった相手はいない。どうして的確に把握できるの?
「そうでもないわねぇ? 暗いトコで本を読むから★」
持ち前の茶化しで
乗っては来ない。
(会話をしたのは
冴子は含む。
思いがけないラッキーだ。
(おかげで確信できた。声の出所は上方ではない。襲撃時の跳躍以外は
考察材料は、それだけではない。
(襲撃に擦れ違う体躯は人間大──小型獣ではない。
だとすれば、先の推測通りだろう。
(──黒豹!)
それが〈ブルックリン区長〉の正体だ!
だからこそ〝闇〟を
(はてさて、どうするか?)
確かに現状は
それは〈
が、限界はある。
此処は相手にだけ有利を生む底無し沼だ。
(いずれはジリ貧……かと言って、見逃してはくれないっしょ)
考察を邪魔立てる強襲!
今度は右後方から!
「んにゃろ!」
先刻の再現
(今度は左へ逃げたか)
冴子が気配を追った直後!
「嘘でしょッ?」
すかさず右前方から飛び掛かって来る獣影!
獲物に噛みつかんとする蜜を垂らした白き牙が、赤き
条件反射であった!
が、
「
叫ぶと同時に下から突き上げる妖気!
槍のような刺突を壁とされ、黒豹は弾き飛ばされた!
ダメージを負いつつも、しなやかな空中回転で着地に成功する!
と、そのまま右方向への横跳びで闇へ溶け込む。
「……早いっつーの」
挙動観察ながらに皮肉を愚痴るも、正直、命拾いをした。
九死に一生だ。
頬を伝う冷や汗が、彼女らしからぬ動揺を証言している。
(確かに左へ逃げたはず! どうして?)
これまで以上の警戒心を……
(タイムラグも無しに逆方向から? まさか〈瞬間移動〉の魔力でも備えている?)
馬鹿馬鹿しくもゾッとする可能性に囚われる。
そんな〈獣人〉など聞いた事も出会った事も無い。
そもそも〈獣人〉の特性は〝獣化変身〟という体質そのものだ。
仮に
が、冴子の脳裏には不穏な情報が
──種々様々な〈獣人〉を傘下へ加えて、此処数年で急成長した群勢ですよ。実態は多種多様……ああ、でも最低限の共通項はあります。それは〝人間〟になれるという事。つまりは〝変身体質〟ですね。だから〈ミノタウロス〉や〈ケンタウロス〉なんかは含まれない。
ヘリコプターで襲撃してきた〝シオン〟なる〈獣人〉から得た情報である。
(最低限重視している共通項が〝変身体質〟ならば、その
先程の〈ブロンクス区長〉を思い起こした。
彼は〈魔薬〉によって変身した。厳密には〈獣人〉ではなく〈科学変異体〉だ。
それでも、こうして〈
だが、腑には落ちない。
闇暦勢力は、盟主の〝
当然である。
自己種族による覇権こそが共通した目的意識なのだから。
あまりにも雑多過ぎては、この組織の
(ま、相手は狡猾な魔性〈ベート〉だしね……常識は通用しないか)
つくづく腹立たしい相手を向こうに構えたものである。
「ねえ?」と、再び闇が問い掛ける。「さっきのは、何? 武器武装の
「伝説の〈
「……フフッ、つくづく食えないわね?」
「そりゃそーでしょうよ? 喰われる気は無いもの?」
「フフフ、本当に面白い人」
「そりゃどーもぉ~★」
「……別な形で出会いたかったわね」
「何がよ?」
「……
「やめてくれない? これから殺し会うのに……
「……そうね」
抑揚は暗く沈んだ。
それを感受しながらも、冴子は対照的な朗々ぶりを
「ねぇ? 私からも、いいかな?」
「……何?」
「〈魔女王〉は御元気かしら?」
「フランスの? 知らないわ。他国勢力の内情には、それほど興味無いし……必要になれば別だけど」
(ハイ、ありがとさん 。これで多少ハッキリしたわ)
フランスに君臨する〈魔女〉の勢力は、絶大なる〈魔女王〉の支配力によって統治された
そこの所属でなければ〈魔女〉の可能性は低い。
つまり〈魔術〉の
(無論、何事にも例外はあるけどね。例えば勢力に属さない〝はぐれ魔女〟の可能性とか……。けれど、そんな
やはり〈獣人〉──物理的な特性しか備わっていないはずである。
(だとすれば、このトリックは……)
(……はは~ん? そういう事かしら?)
少し見えた気がした。
冴子が、そう踏んだ直後、またもや再演される奇襲!
四方八方から襲い来る獣影は、休む間も無く繰り出される!
その様は、まさに矢の
持ち前の
そして、冴子は体感を
(なるほど……
(だったら、まずは
ポケットから取り出した薬球を、足下へと叩きつけた!
爆散に広がる白煙!
「な……何?
動揺を誘うのは、戦況の一転だけではない。
仮にも自分は〈ブルックリン区長〉──その程度の事で
問題なのは
鼻を鈍い
息苦しさと
いったい
「へぇ?
白い濃霧が明るい抑揚に冷徹な分析を示す。
気配は探れない。
それどころではない。
「ケホッ! ケホッ! 御試し? ケホッ!」
「ま、
「ケホッ! な……
「てれれれってれ~ん ♪ トリカブト~★」
「なっ?」
「いやぁ~〈人狼〉には鉄板の忌避素材だけど、まさか〈猫科〉にも有効とは思わなかったわぁ★ うん、こりゃ『怪物常識』に新たな
「ケホッ! あ……
「どうやら、大なり小なり〈獣人〉には効果があるみたいね。ま、そうは言っても〈人狼〉よりは効果薄だけどね……死んでくれないし」
一転して冷酷な声音。
この時、改めてスターシャは再認識した──
無慈悲に〈怪物〉を殺せる死神だ!
「ケホッ! ケホッ!」
「ケホッ! ケホッケホッ!」
狂騒する咳き込みが
白の毒霧に
「ギャウ!」
短い悲鳴!
経験から致命傷の
だからこそ、撃つ!
撃つ!
撃ち重ねる!
「ギャ! ギヒィ! ギァア!」
悲鳴が踊る!
絶命のワルツを!
やがて途絶えた憐れを
横たわるは赤に
「ぃ……ぃゃ……いや!
その様を眺める〈
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