第5話

 大叔父が住んでいたときがあった。


 祖父の兄弟はたいていちゃんとした家に嫁に行くなり養子に行くなりしていたが、末の弟だけは身寄りも無く私の家にいた。

 大叔父は曽祖母と喧嘩して家を飛び出し、都会でタコ部屋のようなところを転々としていたらしい。


 家に来た大叔父は離れに住み、家で飼った犬の面倒をよく見た。祖父母は恥さらしとばかりに大叔父の悪口を言ってばかりだった。

 あの家では、子供やペットは大人たちの感情を受け止める玩具だったのかもしれない。犬は番犬とだけで、人に噛まないということができなかった。



 私はその時保育園にいて、家族の絵を描きましょうと言われ、大叔父のことをなんと書いていいか躊躇した。


 最後に体がボロボロになって入院した時も、様子を見に行ったのは嫁である母だけだった。

 私や兄弟がこんな田舎から出たいと言っても、母が泣きそうな声で大叔父さんのようにならないで、と言って止めるのだった。


 土地に縛られるか全てを断つしか生きる道は無いのだろうかと悩んだことがある。

 家族は縛られるものかもしれない。今なら、あんなに祖父母が大叔父をいじめるなら、引き取らなければ良かったのにと考えることがよくある。

 でも、世間体もあり拒絶できなかったのだろうなと思う。

 結婚とかをしていてくれれば他所に押し付けることもできたのだろう。女が嫁に行くことを片付いたとはよく言ったものだ。息子にあなたが落ちぶれても着いてくる女と結婚しなさいと言いがちなのもこういう考え方なのだろう。

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